石川温の「スマホ業界 Watch」
povoの成功がauを変える。オンラインブランドが本家に与える好影響とは
2025年10月15日 00:00
KDDIのオンライン専用ブランドである「povo2.0」が、10月7日より新トッピングの提供を開始した。
5GB(30日間)の小容量や、60GB(365日)という長期間のトッピングが追加された。
povoを運営するKDDI Digital Lifeによれば、3GB(30日間)を使うユーザーは平均3.7GBを消費しており、追加でトッピングを購入。そこで手間をなくすため、新たに5GBのラインナップを追加したという。
また、メイン回線として使っているユーザーのうち、90日間以上のトッピングの利用者の構成比が1年半で1.7倍に拡大している。そのため、90日間以上のトッピングを拡充するに至ったようだ。
povoが登場して4年が経過するが、順調に成長しているようだ。povoといえば、基本料金がゼロ円というのが魅力だが「メイン回線として使っている人が半分、サブ回線として使っている人が半分というイメージ」(KDDI Digital Life 中山理賀COO)という。
サブ回線としてスマホにとりあえず入れているユーザーも、povoが提供する週末だけデータ使い放題などのトッピングを契約する人が増えており、ゼロ円で維持し続ける人ばかりというわけではないようだ。
ちなみに個人的には、スマホをほとんど使わない家族の回線は365日間のトッピング。自分のiPhone 17 Pro Maxはahamo回線が入っているが、30GBを使い切ったときや、ライブ配信をする際には(ドコモ回線が不安なので)povoのデータ使い放題6時間をトッピングしている。
ただ、povoでは、ユーザーが必要なトッピングを自由に選べるというメリットがある一方、「トッピングが多すぎて、どれを選ぶのが正解かわからない」という難点も抱えている。
かつて、筆者のラジオ番組に出演した濱田達弥社長は「ユーザーがどのトッピングを選べばいいかを教えてくれるAIを提供したい」と語っていた。
povoではGPT-4oやPerplexity Sonarなどが使える「povo AI」というサービスを提供しているが、将来的には「最適なトッピングを教えてくれるAI」を提供していくようだ。
povoもLINEMOもメインブランドへフィードバック
KDDIではauは「安心・使い放題」、UQモバイルは「シンプル」、povoは「パーソナライズ」というコンセプトでブランドを分けているという。実際、povoに関しては、かなり突き抜けたサービスになっている感がある。
一方、ソフトバンクも「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEMO」という3つのブランドを提供中だ。
コンシューマ事業推進統括LINEMO&Y!mobile事業推進本部本部長の有馬英介氏は「ユーザー属性という面では、ワイモバイルとLINEMOは補完関係にある」という。
LINEMOに関しては提供開始当初、「LINEを使う人向けのブランド」という立て付けであった。現在も「LINEのトークと通話が使い放題」ではあるが、そこまでLINEユーザー向けという印象はない。
最近、LINEMOに関して、コンセプトが明確ではないような印象があったため、ソフトバンクの専務執行役員でコンシューマ事業統括である寺尾洋幸氏に「LINEMOは必要か」と質問をぶつけたところ「新しい施策を導入する際、LINEMOで結構、試している。LINEMOで試して、ユーザーの反応を見ている。ユーザー規模が小さいので、影響も限定的になっている」という。
LINEMOもpovoもオンラインでの契約がメインとなるため、特にWeb上での操作性やユーザー体験が重要になる。その点、どちらもスタート時から試行錯誤を続け、オペレーション面で改善してきた点はメインブランドのWebサイトなどにも反映しているという。
サービス面において、KDDI側では「povoで24時間のデータ使い放題が好調なので、auでもやるべきだと助言してきた」(中山氏)という。実際、auブランドでも9月19日より「データ1日放題」というオプションが提供されるようになった。
また、povoではコラボトッピングが好調であることから、auブランドでもやるべきだとアドバイスしているとのことだった。
eSIMのノウハウも蓄積
KDDIもソフトバンクもオンライン専用ブランドを展開していたことで、eSIMに対しての経験が蓄積できていたというのも大きなメリットのようだ。
実は2021年の段階で、LINEMOではeSIMに積極的に取り組んできた。当時、寺尾氏は「eSIMの手続きではユーザーが初めて目に触れる言葉が多い。それらをひとつひとつ直していった。また、オートでプロファイルをダウンロードできるようにしたことで、満足度が上がった」と語っていた。
9月に発売となったiPhone 17シリーズとiPhone Airでは、eSIMしか使えないようになった。povoでは「開業当初から4年間、eSIM中心でやってきた。この1〜2カ月、需要が増えているがトラブルはない。UI(ユーザーインターフェイス)も改善し、ユーザーに苦労なく導入してもらえている。新規加入の4分の3はeSIMを発行している」(中山氏)という。
ユーザーからは、3つのブランドは「料金プランの違い」にしか見えないが、キャリア側としてオンラインブランドは「次に向けたお試しの場」という意味合いもあったりする。
メインブランドではユーザー数も多く、なかなか小回りが効かないようだが、KDDIとソフトバンクはオンライン専用ブランドを上手く活用して、全体のパフォーマンスを上げているようだ。




