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テニス観戦をマルチアングル/リプレイ映像で楽しむ、ドコモとTBSの実験に参加してみた
2017年9月27日 06:00
9月23日~24日、TBSテレビとNTTドコモは、有明コロシアムでテニス競技のマルチアングルでのライブ映像配信と高密度Wi-Fi配信の技術検証を行った。
検証が行われた2日間、有明コロシアムでは「東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント2017」の準決勝と決勝戦が開催されていた。実際の競技中に最新技術を使って選手のライブ映像、実況チャット、スロー再生映像などが配信された。
高密度Wi-Fiは、その名の通り、スタジアム内を40機という多数のアクセスポイントでWi-Fiのエリアを構築するというもの。その分、多くのトラフィックを処理できる。スタジアムのコートサイドやスーペリア席、ロイヤルボックス席などをはじめ、ほぼ半分がカバーされた。これらの席では、ライブマルチビューイングアプリ「Live Multi Viewing」を通じて、誰でも映像と解説チャットを見られるようになっていた。
同じようなスポーツイベントの場内ライブビューイングは、2016年にソフトバンクがLTE-Broadcastを使って野球で、また、NTTグループがWi-Fiマルチキャスト技術を使ってサッカーで実施している。
そうした過去の実験と比べ、筆者にとっては今回のライブマルチビューイングがその中でも最も実用的に感じ、かつ競技を楽しめた。テニスは、プレイヤーが少なく、ライブ映像の対象にしやすい。また、プレイヤーがビデオ判定を依頼する「チャレンジシステム」がすでに導入されており、リプレイ画面で見られればずっとわかりやすくなる。こうした点は、テニス競技とライブビューイングの相性の良さと言える。
そうした点に加えて、今回の実験は、ライブビューの遅延の少なさ、Wi-Fiの切れにくさも観戦を楽しめた背景にあるように筆者は思う。これならば、本当に数年以内に、スマホ片手のスポーツ観戦は一般的になるかもしれない。
ライブ・TV観戦を合わせたようなスマートグラス観戦
今回中継に利用された機材は、通常のテレビ中継で使う中継車のほかに「多目的車」と名付けられたトラック1台が追加されている。
このトラックにサーバー群、Wi-Fiコントローラーが搭載され、実況・解説員、解説のテキスト構成者、リプレイ映像作成者が乗っている。いわば今回のライブマルチビューイングのキモとなる人員・機材ほとんどが載っているわけで、非常にコンパクトだ。
ストリーミング用などのサーバー群もMac mini 数台などで構成されている。エンコードはH.264やH.265/HEVCではないとのことで、ソフトウェア面での工夫も多くありそうだが、機材は入手しやすいもので、特別な機材は使われていないことに驚かされた。
実験では、一般の観戦客がスマートフォンでマルチライブビューを楽しめた。報道陣はエプソン製のスマートグラス「MOVERIO BT-300」やiPadも試すこともできた。
たとえばスマートグラスでは、常にスコアや解説字幕を目にしながら観戦できる。今のスコアは、15-15だったか、あるいは15-0だったか、と電光掲示板を探す必要がなくなる。実際に試してみると、ライブ観戦しつつ、テレビで観戦した場合の良いところをミックスしたような感覚になる。
ただ、スコアに関して言うと、「0-15」と表示されていても、今回の装置の場合、実際には観客から見て左手にいる選手が15点、右手の選手がラブ(0点)ということもあった。また、場面によっては、字幕とプレイヤーの位置が重なることもあった。
一方、スマートフォンやiPadのライブマルチビューの画面はマルチスクリーン構成で、プレイヤー、スコア、解説と一覧性が非常によく、ライブの遅延もほぼない。たとえば画面左のプレイヤーのアップが観たければ、左側をダブルタップすれば選手の様子がアップで観られる。スコアをダブルタップすれば、詳細なサーブの統計なども表示可能だ。
筆者は、試合後半はスマートグラスではなく、ほぼこちらのスマートフォンやiPadを使ってみるスタイルになっていたのだが、このやり方もまた、ライブ観戦とテレビ観戦の良いとこ取りをしているようで非常に快適になった。
実験などと言わず、もうこのままテニス中継にはこのソフトを使ってぜひ商用サービスを行ってほしい出来だ。商用サービス化は2020年ごろを目指すという。
Wi-Fiだからこそ誰でも使える
アクセスポイントを配置して客席内をエリアにするという「高密度Wi-Fi」の設備は、一見するととても簡易なものだ。客席の下にはエアキャップで包んだアクセスポイントが針金で固定されて設置されていた。
運用コストや撤収の簡易さから、オリンピックのような短期間のイベントに向いているのかもしれない。
ちなみに1基のアクセスポイントのカバーできる距離は30m程度。場内での電波の反射などの影響もあるので、それぞれのアクセスポイントは単純に全方位に電波を飛ばしているわけではなく、方位や出力などを調整している。取材当初、スタジアムは開閉式の屋根が閉じていて、アクセスポイントもその状態で最適に調整されていた。しかし試合が始まる際には屋根が開き、一時、電波状況にも影響したが、遠隔操作で調整していた。
他社の実験で用いられたLTEマルチキャストや、Wi-Fiマルチキャストに比べると、ユーザーが使う機材も一般的なものが使えるのは魅力的だろう。LTEマルチキャスト実験の際にはファームウェアを改造した専用のスマートフォンが必要だった。Wi-Fiマルチキャストの場合は一般的なスマートフォン、タブレットが使えるのだが、筆者の持ち込んだスマートフォンでは対応できなかったりと相性のある場合があるようだった。
それに比べると今回のように、一般的なWi-Fiアクセスポイントを高密度に配置するのであれば、これまでのWi-Fi環境の普及度合いを考えればまず機材の相性問題などは起きない安心感がある。
2020年ごろは5Gの商用化も行われるころだが、ドコモでは、その段階では5G端末の普及率が低いと見立てている。一般的なWi-Fiであれば、多くのスマートフォンで誰でも使えるという考え方だ。今後も、スポーツなど、さまざまな場面で応用されることを期待したい。