ニュース
ウォーレン・バフェットを目指す――投資家・孫正義氏が10兆円ファンドを語る
2016年11月7日 21:26
ボーダフォン・ジャパンを買収して携帯電話業界に参入した後、北米ではSprintを買収、同時に買収するT-mobileと合わせて北米3強の一角を目指す(T-mobileの買収は実現せず)。昔に投資したアリババの上場では時価総額9兆円を手にし、一部を売却し3兆円でARMを買収。さらに10兆円規模の投資ファンドをサウジアラビアの副皇太子らと設立すると発表――人類がシンギュラリティ(Singularity)を迎える前に“ソンギュラリティ”が訪れる――そんな冗談が一部で語られるほど、孫正義氏による投資が地球規模で急速に拡大している。
年間6000億円を稼ぎ、孫氏にとっては退屈になった既存事業
11月7日に開催されたソフトバンクグループの2016年度第2四半期決算説明会では、登壇したソフトバンクグループ 代表取締役社長の孫正義氏が、連結決算概要の説明を「退屈な内容」、国内事業も「小さな市場の中でそれなりの業務」「退屈だが順調に伸びている」などと興味は失せている様子で、駆け足で説明する。
その当初の業績から「重荷だった」「足かせだった」という米Sprintの事業は、売上高の下落が底を打って反転、フリーキャッシュフローもプラスに転じたことから「利益の成長のエンジンになる。アメリア市場もっとも大きな反転だった」と自信を見せる。
「最後にいちばん重要なのはフリーキャッシュフロー。ついに収穫期に入っており、年間6000億円規模になった。今後も安定的に現金収益を稼げる」と、孫氏は既存事業が着実に利益をあげている様子を語る。
ARM、セキュリティ面でも伸びしろ
その後は前回の四半期決算の説明会でも触れられている英ARMの買収について、「今後10年間のロードマップがすでにできている。顧客は強い関心があり、10年分くらい契約したいと言われる。ジョイントをやりたいという話もいただいている」とした上で、今後はIoTだけでなくスーパーコンピューターで“ポスト・京”とされる取り組みにARMのアーキテクチャーが採用されるとし、現在はインテルがほぼ独占しているサーバーの分野にもARMコアで切り込んでいくとした。
一方で、ARMはSprintなどとは違い、買収前から好調な業績を続けている企業であることから、経営への参画は限定的としている。
同氏はまた、IoT時代の“コネクテッド”な世界ではセキュリティが非常に重要だと強調する。現在の(コネクテッドではない)自動車には1台あたり数百個のARMコアが搭載され、それらは車内で完結するため暗号化されてないとした上で、「(セキュリティ的には)全滅している。1個も暗号化がなされていない。自動車会社は半導体の専門家ではない。無邪気に買って、付けてきた。インターネットにコネクテッドされる時代がくると、有益な情報にコネクトでき、ウイルス、ハッキングにもコネクテッドされる。ある日突然、世界中の車でウイルスが起動し、ブレーキが効かなくなって、壊滅的な打撃を受ける。国家の安全保障に関わる問題。暗号化されていないコネクテッドカーはコネクトしてはならないという法案が必要だ」と恐怖のシナリオを語ると、暗号化を強化し、小型化も実現した最新のARMのチップを紹介。「ARMインサイドで安心、安心のARM。買ってよかった」などとし、セキュリティの側面でも大きく伸びる余地があるとした。
年間6000億円の稼ぎでも「間に合わない」
孫氏は説明会の冒頭に「反省していることがある。今までは目の前の業務に忙殺されていた。テクノロジーの進化・発展に対して取り組んでいかなければならない」と切り出しており、(人類の)テクノロジーの発展を牽引する取り組みの第1弾が、ARMの買収であったと位置づける。これは「ソフトバンク 2.0の始まり」ともしており、その過程で、懸念事項としてこれまでも指摘されてきた負債の大きさについて、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」で解決していく方針を示した。
10月に発表した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」は、10兆円という大規模な投資ファンドで、ソフトバンクが2.5兆円、サウジアラビア(PIF)から4.5兆円、そのほか協議中の投資家から出資を募り、運用する方針。これまでのように株の売却など自社の資産を売って資金を調達することなく、今後の大規模な投資はこのファンドが担うことになる。
孫氏はファンドを設立した経緯について「これからやってくる成長戦略を加速させるため」「今すぐ本気で取り組まなければならない。それがシンギュラリティ」などとして、これまでにも繰り返し語ってきたシンギュラリティ(人工の知性が人類を凌駕する日)の重要性や、「シンギュラリティですべての産業か再定義される」といった革新性を語る。
その上で、「借金を増やさずにどう革命(シンギュラリティ)に取り組むのか。ソフトバンク 2.0第1弾のARMを買っただけで、負債がEBITDAの4倍を超えるところまできた。ソフトバンク 2.0では、年間6000億円のフリーキャッシュフローでは間に合わない。バランスを改善し、でも攻める。その答えがソフトバンク・ビジョン・ファンド」とし、拡大する投資規模に対応し、ソフトバンク本体の財務に今後これ以上負担をかけない仕組みになることを説明した。
孫氏は、同社の過去18年の投資実績のリターン(IRR)は44%、大きな注目を集めたアリババを除いてもリターンが43%、さらに、ベンチャー企業だけではなく主要な通信事業の買収案件を含めても、やはりリターンが43%だったことを示し、世界に名だたる主要10ファンドが最大でも15%であることと比較して「聞いたことのないレベル」と自信を見せる。
「今後数百億円規模の投資は、原則としてソフトバンク・ビジョン・ファンドから行う。負債の比率は、年間6000億円のフリーキャッシュフローで、自ずと、自然体で、構造的に改善する」と孫氏は語り、財務体質の改善にも大きくめどを立てた様子をアピールした。
「ウォーレン・バフェットを目指している」
質疑応答の時間では、総務省のガイドラインによる端末販売の規制強化について、影響や国内事業の弱体化を懸念する質問があがった。
孫氏は、3キャリアで同じルールであり、競争上の影響は少ないとするものの、機種変更など既存ユーザーの買い換えは少なくなるとする。「端末の販売では1円も儲かっていない。回線が減るのは決定的な打撃があるが、端末の買い替えの台数が減っても、経営への打撃はない。大きな影響があるのは、ハードウェアを販売する国内のメーカー。国産スマートフォンメーカーは壊滅しかけている」と指摘。自社の動向については「サービス、コンテンツ、光ファイバーとのセット、金融など総合的なサービス収入を得ること。通信料収入以外のところに、成長のチャンスを見出すのが重要になる」などとした。
Sprintの買収が一段落した頃から、孫氏による決算の説明会はベンチャー投資の話題が中心になり、実際に多くの時間を割いて説明されるようになっている。また、宮内謙氏をはじめ、各事業会社にはCEOが据えられ、「まじめに畑を耕す」と孫氏が例える既存の事業は、孫氏の陣頭指揮がすでに不要な体制になっている。
「孫氏の軸足は投資ファンドになるのか?」と聞かれると、孫氏は「イメージ的には、テクノロジー業界のウォーレン・バフェットを目指している。ソフトバンクはバークシャー・ハサウェイ(バフェット氏の投資会社、世界最大の持株会社)を目指している」と語り、投資家として活動していくことを印象付けた。