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気球とドローンで雪崩遭難者を探す――ソフトバンクが北海道で公開実験

気球とドローンで、雪に埋まった遭難者に電波を届ける

 ソフトバンクは12月19日、北海道・倶知安町で気球とドローンを使った実験を公開した。どちらも基地局と端末の中心を中継する「中継局」で、雪山での遭難者を探索するのが目的だ。

 実験は、試験事務として総務省北海道総合通信局が主催しており、これをソフトバンクが8月31日に受注した。「雪崩などでの遭難事故が増えており、雪に埋もれた状態の遭難者を、迅速に救出するのが非常に大事になっている」(総務省北海道総合通信局 局長 中道正仁氏)のが、その背景だ。

実験の目的を語る、総務省北海道総合通信局の中道局長
ソフトバンクの藤井氏

気球とドローンで電波を中継して遭難者を探索

 ソフトバンクはこの解決策として、災害時などに活用している係留気球型の中継局を活用。雪上車に搭載し、「移動するという概念を取り入れた」(ソフトバンク 研究開発本部 フェロー兼特別研究室長 藤井輝也氏)。これに加えて、「急きょ、ドローン中継システムを新たに取り入れた」(同)という。藤井氏によると、雪の中に埋まった際の生存時間は最大で20分程度とのこと。気球は「準備に数時間かかる」ため、迅速な対応を考え、ドローンを採用したという。

実験の目的は3つ。通信の確保と、位置情報を使った捜索につなげる方針

 気球は準備に時間がかかる半面、「1日中、連続1カ月、揚げておくことができる」(ソフトバンク 研究開発本部 無線アクセス機器研究課 太田喜元氏)のがメリット。一方でドローンは迅速に出動できるが、バッテリーで駆動するため20分程度が限界となる。「2つをうまく組み合わせることで、安心安全をより確保できる」(藤井氏)というのが、ソフトバンクの狙いだ。

気球とドローンは、それぞれ特性が異なる

 スキー場や雪山などは、仮にエリア化されていても、電波の特性上、ユーザーが雪に埋もれた場合、圏外になる可能性がある。1つ目の理由が、基地局からの「距離が遠いと電波が弱くなり、角度が浅くなるため透過損失も大きくなる」(同)ため。また、2つ目の理由として、雪による電波の減衰が挙げられる。減衰には、「雪の密度や水分量の割合が影響する」といい、より密度が高く、含水率が高いほど、電波を通しにくくなる。

気球やドローンのように空中にあると、角度が浅くなり電波が伝わりやすくなる
雪の密度や含む水の量によって、電波が減衰しやすくなる

 実験はまだ気温の高い8月31日に受注していたため、ソフトバンクはまず、雪による減衰の影響を、人工降雪施設で測定した。12月に入ってからは、北海道で本物の雪を使い、密度と含水率をチェック。実環境で、理論通りに電波が減衰することを確認した。実験が行われたニセコのスキー場は、「パウダースノーで含水率が低い」(同)ため、5メートルほど雪中に埋まった人が持つケータイとも通信が可能になる。GPSは1.5GHz帯の電波を使っているが、これも同様だ。

この時期のニセコの雪だと、入射角を抑えれば、最大で5メートルまで電波が到達するという

 遭難者の探索は、GPSを使って行う。あらかじめスマートフォンにアプリケーションをインストールしておき、モバイルネットワーク経由で信号を送る。これを受け、端末側がGPSで位置情報を測位。結果を検索した側に返すというのが一連の流れだ。仕組み自体はすでにケータイで実現しているため、これを応用。基地局側から直接端末を探すことも「ビームフォーミングなどを使えば不可能ではないが、時間がないこともあり、まずは既存の仕組みを応用した」(同)という。

アプリを使って遭難者の端末のGPSで測位を行い、その結果をモバイルネットワークで返す仕組み

ニセコのスキー場で実験を公開、雪に埋もれた端末との通信に成功

地上80メートルまで気球を上げた。この気球が中継局になる

 実験は、ニセコのスキー場で行われた。まず、ソフトバンクの担当者が、人間大の人形のポケットに端末を入れ、圏外になることを確認。スキー場周辺はプラチナバンド(900MHz帯)でエリア化されていたが、端末側でこれを切ることで、疑似的に圏外の状況を作り出している。

 その人形を3メートルほど掘った雪の中に埋め、電波を遮蔽するシートをかぶせたあと、改めて圏外であることを確認。この状態では、人形の持った端末に、電話はかからなかった。

人形のポケットにスマートフォンを入れ、雪の中に埋めた
中継局がオフの状態だと、電波が届かないため圏外になる

 ここで気球型中継局から電波を出し、再度電話をかけたところ、「プププ」というおなじみの呼び出し音が鳴った。雪に埋もれているため、着信音は聞こえなかったが、電波が通り、圏内になったようだ。続けて位置情報確認システムで端末の現在地を確認。GPSの電波も通り、正確な場所が捜索者側のタブレットに表示された。

気球の機能をオンにしたところ、雪の中に埋まった端末が電波をつかみ、位置情報も検索できた

 なお、アプリには捜索者が見つけやすいよう、端末の音を遠隔で鳴らす機能を搭載している。こちらは、あまり音量が大きくなかったため、雪に埋もれた状態では、聞こえてこなかった。また、ドローンに関しては飛行デモが行われただけで、公開実験では気球のみが使われた。

ドローンは飛行実験のみ公開された。積載している装置は気球とほぼ同じだが、出動までの時間を短縮でき、小回りが利く

 この公開実験は中間報告という位置づけで、実験は3月末まで行われる予定。雪の特性が変わる春先まで継続してデータを取得し、実用化を検討する。