山根康宏の「言っチャイナよ」
中国スマートフォンメーカーの2019年を振り返る
2019年12月31日 11:00
2018年のオッポ(OPPO)の日本参入に続き、2019年はシャオミが上陸するなど日本における中国メーカーの動きも年々活発化している。
その中国メーカーは中国国内でファーウェイ、シャオミ、オッポ、Vivoの4社がスマートフォン販売数の上位を占めており、毎週のように新製品が発表されたほどだった。この4社の1年間の動きを振り返ってみよう。
米中貿易摩擦に翻弄されるも強さを発揮したファーウェイ
ファーウェイの2019年はアメリカとの貿易問題に振り回された1年だった。
また2月に発表したサムスン対抗のフォルダブル端末「Mate X」がサムスンに合わせるように相次いで発売日を遅らせるなど、順風満帆な1年ではなかった。
しかしフラッグシップとなる3つのライン、「P30」シリーズ、「Mate 30」シリーズ、そして「nova 5」「nova 6」シリーズはいずれも完成度の高い製品で、市場からの評価はより高まっている。日本では米中問題のあおりを受けながらも「P30 Pro」が発売され、ファーウェイのカメラ性能の高さが改めてアピールされた。
またサブブランドの「Honor」も積極的に製品を拡大し、ファーウェイのメインラインでカバーしきれない製品が多数投入された。
ちなみにHonorの主力モデルは2017年に「Honor 9」、2018年に「Honor 10」とモデル名が繰り上がっていったが、2019年は「Honor 20」と10の位を上げた製品を投入。それに加え9シリーズの後継として「Honor 9X」も登場した。それぞれにライトモデル(中国名で「青春版」)や機能強化の「Pro」モデルもあるなど、製品数はかなり多い。
Honorのハイエンドモデル「V20」(2018年12月発売)の後継機は「V30」シリーズが2019年12月に登場し、5G対応かつ最新のSoCであるKirin 990を搭載。ファーウェイ3つのフラッグシップモデルと比べても遜色のない性能を有する。
一方2018年に発売になった、本体をスライド式としてフロントカメラを隠した全画面モデル「Magic 2」の後継機は登場しなかった。
フロントカメラを隠す動きは「Honor 9X」のポップアップ式や、ディスプレイへのパンチホールカメラの採用に置き換わっていったのだ。Magic 2はUSB端子部分が破損しやすいという不良や(後に改良品に変更)スライド式のギミックにコストがかかり、主流にはなれなかったのだろう。
ファーウェイはまた5Gスマートフォンを世界で最も多く出しているメーカーになった。2019年夏には前年秋発売の「Mate 20 X」の5Gモデル、「Mate 20 X (5G)」を中国で発売。なおイギリスなどでは発売予定だったものが見送られたものの、現在は販売されている。同製品は5Gをまだ始めていない台湾でも2019年になってから発売された。大画面かつグーグルサービス(GMS)を搭載していることで、約1年前の製品ながらも改めて投入されたのだ。
ファーウェイの5G端末を改めてまとめると、「Mate X」「Mate 30」「Mate 30 Pro」「Mate 30 RS」「nova 6」「Honor V30」「Honor V30 Pro」そして「Mate 20 X(5G)」と8機種にも及ぶ。2019年11月から中国で5Gサービスが始まったこともあり、5Gスマートフォンを積極展開することで海外市場でのマイナスを中国で挽回しようともしているのだろう。
その海外市場では米中貿易問題から9月に発表したMate 30シリーズ以降、GMSを搭載できなくなった。代わりにファーウェイのモバイルサービス(HMS)を搭載して市場に出されたが、元々GMSのない中国市場以外ではMate 30シリーズの販売は苦戦している。
ヨーロッパやアジアの一部国で販売されているものの、GMS非搭載なことから消費者の反応は鈍い。
HMSのアプリストア「App Gallery」にはメジャーなSNSアプリも用意されていない。ハードウェアは世界トップクラスの性能を有する製品を展開しているものの、ソフトウェア側で中国以外のユーザーニーズに応えられない状況となっている。
米中問題の状況が長引けば、中国市場に特化した製品展開を今後強いられるだろう。なお2019年9月に中国・深センにオープンした巨大なフラッグシップストアは中国市場強化の動きの一環と言える。
格安品からの脱却を図るシャオミ、5Gとカメラでブランド力アップを図る
シャオミと言えば「価格勝負」、中国ではそのイメージが強い。
特に1000元(約1万6000円)以下の製品も有する紅米(RedMi)シリーズは中国のみならず、インドや東南アジアの低所得者を中心に圧倒的な人気を誇る。シャオミがインド市場でサムスンを瞬く間に追い抜いたのも、RedMiが売れまくったからである。
一方ではハイエンドモデルも展開しているが、ハイスペックモデルを求める客はファーウェイやアップルに流れているのがここ数年の中国の状況だった。
そこで2019年にシャオミはこの紅米のブランドをメインラインと完全に分離することを決定した。中国ではメインラインは「小米」、そして格安の「紅米」と2つのブランドを使っており、同じメーカーの上位・下位モデルという区分けがされていた。ちなみに海外ではそれぞれ「Mi」「RedMi」である。
この紅米を中国でも「RedMi」と表記することとし、小米とのブランド関連性を薄めることで全く別のラインとした。これにより小米/Miシリーズはハイエンドモデル、RedMiは価格重視モデルという区別を明確にしたのだ。
7月には新しいカメラフォンブランドとして「CC」シリーズを中国で発表。製品コンセプトや開発からマーケティングまで自社の20代の若い世代が担当し、フロントカメラ性能も高めることでSNSに必須なフロントカメラも強化。
さらには2018年に買収したセルフィースマートフォンメーカー、Meituの名前を冠したモデルもラインナップに加えた。これによりシャオミが不得意とする女性ユーザーを引き込もうという計画だ。
9月にはディスプレイが前後を覆うコンセプトモデル「Mi MIX Alpha」を発表し世界をあっといわせた。中国でも大きな注目を集めているが、これもRedMiを切り離したことでシャオミの技術力がしっかりと消費者に理解されたことの表れだ。Mi MIX Alphaは世界初の1億800万画素カメラも搭載し、「小米 / Mi」シリーズの中でも上位機種となる「Mi MIX」シリーズの認知度を高める結果にもなった。
同じ9月には中国向けに初となる5Gモデル「Mi 9 Pro 5G」を発表。Snapdragon 855+に4800万画素+1600万画素+1200万画素のトリプルカメラ搭載で3699元(約5万8000円)という価格は中国国内で当時発売・発表中の5Gスマートフォンの中でも最も安い。
さらには12月になるとRedMiからも格安5Gスマートフォン「K30 5G」が発表された。こちらはさらに価格を引き下げ1999元(約3万2000円)と、RedMiならではのコスパの高さを見せつけた。中国の5G利用者を一気に増やす立役者になるだろう。
なお1億800万画素カメラ搭載のスマートフォンの商用化は11月に発表された「Mi CC 9 Pro」(中国)、「Mi Note 10」「Mi Note 10 Pro」(グローバル)が初となった。中国ではひきつづきカメラフォンとしてのブランドで、一方グローバルではMiシリーズの大画面・高スペックモデルとして「Mi Note」ブランドも展開していることから、製品名を変えての登場となった。
海外市場ではヨーロッパへの展開を強化し、シャオミ初の5Gスマートフォン「Mi MIX 3 5G」を春にスイスなどで発売した。まだ立ち上がったばかりの5G市場で早くも海外進出を図ることで、2020年以降の海外市場でのスマートフォン拡販に弾みがつくだろう。なおシャオミに限らず中国メーカー各社は2020年には5Gスマートフォンを複数発表する予定だ。ヨーロッパに足掛かりを作ったことで、シャオミの5Gスマートフォンは今後世界各国で採用されるようになるだろう。
そして12月にはついに日本市場へ参入を発表。オンライン販売のみというスタートで準備不足は否めないものの、電気通信事業法改正と2020年の5G開始が日本への参入を踏み切らせた。しばらくは苦戦が続くだろうが、シャオミの最新モデルが今後日本にも投入される道が開かれた点は大いに期待したい。
Renoブランドでイメージチェンジに成功したオッポ
オッポ(OPPO)の2019年は「Reno」ブランドを大きくアピールし、従来モデルの成功体験を捨て去った1年だった。
オッポは中国や新興国で躍進し、その後ヨーロッパや日本にも参入を果たしたものの、同社がうたう「カメラフォン」としての性能はファーウェイと比べても一歩下のものだった。
しかしことフロントカメラ性能に関しては逆にファーウェイやサムスンを抜き業界でもトップクラス。なおここでいうフロントカメラ性能とは画質やボケではなく、「SNS映えするセルフィー」を撮る能力だ。もちろんフロントカメラの画素数は高いが、自然な仕上がりの美顔モードと合わせ、オッポを求める消費者は10代や20代の若い世代だった。
しかし2019年春に投入した「Reno」は、ファーウェイにも負けぬ高倍率ズームレンズを搭載したり、5Gモデルも用意。「Reno 10x Zoom」のカメラはハイブリッド(光学+デジタル)で10倍、デジタルのみで60倍の望遠性能を誇る。
さらには扇形のように本体上部からモーターで繰り上がるフロントカメラも搭載。真の「カメラフォン」を目指した。本体背面はカメラの出っ張りが無く、机の上に置いた時にカメラに傷のつかないような小さな突起「O-Dot」を埋め込むなど、製品を使い続けるユーザーのこともしっかりと考えた設計になっている。
Reno 10x Zoomの5Gモデル「Reno 5G」はシャオミに先駆けてスイスで販売となり、ヨーロッパ初の5Gスマートフォンとなった。
その後はイギリスやオーストラリア、UAEなどでも販売になっている。日本では楽天が7月末に開催した「Rakuten Optimism」に出展し、5Gデモも行っている。
ところが中国では5Gスマートフォンはなかなか販売されず、2019年も終わりの12月26日にようやく「Reno3」「Reno3 Pro」が発表となり、それぞれ年内に発売された。
このうちReno3はメディアテック(MediaTek)の5G対応SoC「Dimensity 1000L」を搭載した初めてのモデルとなる。この2製品は2020年中に海外の5G開始国で販売されると予想され、Reno3 Proの日本発売もありうるだろう。
なお従来からのモデルは、中国のメインモデル「R」シリーズ、新興国のメインモデル「F」シリーズはRenoに統合された。前後カメラ全体が動く「Find X」を有するFindシリーズは登場せず、Renoの上位モデルに統合されていくのかもしれない。
またミッドレンジ、エントリーモデルの「A」シリーズは製品を統合したうえで引き続き展開中だ。なお日本投入の「Reno A」はRenoシリーズとAシリーズの合いの子という位置づけだろうか。3万円台でおサイフ機能搭載という、日本市場を本気で狙おうとしている製品だ。
Aシリーズは低価格モデルも用意されているが、インド市場などで展開していた別ブランド「Realme」は別会社として分離され、オッポの製品とは別の展開を行っている。
RealmeはシャオミのRedMiが強いインドでその対抗モデルとして生まれたが、分社化することで東南アジアや中国へも販路を広げている。そしてその後はスペックアップしたモデルも生まれた。RealmeはファーウェイのHonor、シャオミのRedMiのように価格を重視しながらも独自に製品ラインナップを拡大していくようだ。
ところでオッポ得意のフロントカメラの新技術として、ディスプレイの内側にカメラを埋め込み、カメラ未使用時にはカメラ部分も表示エリアにできる「アンダーディスプレイフロントカメラ」を2019年6月に初披露された。オッポはディスプレイのフロントカメラ欠き取りを最小化した水滴型ノッチの搭載をいち早く進めたが、この技術も近いうちに商用化されることだろう。
ゲーミングモデルなど多品種展開を行ったVivo
Vivoは、2018年に投入した表も裏もディスプレイの2画面端末「NEX Dual Display」といった、飛び道具的な製品は2019年には投入しなかった。
しかし2019年の話題づくりも兼ね1月には「APEX 2019」を発表。本体に物理ボタンやヘッドフォン・USB端子と言った「穴」のない世界初のスマートフォンだ。
SIMトレイも廃止しeSIMのみに対応、外部との接続は背面の専用端子「MagPort」を利用する。あくまでもコンセプトモデルだが、物理ボタンの廃止はその後、9月発表の「NEX3」で採用。またeSIMだけというスマートフォンはモトローラが「razr」で採用予定だ。
Vivoのスマートフォンはオッポと同様、メインモデルはSnapdragon 7XX系または6XX系を採用するミッドハイレンジクラスの製品であり、Snapdragon 8XX系搭載モデルは前述のNEXシリーズなど数は少ない。
しかし中国でもハイパワーモデルを求める消費者は多い。そこで3月にハイスペックスマートフォン「iQOO」ブランドを展開開始。Snapdragon 855を搭載、ゲーム関連の性能を高めるMulti Turbo機能や本体側面の感圧式L/Rボタンなどゲーミングユーザー向けの製品である。
このiQOOは6月に5G対応版も発表。中国で発売された9月2日時点では3799元(約5万9000円)と他社の5Gスマートフォンより安かったためかなりの数が売れた。
中国メディアの報道では11月下旬時点の中国国内の5Gスマートフォンの販売台数でVivoはファーウェイに次ぐ2位だったという。12月にはSoCにサムスンのExynos 980を搭載する5Gスマートフォン「X30」「X30 Pro」も発売。オッポがメディアテックならVivoはサムスンと、クアルコム以外の5G SoCをめぐる動きもこの2社は面白い動きを見せている。
Vivoのモデル展開は年々複雑化しており、「NEX」「iQOO」「X」に加え、「S」「Z」「Y」「U」と細かく分かれている。ほぼ毎月新製品を出すことで消費者を飽きさせないとの考えもあるのだろうが、消費者に若干混乱を招いているのも事実。
中国のネット上でも新製品が出てくると「他のモデルとどう違うのか?」といった質問をよく見かける。ファーウェイ、シャオミ、オッポはブランド・製品ラインの統廃合を行いすっきりさせたが、Vivoは逆の方向に動いた1年だった。
なおVivoも3月に大型店舗を深センに開設。Vivo Labと呼ぶ店舗は外壁に巨大なデジタルサイネージを搭載し情報発信を行うほか、1階は最新モデルを多数展示ー、2階にはVivoの新技術の体験コーナーを設けた。
中国メーカー各社の2019年の動きは、アップルやサムスンの春・秋モデルの登場とは無関係に各社がタイミングを図りながら次々と新製品を投入した。
製品展開も複数のラインナップを持つことは当たり前となり、ハイエンド~エントリーモデルまでブランド区分を明確化することであらゆる消費者へ自社製品を買ってもらうと必死になっている。
2020年も各社の競争はより激化し、新しい機能や機構を持った製品が次々と生まれてくるだろう。