ケータイ用語の基礎知識
第759回:LoRa とは
2016年6月7日 12:31
IoTのためのLPWA通信規格のひとつ
IoT(Internet of the Things、モノのインターネット)とは、あらゆるモノがインターネットに接続し、タイムリーかつ自律的にデータをやり取りすることで、人が意識せずとも、快適で便利な環境を作り出す、というコンセプトを示す言葉です。
そのIoTを実現するための条件が揃いつつあります。たとえば、周辺の状況を把握するためのセンサーの登場や、センサーが得た情報を処理して表現できるだけの賢さを備えた超小型のコンピューターが安くなること、あるいは省電力化といった技術です。そうした機器により、膨大なデータが発信されると、人がわからなかった法則や事象を見いだすことができる「ビッグデータ解析」も可能になりますが、現在のコンピューターは、そうしたデータを処理できる能力も備えてきています。
IoTを実現するための要素として、モノたちが得た情報をやり取りするための手段である「ネットワーク」に関しても、IoTに向いたさまざまな規格が普及しつつあります。
IoT機器の通信のために重要なこととしては、まず「省電力」であること。それに「人の手間を煩わせないこと」が必須の条件として挙げられます。あらゆるモノで使うとなれば、常時利用できる電源を確保できるとはかぎりません。また数多くの機器がネットワークに繋がっていちいち人が通信を制御するようではコスト面で無意味なものになってします。
そこで、IoTのためのネットワークとしては、「LPWA」とい通信コンセプトがキーであると、最近認識されるようになってきました。LPWAとは「低電力広エリア」を意味する英語“Low Power, Wide Area”の略です。その名の通り、省電力で、なおかつカバーするエリアの広い無線のことです。これで構築されたネットワークのことをLPWANなどと言うこともあります。
前書きが長くなりましたが、今回紹介する「LoRa」は、LPWAの一種です。LoRaアライアンスがオープンスタンダードとして提案しています。LoRaアライアンスは米国のファブレス半導体メーカー大手、SEMTECHを中心に2015年に設立された業界団体です。IBMやZTE、仏Orangeなどがスポンサー企業として名を連ねています。
2016年6月現在、最新のLoRa WAN規格は、2015年7月に公開されたV1.0です。2016年第3四半期には修正版である「V1.01」と「V1.1」が公開される予定です。「V1.1」では、将来追加されるであろう機能の移行を容易にする「プロトコルネゴシエーション」や、ネットワークローミング機能などの仕様が追加される予定になっています。
日本では、IoT機器向けの低速・低料金の回線を提供するMVNO、ソラコムがLoRaを利用した実証実験を開始、商用化に向けた取り組みを進めていくことを表明しています。
サブギガ帯を利用した長距離・低速・低消費電力通信
LoRaという規格名は、「長距離」を意味する英語“Long Range”から来ています。少ない出力で、長い距離での通信ができるという技術です。最大8km程度という長い距離を、低い出力の電波を使ってやりとりできます。
この特長を生かして、ゲートウェイを介してIoT機器をスター型に無線接続しネットワークを構築します。機器同士が繋がりあうメッシュ型のネットワークと比べると消費電力を抑えられます。これにより「直径10マイル、10年の電池寿命」をフレーズとした長寿命通信機器を作ることができるとしています。
このLoRaの長距離通信を支えているのが、サブギガ帯の周波数と、チャープ信号を使った独自のスペクトラム拡散方式での変調です。スペクトラム拡散とは、周波数拡散とも呼ばれるもので、通信信号を広い帯域に拡散して通信する技術のことです。現在3G、4Gの基礎となっているCDMAでも使われている技術で、情報を電波に載せて送る際、送信側が信号にある特定のデータを掛け合わせて、非常に広い帯域の範囲に電波を撒いて通信します。
また、サブギガ帯とは、1GHzより低い周波数帯のことです。日本では免許の不要な特定小電力無線局が利用できる周波数帯が920~928MHzに、また米国・欧州でもそれぞれ915MHz、860MHzに同様の用途に使える周波数帯が存在します。
サブギガ帯は、Wi-FiやBluetoothでも使われる免許が不要な周波数帯の2.4GHz帯よりも低い周波数です。その分、長距離を飛び、建物などを回りこむことができます。しかし、通信には電波を送信するには「送信休止時間」を設ける必要があるなど、いくつかの制約もあります。続けて送信できないため、IoTのような機器間通信で、少ないデータを送るための周波数帯と言っていいでしょう。
LoRaの通信可能な速度は最大でも37.5Kbps程度となっています。これは、ヘッダなど通信の制御情報も含むものです。実際にIoTのためにやり取りするデータの通信速度は、8km先まで遅れるモード980bps、通信距離を短くしたモードで11000bps程度とされており、このあたりがLoRa方式での実用的な通信速度だといえるでしょう。