インタビュー
日本のスマホに“違い”を提供するモトローラ
アダモポウロス社長とMoto Mods担当者にインタビュー
2017年6月27日 12:00
モトローラ・モビリティ・ジャパンは、6月20日に発表会を開催し、SIMロックフリーのスマートフォンの最新モデル「Moto Z2 Play」を6月29日に発売すると発表した。同時に、「Moto Z」シリーズが対応する背面拡張パーツ「Moto Mods」の開発キットを日本で提供することも明らかにし、独自のエコシステムやコミュニティの形成にも乗り出した。
発表会の後、モトローラ・モビリティ・ジャパン 代表取締役社長のダニー・アダモポウロス氏、プロダクトマネージャーの島田日登美氏、米モトローラ・モビリティ エンジニア Moto Modsチーム担当のクリスチャン・フラワーズ氏の3氏に、話を伺う機会を得た。
なお、「Moto Z2 Play」発表のニュース記事、発表会の模様はそれぞれ別記事を参照していただきたい。
成功した「Moto G」シリーズ、「DSDS」を採用した背景
――日本市場でSIMロックフリーモデルの売れ行きが好調とのことでしたが、具体的な数字はありますか? 「最も売れたモデル」などでも。
アダモポウロス氏
モトローラとして、国単位での販売数は公表していません。日本で提供した中では「Moto G」シリーズが最も成功しました。最新モデルも日本で発売したばかりですが。
恐らく今後数週間で、「Moto G4」の規模を「Moto G5」が上回ると予測しています。なのでビジネスの規模はかなり大きくなっているといえます。
――「Moto G」シリーズが成功した背景をどう捉えていますか?
アダモポウロス氏
ユーザーの感情面にも理由はあると思います。MVNOや量販店で提供する中で学んだものとして、ひとつにはクリーンなAndroidであることが挙げられると思います。OSやセキュリティのアップデートを素早く提供できます。ミドルクラス以下の端末はアップデートがなかったりすごく時間がかかったりしますが、我々はすぐに提供できます。最新のセキュリティの状態にできるのは評価されたポイントだと思います。
2つめは製品の品質です。価格に対して得られる価値が高いということです。
3つめは「Moto G」シリーズがDSDS(デュアルSIM・デュアルスタンバイ)をサポートした点です。ユーザーは仕事用、安価なデータSIMなど、2枚目のSIMカードを使えます。
――DSDS対応がポイントというのは、MVNO市場がメインターゲットということでしょうか?
アダモポウロス氏
日本市場でSIMロックフリーモデルを展開する際、“プラスワン”でユーザーが求めているフィーチャーは何かと考えた結果です。それまでは、キャリアが端末もSIMも囲い込んで、ユーザーの選択肢は多くありませんでした。
ただ、MVNO市場にターゲットを絞っているかといえば、そうではありません。すべてのコンシューマーユーザーに対してのフィーチャーとしてDSDSを位置付けています。2つの端末を持って歩きたくない人は、いると思いますしね。
極寒から砂漠まで対応するモトローラ製品の底力
――「Moto Z2 Play」はチップセットもSnapdragonの600番台でミドルクラスの位置付けですが、今夏のハイエンドチップセットであるSnapdragon 835などを搭載したモデルを投入する予定はありますか?
アダモポウロス氏
今現在開発中のものは私も把握していないので、分からないです(笑)。なのでイエスかノーでは答えられないのですが、現在の「Moto Z2 Play」などは2018年の半ばまでは販売されるのではないかと思っています。
――発熱などの点を考えると、あえてミドルクラスのチップセットを採用する考え方もあるかもしれませんが……。
アダモポウロス氏
詳細な理由は、製品開発時の資料を確認しないと分かりませんが、ミドルクラスのチップセットが使われる主な要因は、コストパフォーマンスと、無線のパフォーマンスです。複数の周波数帯をサポートしなければいけませんし、Moto Modsを使用する際のパワーもある程度必要で、それらを経済的に実現しなければいけません。
放熱やバッテリーの発熱などは、我々としてもかなり気をつけて監視していますが、この意味でミドルクラスのチップセットを採用する理由はあるといえます。例えば、3時間もYouTubeを見ていたら、かなり熱くなってしまいます。
ただ、こうした課題は、優れたエンジニアリングで解決・相殺できる部分です。チップセットとバッテリーとの距離、放熱性能なども考慮して設計されていますし、エンジニアリングが解決すべき部分です。
普通、非常に寒い環境で使うと、液晶ディスプレイがうまく表示できなくなり、バッテリーの稼働時間も短くなります。でも、モトローラの端末ならマイナス20度の環境でも問題ありません。我々の端末はサウジアラビアやインドなどの暑い環境でも使われていますが、熱に関するクレームもありません。
寒い環境では発熱を利用し、暑い環境では優れた放熱性能が活かされます。優れたエンジニアリングが違いを生むのです。(他社と)同じ価格帯であっても、製造の品質、エンジニアリングが異なっているということです。
防水性能は取捨選択、8割のケースをカバーできるIPX2を採用
――防水性能については日本のユーザーの関心も高い部分です。今後の対応をどのように考えていますか?
アダモポウロス氏
我々の端末はすべて、少なくともIPX2には対応しています。日本メーカーなどの端末はIPX6~8をサポートしているものが多いのも認識しています。
「Moto G4」「Moto G5」では「80・20ルール」を適用しています。IPX2は、トラブルの8割から保護できるというものです。
端末が水没状態になる3つの代表的な例は、雨の中で使用する、飲み物をこぼしてかけてしまう、シャワー後などの濡れた髪や手で使用する、というものです。これらの水に濡れるトラブルの8割は、IPX2でカバーできます。
IPX7/8などは、端末1台あたり10~20ドルのコスト増になり、端末がかなり高価になります。(IPX2は)我々のポートフォリオの中で取捨選択、トレードオフとして考えた結果です。
――日本市場でSIMロックフリーモデルを展開してきて、修理やサポートに関する手応えや評価はどうでしょうか?
アダモポウロス氏
修理の拠点は大阪に設けていますし、コールセンターも設置しています。修理やサポートが大変といった体制ではありません。顧客満足度も高いですし、サポート体制は誇りに思っている部分です。
“FeliCa Mods”を検討中、「Moto Mods」開発キットの日本展開
――デザイン面では、「Moto Z」シリーズはModsを付けていないとカメラ部分の飛び出しが目立ちます。やはりModsを取り付けての使用が前提でしょうか?
アダモポウロス氏
Modsの使用もそうですし、8割のユーザーがスタイルキャップ(さまざまな素材や色が用意された純粋な背面カバー)を使用しています。Modsを使用していれば飛び出しは気になりません。ユーザーからカメラ部分の飛び出しについてクレームがきていたこともないように思います。(社内の)ミーティングや私達のオフィスでも、背面に何も付けていない人は見たことがありません。
――「Moto Mods」開発キットの日本展開で、アイデアソンを大阪で開催することが案内されました。具体的な製品の開発まで行うハッカソンなどの展開もあるのでしょうか?
島田氏
モトローラとして、日本の開発力に期待していますし、アイデアを募集すると同時に、Moto Zシリーズを使っている世界中のユーザーに対して日本から何か発信できないかという取り組みです。
まず、大阪でアイデアソンをやることが決まっています。大阪にはモノ作りに関する人材がたくさん集まっているのではないか思いました。我々としても本気の姿勢を見せようと考えたのです。
その後ですが、モトローラだけで展開できるものではないので、ハッカソンなのかビジネスディスカッションなのかわかりませんが、いろいろと用意をしています。
――日本市場向けのModsで希望しているものや、期待している内容はありますか?
アダモポウロス氏
我々として、例えばFeliCaのModsといったものを作ろうとパートナーを探していますし、フルセグ・ワンセグのModsや、大気汚染を観測できる複数のセンサーを搭載したModsなども検討していますね。
――「Moto Mods」に対応したスマートフォンがほかのメーカーから出てくることはありえますか?
アダモポウロス氏
ほかのメーカーがModsを製作し、我々のエコシステムに参加するのは全く問題ありませんが、Modsの端子部分の技術を共有するといったことは考えていません。
――「Moto Mods」開発キットの展開で、開発者コミュニティやスタートアップ企業へのメッセージはありますか?
アダモポウロス氏
9月には大阪でアイデアソンがありますが、その後は東京の秋葉原でも別のインキュベーション会社と組んでイベントを検討しています。
ほかの国で取り組んできた経験がありますし、Indiegogoなどクラウドファンディングで組んで開催したこともありました。逆に、非常に良いアイデアの場合には、レノボ・キャピタルなどのファンドから出資して開発するといったこともあります。そうした際にはモトローラはエンジニアリングサポートを提供します。
――「Moto Mods」を開発した場合、モトローラのオプションとして採用され海外でも展開されるといったことはあるのでしょうか?
アダモポウロス氏
FeliCaなどは日本向けということになりますが、世界的に採用できる技術なら可能性はあります。
フラワーズ氏
ビジネス・デベロップメントのパートナーがサードパーティと連携し、流通や販路、キャリアに紹介するといったこともできます。さまざまな形で、Moto Modsが成功するための支援を提供できます。
――モバイル関連のハッカソンですが、わりといつも同じメンバーが集まってくるという説もあります(笑)。
島田氏
Moto Modsはハードウェアだけでなくソフトウェアも必要になり、両方考えられることが重要です。なので、ハッカソンの有名人? 以外も集まってくれるのではないかと期待しています。
ハードウェアだけ得意という場合は、ソフトウェアが得意な人をマッチングして進めることもできます。
フラワーズ氏
例えば、いいアイデアを持っている人がいて、モトローラのビジネスアクセラレータープログラムを通してパートナー企業がこの人やアイデアを支援し、進めていくということも可能です。クラウドファンディングの場合なら、生産を担当するバックエンドの企業が支援する例もありました。
――海外で実施されたハッカソンには高校生も参加していました。若年層を狙うなどの、ターゲットとする世代があるのでしょうか?
フラワーズ氏
「Moto Mods」を教育分野でもっと普及させていきたいという想いはあります。プログラミング教育などはよくありますが、組込開発は少ないですよね。例えば小学生でも、適切なアイデアと資金、サポートがあれば、自分たちが作ったModsを製品化することも可能なのではないかと思います。
――Raspberry Pi Hatアダプターも興味深いですね。
フラワーズ氏
機械的、電気的にも規格に適合しています。ディスプレイ・カメラコネクターもあり、Raspberry Piカメラを使った例も公開されています。
ちなみに「Moto Mods」として開発された製品は、ファームウェアはOTAで提供でき、提供していただければ我々がホスティングすることも可能です。
――最後に読者へのメッセージなどあれば。
アダモポウロス氏
素晴らしいアイデアをたくさん出していただき、応募してほしいですね。
――本日はどうもありがとうございました。