「モバイルプロジェクト・アワード2009」受賞者に聞く
若年層の2台目需要で売れ続ける「HONEY BEE」
「HONEY BEE2」のカラーバリエーション。追加色のレッドや販売店限定のオレンジも発売した |
ワンセグや高画素カメラ、高精細液晶を一切採用せず、「音声通話」や「メール」を武器に売れ続けている端末がある。それが、「HONEY BEE」シリーズだ。若年層を中心に口コミでブームが広がり、販売を伸ばしている。総契約者が約453万人のウィルコムの中では、異例の“大ヒット”と言えるだろう。家電量販店などで集計した週間販売ランキングでは、他キャリアを抑えてトップを獲得したこともあるという。この端末が「モバイルプロジェクト・アワード2009」のハードウェア部門で優秀賞に選ばれたことを受け、ウィルコムと京セラの担当者にヒットの秘密をうかがった。
■大胆に割り切った機能で「2台目需要」に真っ向から応える
ウィルコム、ブランド&プロダクト企画部、部長 石川俊司氏 |
京セラ、通信機器関連事業本部、マーケティング部、商品戦略部責任者 能原隆氏 |
HONEY BEEシリーズは、大胆に割り切られた機能が特徴。初代はカメラすら搭載しておらず、ストレートタイプのため液晶も現行モデルと比べると小さい。なぜなら、この端末は2台目として音声定額を利用するユーザーを狙っているからだ。ウィルコムの石川俊司氏は「音声定額で通話をたくさんするというユーザーがおり、それに対応した端末を作る必要があった」と企画の背景を説明する。
「HONEY BEEを発表した際に、『2台目を意識した』と言い切った。これは、今までの延長線ではないことを明確にした端末。」
HONEY BEE以前にも「nico.」や「9(nine)」といったシンプル端末は販売していたが、「若年層をピンポイントでターゲットにしたものはなかった」(石川氏)という。この狙いは、端末のデザインを見れば一目瞭然だ。「持っていて楽しく、派手なカラーで目を引くように企画した」(京セラ、能原隆氏)というように、カラーバリエーションも豊富。イエローやピンク、ブルーなどのポップな色合いが印象に残る。いい意味で“オモチャ”のような質感を出すために、「金属塗装もあえて外している」(能原氏)。また、待受画面やメニュー、デコラティブメールもモチーフのミツバチで統一し、外観だけなく、中身までコンセプトを貫いている。
2台目需要に応えるため、形状はストレートにこだわった。「カバンの中で明らかに分かる形状の違いを求められていた」(石川氏)というのが、その理由だ。持ち運びやすい9.9mmを実現しながら、「単に薄くするだけではなく、胸ポケットに入れて落とすこともあるので剛性を高くした」(能原氏)のも特徴。薄型ながらキーの押しやすさにも配慮し、「エンボスで数字だけを浮き上がらせて操作性しやすくした」(能原氏)という。
後継機の「HONEY BEE2」でも、こうした“割り切り”は健在だ。「もの作りの観点から言うと、『1』と『2』では金型も違えば、充電台も違う」(石川氏)というように、赤外線ポートの位置を変更したり、クリアボタン、サイドのロックスイッチなどを若干大きくしたりと、細かな改善はされているが、薄さや形状など、HONEY BEEの売りはそのまま継承している。新たにカメラを搭載したが、これもわずか31万画素。「メールで添付して写真を送る、ブログに写真を載せるという方が多い」(能原氏)ため、必要最小限の画素数に落とし込んだ。また、液晶周りにラメを使うことで、ターゲットが一段と明確になった。
「ラメでHONEY BEEのコンセプトがより立った形になった。カワイイと言っていた方には、もっとカワイイと言ってもらえる一方で、男性もそれほど抵抗感なく使っているようだ。男性がピンクを使っていることも多い。」(能原氏)
ストレート端末だが、キーの形状などに遊び心がありビジネス色が薄まっている | 「HONEY BEE2」では、液晶周りにラメを散りばめ、ターゲット層がより明確になった |
■口コミが広まり“指名買い”される端末に成長
内蔵コンテンツにもミツバチのキャラクターが使われ、一貫した世界観を演出 |
「テレビを使って大々的に宣伝するのではなく、ユーザーさんを招いて商品を説明するなど、口コミを広げる工夫をした」(石川氏)というように、端末のメインユーザーである若年層は友達などからの情報に影響を受けやすいため、販促にも工夫を凝らした。シールを挟み込んだリーフレットは、「持っていきやすいサイズにしてシールをペタペタと貼ってもらうことによる“広がり”を狙った」(能原氏)という。このカタログは店頭からすぐになくなり、「増刷した」(能原氏)ほど話題を集めた。ミツバチのストラップも好評だったという。
口コミでじわじわと広がったこともあり、「販売のピークは5月だった」(能原氏)そうだ。春商戦と夏商戦の谷間に当たる5月に端末がもっとも売れるのは、珍しい。能原氏はHONEY BEEの売れ行きを、次のように分析する。
「大学生の場合、この時期にサークルが決まったり、ゴールデンウィークに帰省してホームシックになったりする。ずっとしゃべられる機会がほしいということでお買い求めいただいたようだ。お陰さまで、そのあとも安定して売れている。」
こうした大胆なプロダクト企画やマーケティング戦略が功を奏し、冒頭述べたように、端末は大ヒットを記録する。ケータイでは異例とも言えるロングヒットで、「ウィルコム端末の特徴でもあるが、それこそ演歌のシングルのように、長く売れ続けている」(石川氏)という。口コミが広がり、最近は“指名買い”も増えたそうだ。「『HONEY BEEのピンクをください』というように、色まで指定して買われることが多くなった」(能原氏)というエピソードからも、若年層にHONEY BEEが浸透していることがうかがえる。
■「ホットライン」から「サークル」に変わる「HONEY BEE」の輪
ノベルティグッズも人気。写真はHONEY BEEのストラップ |
ユーザーが増えた結果、コミュニケーションにも変化が表れた。当初は「1対1でホットライン的に使っているユーザーが多かった」(石川氏)が、「最近ではサークル的な利用が中心」(石川氏)だという。ウィルコムの他の端末とも共通するが、通話のピークは夜。学校が終わったあと、サークルの仲間など複数の友人と会話するために使われることが多いようだ。端末を購入するために、友達連れやカップルで来店する人も目立つようになった。
「仲間と一緒にきて、それぞれ違う色を買ったり、あえて全員色をそろえて買ったりすることも多くなった。」(石川氏)
ウィルコムの定額プランは、音声通話だけでなく、メールも宛先に関係なく無料だが、若年層に人気のデコラティブメールや、カメラに対応したことで「メールの利用率もずいぶんと上がった」(石川氏)。さらに、最近では、「これで十分と1台目にする方も増えている」(石川氏)という。
そもそも、HONEY BEEという名称には、「群れるミツバチを意識して、みんなでコミュニケーションを楽しんでもらいたい」(能原氏)という想いが込められている。
「大げさかもしれないが、コミュニケーションは若い方だと人格形成にも影響を与えるもの。だからこそ、京セラがこの端末に挑戦する意義がある。」(能原氏)
通話とメールというサービスの“原点”に立ち返り、端末のデザインや世界観で“楽しさ”という付加価値を提供できたことで、HONEY BEEは現在もなお売れ続けている。一方、最近では、SNSやブログ、プロフを始めとしたウェブ上のコミュニケーションも盛んだ。特にこれらのサービスを積極的に使いこなすのは若年層で、HONEY BEEのターゲットとも一致している。コミュニケーションを重視したHONEY BEEシリーズが、この新しい潮流にどう取り組んでいくのか。今から後継機の登場が楽しみだ。
2009/8/20 11:51