石川温の「スマホ業界 Watch」

「Googleメッセージ」が日本で本格展開へ、消えるiPhone「iMessage」との垣根

 Googleは5月14日(現地時間)に開催された開発者向けイベント「Google I/O」において、同社が提供する「Googleメッセージ」の日本展開を発表した。同時にリリースを発表したのがKDDIで、同社は今後、販売するAndroidスマートフォンにGoogleメッセージをプリインしていく。ただし、現在、提供している+メッセージも残り続けることとなり、ユーザーは2つのメッセージサービスのどちらかを選択することになる。

 Googleメッセージは「RCS」と呼ばれる規格に対応したサービスだ。SMSやMMSの進化形と言われ、世界的に普及するかと期待されていたが、実際は他の国と送受信できなかったり、キャリアで独自のサービスを提供するなど、世界であまり統一がとれていなかった。実際、日本で主に3キャリアが提供している「+メッセージ」も、RCSベースと言われているが、国内に閉じたサービスとなっている。

 そんななか、RCSの使い勝手を上げようと努力してきたのがグーグルだった。同社のAndroid and Business Communications Directorであるヤン・イェンドレヨヴィッチ氏は「グーグルは世界中のキャリアと協力し、RCSのエコシステムを拡大しようと努力を続けてきた。5年前、世界中には様々なRCSがあったが、他の国とつながっていなかったり、キャリアごとで互換性がなかったりもした。我々はこれらを統合していくことで、アメリカ、フランス、日本、インドなど世界中のユーザーが同じプロトコルでグループチャットをできるようにしてきた」と語る。

 つまり、日本のユーザーも+メッセージを使っていると、海外のユーザーとコミュニケーションできないが、Googleメッセージに切り替えれば、世界中のユーザーとメッセージのやりとりが可能になるというわけだ。ただ、スマートフォン1台に対して、どちらか1つのメッセージアプリしか使えないため、Googleメッセージを選ぶと+メッセージは使えなくなるので注意が必要だ。

グーグルのイェンドレヨヴィッチ氏

 今回、KDDIはGoogleメッセージを「プリイン」すると発表している。実はNTTドコモやソフトバンク、楽天モバイルのAndroidユーザーも、すでにGoogleメッセージを利用することは可能だ。 イェンドレヨヴィッチ氏は「日本のPixelにはすでにGoogleメッセージが搭載されている。また、Playストアからダウンロード可能であり、いつでも利用することができる。ただ、箱を出してすぐ使えるという体験は重要だ」と語り、KDDIの取り組みを歓迎していた。

Googleメッセージならではの特長と機能

 日本においては、+メッセージは4000万ユーザーを抱えていると言うが、やはり、圧倒的に人気があり、人々の生活に浸透してるのは9600万ユーザーのLINEだろう。特にスタンプは、LINEを代表する機能とも言える。では、Googleメッセージにはスタンプ機能などはあるのだろうか。

 イェンドレヨヴィッチ氏は「ステッカーがあり、また『フォト文字』という機能もある。写真を撮影し、被写体をAIが切り抜き、自分だけの絵文字を作ることができる。デバイス上のAIを試用しているため、クラウドにデータはアップロードされない」と語る。ステッカーは外部パートナーと協力して、アプリに導入しているという。残念ながら、LINEのように「ストア」などは存在しないという。日本でGoogleメッセージをメジャーにさせるには、ステッカーの拡充は避けて通れないだろう。イェンドレヨヴィッチ氏は「現時点で言えることはないが、日本のユーザーが拡大すれば検討すべきだろう」と語った。

 一方、Googleメッセージならではの特長はどこにあるのだろうか。イェンドレヨヴィッチ氏は「グーグルとしてはメッセージサービスでもAIに注力している。特にスパム対策として、AIが詐欺行為からユーザーを守るよう、検出できるメカニズムを用意している」という。今回のGoogle I/Oでは「Gemini」というAIが多く語られたが、Geminiはメッセージを作成する際の支援も行ってくれるようだ。

 イェンドレヨヴィッチ氏は「Magic Composeという機能では、デバイス上のLLM(大規模言語モデル)により、メッセージ作成の支援を可能とする。Geminiに文章の作成をお願いすると、いくつかの文例を出してくれるので、それをコピペすればいいだけだ」とのことだ。

アップルのRCSの導入により、高まるGoogleメッセージの可能性

 今回、KDDIが+メッセージに加えて、Googleメッセージをプリインするという決断をした背景にあるのが、やはり、アップルの「iMessage」がRCSに対応してくるという点が大きそうだ。

 イェンドレヨヴィッチ氏は「彼らは2024年中にRCSをサポートすると発表している。それが実現するのをとても楽しみにしている。Appleの参加により、RCSのエコシステムが拡大するのは確実と言える。これはユーザーにとって喜ばしいことではないだろうか」と期待する。

 アップルは6月10日から開発者向けイベント「WWDC24」を開催予定だ。このタイミングでiMessageのRCS対応、さらに新機能などの発表が期待されている。

 これまで国やキャリアでバラバラだったRCSを、Googleメッセージというかたちで統一化してきたグーグルだが、アップルの英断により、まもなくAndroidとiPhoneの垣根が一つ、消滅しようとしているのだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。