2009年4月7日、KDDIは同社の携帯電話サービス「au」の新ブランドとして、「iida」を発表した。iidaは端末のみにとどまらず、周辺機器にも拡げ、ユーザーのライフスタイルをデザインする商品を展開するという。午前中の発表会に続き、夜にはレセプションパーティも催されるという異例の取り組みだが、iidaブランドの発表について、筆者の得た印象などをレポートしよう。
■ auが評価されてきたこと
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INFOBAR
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一昨年の新販売方式の導入以来、劇的な変化を遂げつつある国内の携帯電話市場。携帯電話事業者はもとより、端末メーカーやコンテンツプロバイダー、販売代理店など、業界各社は大きな影響を受けているという。なかでもauブランドで携帯電話サービスを提供するKDDIは、2007年秋冬モデルから導入した新プラットフォーム「KCP+」への移行に苦しみ、4月7日に発表された電気通信事業者協会(TCA)の契約者数の集計を見てもわかるように、2008年度は純増数のシェアでも大きく落ち込んでしまった。
しかし、思い返してみれば、わずか2年半前。auは2006年10月に開始されたMNP商戦で最大の転入を獲得するなど、ユーザーからも高い支持を得ていた。このMNP商戦での好調ぶりを支えた背景にあったものとして、料金面ではいち早くパケット通信料の定額制である「EZフラット」(現在のダブル定額)を実現したこと、サービス面では「EZナビウォーク」や「EZ助手席ナビ」などのGPS関連サービス、「着うた」や「LISMO」などの音楽サービスの充実、機能やデザインに優れた端末ラインアップを展開してきたことなどが挙げられる。
なかでもケータイのデザインという点において、象徴的な存在だったのが2001年にスタートした「au design project」だろう。初代モデルの「W11K」と「INFOBAR」にはじまり、「talby」や「neon」、「MEDIA SKIN」など、印象的な端末を相次いで発表する一方、auの端末ラインアップ全体もデザイン力が強化され、ユーザーにも「auケータイ=デザイン」というイメージを与えることにも成功した。
こうしたauが評価されてきたデザイン力を柱に、新たに誕生したのが今回発表された「iida」というブランドだ。「innovation(イノベーション)」「imagination(イマジネーション)」「design(デザイン)」「art(アート)」の頭文字を取ったものだが、これまで展開してきたau design projectの先進的なデザインを発展させ、使いやすさやかわいさ、遊びゴコロ、質感、愛着、手ざわりといった要素を加えることで、ユーザーのライフスタイルをデザインすることを目指した新しい取り組みだ。
こう書いてしまうと、iidaをau design projectのリニューアル版のように捉えてしまいそうだが、発表会やレセプションの席において、KDDI取締役執行役員常務コンシューマ商品統括本部長の高橋誠氏は、「iidaはひとつのプラットフォームであり、そこにさまざまな外部デザイナーにご参加いただき、コラボレートすることで、ユーザーのライフスタイルをデザインしていきたい」と語っている。つまり、かつてiモードやEZwebが登場したとき、そのプラットフォームに多くのコンテンツプロバイダが参入してきたように、iidaというプラットフォームに国内外の外部デザイナーが関心を持ち、ケータイを中心としたユーザーのライフスタイルを創造できるようなプロダクトを提供していきたいと考えているようだ。
また、iidaのプロジェクトが興味深いのは、リリースするプロダクトをケータイに限っていないことだ。今回は充電器とMOBILE PICO PROJECTORがラインアップされているが、ケータイとあまりかけ離れた製品は難しいとするものの、音楽やスポーツなどの周辺機器もあり得るとのことで、今後は多岐に渡るジャンルの製品群への展開が期待される。ケータイに身近なところでもBluetooth対応製品などは、もっとユニークな製品が出てきて欲しいところだ。
■ G9をはじめとする第一弾ラインアップを展開
今回の発表では、早速、iidaのラインアップの第一弾として、端末や周辺機器など、複数のプロダクトが紹介された。なかには既存のケータイの範疇では考えられなかった独特の存在感を持つ製品(というより、作品)も発表されるなど、今までのケータイとは明らかに違った製品群となっている。ここでは発表会後のタッチ&トライで公開された製品の印象について、少し触れておきたい。
■ G9
au design projectの開始当初にデザインされた「GRAPPA」の2009年モデルとして、プロダクトデザイナーの岩崎一郎氏が新たにデザインしたモデルだ。基本的な構成は、現在、販売されている「Cyber-shotケータイ S001」をベースにしており、スペック的には320万画素カメラ、約3.0インチのフルワイドVGA液晶が搭載されている点などが異なる。CDMA方式とGSM方式の両方に対応したGLOBAL PASSPORT対応は継承されている。ボディはスライド式を採用しており、周囲にチタン化合物によるコーティングを施したメタルフレームが装備される。
ユニークなのはディスプレイ横に装備されたボタン類だ。通常、スライド式では方向キーなどがレイアウトされるが、4つの方向キーと決定キーを独立させ、アドレス帳キー、アプリキー、メールキー、EZキー、開始キー、クリアキー、終話キーと同じサイズで並べている。斜めの山形に仕上げられたキートップは均一に並んで美しいだけでなく、非常に押しやすい。ダイヤルキー側も同じキーを採用する。スライド式特有の段差は気になるが、ディスプレイ部側のキーの押しやすさにより、そのストレスをほとんど感じさせない。端末の動作も快適なレベルに仕上げられている。スライド式ボディはディスプレイ部側が少し長い構造で、左側面上方に装備されたLOCKキーを長押しして、誤操作ロックを設定できる。待受画面に表示される世界時計など、内蔵コンテンツも同じ世界観で統一されており、非常にクオリティの高い端末に仕上げられた印象だ。
■ MOBILE PICO PROJECTOR
G9とほぼ同サイズでデザインされた携帯型のプロジェクターだ。デザインも同じく岩崎一郎氏が担当する。G9だけでなく、春モデルのCyber-shotケータイ S001やCA001、Woooケータイ H001、昨年発売されたEXILIMケータイ W63CAやWoooケータイ W62H、G'zOne W62CAでも利用することができる。480×320ドットの解像度で、6~63インチの画面サイズに投影できる。投影距離としては25cm~2.5mなので、数名が入れる会議室や居間などで壁に投影する程度に適している。寝室に持ち込み、天井に映像を映し出すといった使い方もできそうだ。
ちなみに、こうした携帯型プロジェクターは他社からも販売されているが、iidaのMOBILE PICO PROJECTORはLED光源によるDLP方式を採用しており、他方式に比べ、映像の出力にも向いている。会場ではワンセグの映像が映し出されていたが、なかなかきれいに視聴できる印象だが、著作権保護の関係上、auならではの特徴であるLISMO Videoが出力できないのはかなり残念だ。また、底面にはUSBポートが装備されているが、パソコンのアナログVGA端子と専用ケーブルで接続でき、購入ユーザーに対し、別途、専用ケーブルが提供される。
■ Art Editions YAYOI KUSAMA
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発表会では大きなリンリンも展示されていた
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前衛芸術家や小説家として知られる草間彌生氏による『作品』が登場する。いずれもいわゆる量産品として提供されるものではなく、手作りの『作品』として、販売される。草間氏自らレセプションに出席し、詩の朗読を披露するなど、その独特の存在感や雰囲気とともに、iidaへ提供する作品に対する強い意気込みを感じさせた。
・ ドッツ・オブセッション、水玉で幸福いっぱい
箱形の置き台と端末がセットになった作品で、置き台の側面に付けられたスコープをのぞくと、無限に拡がるドットの世界を楽しむことができる。端末は写真を見てもわかるとおり、春モデルとして登場したフルチェンケータイ T001をベースにしたものだが、トップパネル側の突起などは手作りによる仕上げとなっている。
・ 私の犬のリンリン
犬の形の置き台と端末がセットになったモデル。端末は他の作品同様、T001をベースにするが、やはり、犬の置き台は強烈な存在感がある。犬の背中の部分を開き、端末を収めておくことができるが、端末を収めた状態でも充電ができるように配慮している。
・ 宇宙に行くときのハンドバッグ
草間氏ならではのドット柄を活かし、ケータイでハンドバッグの形を表現した作品だ。作品としても面白いのだが、実際にレセプションでも女性の来場者に「かわいい」と人気を集めていた。常に持つケータイだからこそ、こういう遊びゴコロが大切なのかもしれない。ちなみに、他の2作品はおそらく100万円程度になると見られるのに対し、この作品は10万円前後で購入できそうとのことで、ちょっと頑張れば、手の届くレベルだ。もっともこの3つのプロダクトが『端末』や『製品』ではなく、『作品』と考えれば、これでもかなり安いと考えるべきなのかもしれないが……。
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ドッツ・オブセッション、水玉で幸福いっぱい
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私の犬のリンリン
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宇宙に行くときのハンドバッグ
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■ misora(ミソラ)
au design projectで中心的な役割を果たしてきた小牟田啓博氏が設立したKom&Co.Designがプロデュースし、迎義孝氏がデザインを手掛けたモデル。ムダをそぎ落とし、シンプルで持ちやすく、手になじむ心地よいデザインを目指したという。blackとpinkはツートンのボディカラーが印象的だが、モックアップを実際に手に持った感触も非常に良く、幅広いユーザーが構えることなく、持てるニュートラルなスタンダードモデルに仕上がりそうな印象だ。スペックは春モデルとして登場した「ベルトのついたケータイ NS01」をベースにしており、製造も京セラが担当する。
■ AC Adapter MIDORI/AC Adapter(AO/SHIRO/MOMO/CHA)
一般的に黒が採用されてきたACアダプターのカラーバリエーションモデルで、海山俊亮氏のプロデュースによる。MIDORIのみがケーブル部分に装着できる2種類の葉が付属しており、室内でも観葉植物がケータイを充電するような演出ができる。なかなかユニークで今までになかった遊びゴコロを感じさせる製品であり、こういうケーブルなら、床や机の上に延びていても楽しいかもしれない。他の4色も自然界を意識したカラーバリエーションで、Green Road ProjectなどでECOを積極的にアピールするKDDIらしいアプローチと言えそうだ。
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AC Adapter MIDORI
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AC Adapter(AO/SHIRO/MOMO/CHA)
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■ iidaはau巻き返しの起爆剤になるか
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プレゼンテーションを行うKDDIの高橋氏
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冒頭でも触れたように、iidaの発表会が行なわれた4月7日、TCAから事業者別契約数が発表され、KDDIは2008年度は純増数で4位に甘んじる結果となった。そもそも1億契約を超える時代に純増数でシェアを計ったり、実働を伴うかどうかがわからないような契約がまかり通るような状況において、その結果がどれほどの意味を持つのかは判断しかねるが、それでもMNP直後から好調を維持してきたauにとって、4位という結果は厳しいものだったと言わざるを得ないだろう。
今回発表された新ブランド「iida」は、そんな厳しい結果を踏まえ、もう一度、auらしさを取り戻すためにスタートしたプロジェクトであり、auが本来、強みとしてきたデザイン力を柱に据え、ケータイの新しい価値観や生活の中での存在感を創造する楽しみなプロジェクトと言えそうだ。高橋常務が述べた「iidaはプラットフォーム」という言葉には、すべてのクリエイターに対して、問いかけられたメッセージであると同時に、ユーザーに対しても「iidaというプラットフォームに期待し、楽しんで欲しい」という意味を込めている。G9やmisoraといった完成度の高い端末は十分に期待できるものであるし、MOBILE PICO PROJECTORやAC Adapter MIDORIなどもかなり楽しめる周辺機器だ。そして、何よりも草間彌生氏を起用した「アートの世界」へのチャレンジも強烈なインパクトを持つ興味深い取り組みだ。
ただ、厳しいことを言わせてもらえれば、「iida」というひとつのブランドだけで、巻き返しが図れるほど、国内のケータイ市場は甘いものではないだろうし、すべてのユーザーがiidaで満足するわけでもない。「iida」という起爆剤がauブランド全体に刺激を与え、auがもう一度、ユーザーをより楽しませてくれる存在になってくれることを期待したい。
■ URL
iida
http://iida.jp/
KDDI
http://www.kddi.com/
ニュースリリース
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2009/0407/index.html
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・ 心地よさを追求するスタンダードモデル「misora」
・ ツタのような充電ケーブルなど、アクセサリーにも新展開
・ ユーザーの声が楽曲にリミックスされる企画「iida Calling」
・ 3月の携帯・PHS契約数、全社が純増を記録
・ INFOBARやneonなど、MoMAのコレクションに
(法林岳之)
2009/04/08 18:52
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