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「純増数は半減した」、KDDI田中社長が総務省タスクフォースの影響を語る

 KDDIは12日、2015年度(2016年3月期)の業績を発表した。決算会見では、3年にわたって実行してきた中期経営計画を振り返るとともに、新たに策定した2019年度までの中期経営計画とそれに基づく今後の戦略が紹介された。

KDDIの田中社長

 その新たな戦略にも影響を与えるのではないか、と質問が挙がったのが、2015年後半に進められた総務省のタスクフォースでの議論と、その後に提示されたガイドライン。質疑応答や、その後の囲み取材を通して、田中社長はタスクフォースの影響が与える影響を語った。

端末販売、第4四半期は影響出ず

 2016年に入ってから、携帯電話業界は「総務省のタスクフォース」が与える影響に揺れ動いている。いわゆる「実質0円廃止」が唱えられたことから、携帯電話の販売数へどの程度影響するのか、懸念する見方がつきまとう。

 たとえば端末販売数は、2016年1月は駆け込み需要の形で販売が好調になった。その反動で2月の販売は落ち込む。3月にも影響したが、2月と3月、あわせて例年の2割減、といった形となり、2016年1月~3月の第4四半期全体で見ると「1月の好調、2月・3月の減少」が差し引きされて、ほとんど影響がない形になったという。

 端末販売は今後「どちらかと言うとあまり売れなくなると思っている」(田中氏)との予測が立てられており、短期的には、販売奨励金の削減になるなど業績への影響は少ないものの、長期的なスパンで見ると、契約数を一定規模で獲得し、経営の基盤とするストック型のKDDIにとっては、2017年以降、影響が出てくると分析。「料金の値下げとか今後考えないといけない」と述べて、さまざまな選択肢を検討する姿勢を示した。

純増数は半減

 その一方で、田中社長はタスクフォースの影響で、「通信の競争があまりないような方向に向かっている。純増という意味では、もう少し大きな影響を受けている」とコメント。

 KDDIによれば、1年前の2014年第4四半期(2015年1月~3月)の純増数は約89万件。ところが“タスクフォース後”にあたる2015年第4四半期の純増数は約39万件だった。

田中氏
「ほとんど3キャリア間の競争がなくなっていくということ。たとえばauの場合、NTTドコモさんやソフトバンクさんから来る(乗り換えてもらう)ことが純増になる。トータル(市場規模全体)はあまり増えないですから。では出る(auから転出する)とMVNOに行く。自分ら自身でMVNOを増やさないと純増の確保は難しい。ソフトバンクさんが仰っていましたが、今回のタスクフォースによって、(販売奨励金/キャッシュバックの削減で)ユーザーの移行の動きがなくなった。もうひとつ長期優遇しなさいと言われている。そうなるとさらに動かなくなる。結果として3キャリア間が動かなくなるのがタスクフォースのガイドライン」

MVNO事業にテコ入れ

 囲み取材で続けて田中氏は「では次に何が起きるのかというと、MVNO向けの流れ。ここは、少なくとも1500万契約規模になるまではアクセルを踏むのが総務省の考え方。出るのを自分たちのほうに入れようと思うと、自社のグループなどにもう一度リクープ(回収)するということ。今は(MVNOユーザーの)9割以上がドコモさんに行っていると思う」と語る。

 田中氏は、MVNO市場の成長も「かなり速い速度で伸びている」との認識を示す。UQコミュニケーションズが舵を取ることになった「UQ mobile」を展開しているものの、出遅れた感はある、と率直に認め、2016年度はある程度注力する方針を示す。UQの価格競争が激しいなかで、何かしらの仕組み、価値を提案しなければ、流れは止まらないと語った。

中期経営計画、3つの戦略で挑む

auスマートバリューとauスマートパスが成長

 決算会見の大半を中期経営計画に関する説明に費やされた今回。まず2015年度までの過去3年間の取り組みを振り返った田中氏は、3M戦略の推進と、それに基づくサービスとして「auスマートバリュー」でモバイルと固定で顧客基盤を確立し、「auスマートパス」で付加価値事業の基盤を確立した、と説明。毎期二桁成長などの目標を達成した、と胸を張る。

 そしてこれからの3年間は「お客さま体験価値を提供するビジネスへの変革」という方針を掲げて事業を進めることになる。そこで挙げられたのが、「国内通信事業の持続的成長」「au経済圏の拡大」「グローバル事業の積極展開」という3つの戦略だ。

 たとえば携帯電話事業では、スマートフォンなどで他社と同じ商品を扱うなど同質化が進む、との予測がある。KDDIでは、これまでの3M戦略を引き続き推進して、au IDを核に、タブレットなどスマートデバイスをさらに拡げたり、IoTへさらに注力したりする方針。これが「通信事業の持続的成長」であり、新中期経営計画における戦略のひとつめ、とされる。新中期経営計画の3つ目の戦略が「グローバル事業の積極展開」。既にミャンマーやモンゴルでの通信事業に乗り出し、世界各地でデータセンター事業を展開しており、更なる飛躍をはかる。

 これらの目標を達成するために、3年間で5000億円程度の規模で企業買収を実行する方針も明らかにされたが、買収対象となる事業分野や規模などはまだ明らかにされていない。

au経済圏の拡大目論む

 2016年度早々にスタートした「auのほけん・ローン」は、auが金融と通信テクノロジーを組み合わせて参入した分野。これは「auライフデザイン戦略」に基づく動きとされ、同時期にサービスインした電力小売サービスもその一環。また、2015年夏にスタートした、日用品などの販売を手がける「au WALLET Market」は、全国のauショップでのユーザーとの接点を活用する取り組みだ。

 デジタルコンテンツだけではなく、2014年に導入された決済サービス「au WALLET」、そしてau WALLET Market、電力サービス、金融サービスと、リアルな生活の周辺に着々と展開してきたKDDIが、これからの中期経営計画の戦略のひとつに掲げた「au経済圏の拡大」は、これまでの動きをさらに加速するという宣言だ。

 しっかりと本人確認をし、属性情報もあるauユーザーという顧客基盤をもとに、購買データや商品データ、あるいはポイントプログラムや実現店舗のauショップを組み合わせ、販促やリコメンデーションを進めて、オンライン/オフラインのどちらでも「au経済圏」を利用できる、そんな環境作りに注力する。

 ではどういった分野へ進出していくのか。田中氏は、「電力サービスを手がけることになったのは、(au WALLETの)クレジットカードがメインカードになるということ。クレジットカードをまず強化したいと思っている」とコメント。その他の分野への進出について囲み取材で問われるも「金融なんかもいいし、それ以外もいいし……もう言わない(笑)」と言いたそうにしつつも踏みとどまった。

関口 聖