インタビュー

LINEモバイル嘉戸社長インタビュー

大手キャリアのサブブランドへの考え、端末ラインアップ、サービスの在り方は

 LINEが携帯電話サービス「LINEモバイル」を開始してから半年が経った。昨秋、本誌インタビューで「機が熟せば実店舗で展開する」としていた店頭での取り組みもいよいよ3月15日にスタートした。これまでの取り組みや、料金、端末の考え方について、LINEモバイル代表取締役社長の嘉戸彩乃氏を直撃した。ロングインタビューとなったが、LINEらしい“ロードマップ”の存在や、MVNOとして挑む実店舗や販売手法に関する考え方など、細かな部分まで語っていただいた。

攻めの企画と守りの企画

――サービス開始から半年を経て、これまでの取り組みを拝見するとずいぶんスムーズな印象を受けます。おそらく合格点をつけられているのでは?

嘉戸氏

嘉戸氏
 実はローンチ前からロードマップで最初から全部決まっているんです。

――えっ。

嘉戸氏
 みなさんにはお伝えしていなかったんですけど(笑)。たとえばリアル店舗での取り組みは春商戦のタイミングにすることがほぼ決まっていました。とはいえ、実際にやるかどうかは、投資やお客さまのこともあるので、社内で定めた基準を越えた場合に、次のステップへ進むことになっていました。

――これまでの取り組みは全てロードマップで順番が決められていたのですか?

嘉戸氏
 はい。実は私たちの中では「攻めの企画」「守りの企画」と呼んでいるものがあるんです。攻めの企画は、LINEモバイルしかできないことで、カウントフリーやLINE Pay関連の取り組みです。もう一方の「守りの企画」は他社で既に実現しているものです。

 攻めと守りの企画は作り方が全く違うんですね。攻めの企画はゼロから作り上げるため、トラフィックへの影響を含めてかなり慎重になります。たとえば昨日の会見で、「(ライブストリーミングの)LINE LIVEを無料対象にするのは厳しい」とお伝えしましたが、実際にLINE LIVEで中継した昨日の会見についても、通知をユーザーに送ったらどうなるか、(トラフィックを)裏で見て、確認していました。

 一方、守りについて、後追いと言われても、あるべきサービスは揃えるという方針です。ただし、きちんと作り込んで、見せ方も変えています。たとえば端末保証オプションについては「持ち込み」という表現を使ったのはLINEモバイルだけだったんです。「持込保証」と言い切ってしまうことで、「こんなサービスがあるんだ」という反応をたくさんいただいた。他社さんにも、同等のサービスはありましたが、知られてなかったんですね。

――ロードマップはいつ頃から作成されていたのですか。

嘉戸氏
 2016年3月のサービス発表時の企画書を振り返ると、当時からありましたね。マスメディアさんから「予想通り」と評価されると、(あらかじめロードマップに沿ってサービス内容を予告するなど)そういうコミュニケーションをしてきた結果なのかなと感じています。

――図表にしているのですか?

嘉戸氏
 はい、しています。

――それって見せていただくことは……。

嘉戸氏
 それはできません(笑)。

新サービスは守り? 攻め?

――サービス内容はシンプルにしたいというメッセージがありました。LINEフリー、コミュニケーションフリー、MUSIC+プランという3つのプランで完成度が高いように思えます。

嘉戸氏
 いえ、それで終わりではありません(笑)。もちろんこれまでのプランは拡張性が高いと考えています。コミュニケーションフリープランという名称も、コミュニケーションサービスを拡大してもいいものです。「〇〇+(プラス)」もさまざまなサービスに対応できます。可能性としてはプリペイドという選択肢もあります。

――14日の発表会で通話定額の導入が予告されました。昨年9月にインタビューした際には、通話はそもそも利用されないのでは、とのことでしたが、方針を転換されたのですか?

嘉戸氏
 それも“守りの企画”のひとつなんです。もともとLINE Outという通話サービスがありますので、LINEのユーザーはそちらを利用されています。ただ、これから店頭での販売によって、より拡大していくタイミングですので導入することにしました。

――では、MUSIC+プランはいかがでしょう。定額制の聴き放題サービスが日本でそこまで盛り上がっているかどうかわかりませんが、ユーザーからのニーズに応えるという視点なのでしょうか?

嘉戸氏
 サブスクリプションサービスの動向についてコメントできる立場にはないのですが、MUSIC+プランを開始する際、LINE MUSIC側と話したのは、「サブスクリプションの懸念はデータ通信量」だったんです。LINEモバイルのお客さまであれば、データ通信量を気にせず安心して使えるようにするという考え方です。

 その上で、LINEモバイルの立場であれば、他社さんの音楽聴き放題サービスに対応していいんじゃないか、ということで拡大することにしました。

――「囲い込み」という視点とは違いますね。

嘉戸氏
 私も、LINEという会社も、囲い込みはあまり好んでいません。プラットフォームでどうすれば一番わかりやすく届けられるか意識しています。

大手キャリアのサブブランドにどう対抗?

――ロードマップを作るということは、他社やユーザーの動向など、LINEモバイル以外の要素も予想しているのかなと思うのですが、ここまでおおむね予想通りですか? この半年で驚いたことはありませんでしたか?

嘉戸氏
 ドコモさんの回線を利用するMVNOさんについては予想通りですね。一方、大手キャリアさんのサブブランドはもう少し遅い動き出しかなと思っていました。

――そういえばIIJが、2月、サブブランドとMVNOでは格差があると自社イベントで話したそうです(※関連記事)。たとえばau回線でテザリングができる/できない、といったものですが、何か感じるところはありますか?

嘉戸氏
 そうですね……機能面もですが、帯域、通信速度についてはどうなんだろうと思います。

――他社の回線を実際に使ってテストされるのですか?

嘉戸氏
 はい。自分たちが同じ通信速度を出すには、何倍のコストをかける必要があるのか、だいたいわかりますから。

 あの……MVNOってすごく面白いんです。独自色をたくさん出せる。LINEモバイルのカウントフリーもそうですし、たとえばmineoさんの施策は面白いです。IIJさんはすごくチャレンジされていてすごく尊敬しています。

――15日の店頭イベントの後も、ヨドバシカメラ関係者がサブブランドのほうに勢いがあると口にしていました。LINEモバイルにとっては、大手キャリアのサブブランドを含め、カウントフリーだけで対抗していくわけではないですよね。

嘉戸氏
 はい、それだけではないですね。販売チャネルによって契約の獲得効率ってぜんぜん違うんです。たとえばAmazonさんはすごくわかりやすい例です。ワイモバイルさんが最近、Amazonさんでの販売をスタートさせましたが、それでもLINEモバイルはSIMのランキングで上位に居続けています。

 これは、契約の手続きといった側面もあるでしょうが、AmazonさんとLINEは同じネット企業で、ネット上での拡散の仕方を知っているという面があります。AmazonさんはLINEにとってはお客さまでもあり、そのLINE公式アカウントで「LINEモバイル」を案内していただくなどの取り組みで、流入増を図っています。

 とは言え、私たちの持っているデータと、ワイモバイルさんとUQさんとはあまり比較していないんですね。それは1年目と2年目で料金が違うこともありますが、そもそもMVNOを選ぶのはキャリアさんではない選択肢を探している方、とそもそもの志向が異なるためです。

メイン回線の動きも予想外

――そういえばメイン回線に選ばれつつあるとのことですが、これはMVNO全体の動きにもなっていますね。

嘉戸氏
 早かったですね! そこはロードマップと全く違っていた部分です。当初は、半年経過しても(LINEの通信量が無料になる)LINEフリープランが半数を占めると予想していました。でもぜんぜん違っていて。

――今の主流はFacebook、Twitterなどが無料になるコミュニケーションフリープランだと。それって9月のサービス開始当初からですか?

嘉戸氏
 9月はLINEフリープランが7割でした。でも今は3割です。もっと時間がかかると思っていましたがかなり加速したのは驚きました。

――予想と違う形になった要因も分析していると思うのですが……。

嘉戸氏
 サービス開始直後の1カ月は、MVNOに興味のある方が一気に買うだろう、500円プランが選ばれるだろうと考えていました。その後は700円の通話オプションを加えて月額1200円になるのかなと。ところがそうじゃなかった。そして予想よりも利用者層がちょっと若くなっていますね。

――利用者層が若い、というのは、もともとのLINEユーザーにLINEモバイルのサービスの魅力などが届いたということでしょうか。

嘉戸氏
 そこまで強い意志で「届ける」とは考えていなかったのですが、届いていますね……。最初はITリテラシーが高い、30代~40代の方が中心だと思っていました。その後、女性やより若い層が入ってくると。その移行が早かったです。

――ではメイン回線に選ばれている要因はどう分析されていますか?

嘉戸氏
 「コミュニケーションフリープランが使える」と評価されているところでしょうか。Twitterでの言及も追いかけているのですが、LINEモバイルは、他社よりもユーザーからのメンションが多いんですよ。「このプラン使える!」みたいな。

――質問ではなくて感想ですか。

嘉戸氏
 そうです。それから「こんなに使わない」とデータ通信量について、ソーシャルにみなさん投稿されるんですよね。ソーシャルに拡散されやすいのかもしれませんね。

――カウントフリーはLINEモバイルの独自要素とのことですが、無料通信分ということで、見方によっては料金競争という側面もあるように思えるのですが、ユーザーは料金面で比べた結果、選んでいるということなのでしょうか。

嘉戸氏
 それが……比べたという意見はないですね。安いから選ぶかというと違う。100円、200円の差は気にされていないようです。

――それならカウントフリーがあるからLINEモバイルにと。

嘉戸氏
 それから安心感なのでしょうね。データ通信量の節約もありますし、いくら使っても(LINEという)生命線は保たれるという。

多様なユーザー、獲得の方法

――今さらなのですが、カウントフリーの採算ってどういう考え方なのですか。

嘉戸氏
 採算というものでもないのです。たとえば帯域をいかに有効活用するか。同じ帯域幅を調達していたとしても、お昼に速度が遅くなるケース、そうではないケースに分かれることがあります。これって、ユーザーの多様性がもたらすものです。極端な例を出すと、ユーザーがみんな10GBプランを契約している場合、お昼休みに集中して使うとユーザーにとって体感速度はすごく悪くなります。でも、10GBユーザーが同じようにいても、使うタイミングが朝、昼、夜とバラバラだと、体感は良くなります。これって帯域を有効活用しているということです。

――その多様なユーザーは狙って獲得できるものなのですか?

嘉戸氏
 MVNO事業を検討し始めたときからトラフィックをどう分散させるか、体感をどう上げるか課題でした。そのためにはユーザーの多様性が必要です。多様なユーザーに利用されるには、こういう人向けのプランを用意するといったマーケティングが必要になりますが、全方位型のプランは、実はトラフィックを分散させる効果があるのです。

――つまりいろんな人が使い勝手がいいプランは、ということですか。

嘉戸氏
 そうです。たとえばコミュニケーションフリープランで3GBを選ぶ方は、そこまで使わないけど連絡は取りたい30代~40代の男性が多い。でも10GBになると若いユーザーになる。ライフスタイルが違うんです。

 一般的にMVNOとMNO(大手キャリア)のトラフィック動向は異なりますが、LINEモバイルのトラフィックはどちらかと言えばMNOに近いと思います。

――どの時間でも帯域を有効利用するという今のお話に似た考え方は、以前、基地局などの設備を担当する大手キャリアの中の人に取材で聞いたことがあります。

嘉戸氏
 私も前職、基地局関連のスタートアップにいましたので、ネットワークの有効活用は企画段階から考慮していました。

チャットサポートも店舗展開を見据えて

嘉戸氏
 12月に開始した「いつでもヘルプ」(AIか有人で質問に対応)も好評です。これもロードマップの中にあって、店舗展開の布石です。店舗スタッフがわからないことがあったときに「ここへ問い合わせを」と展開できるようにするためです。

 とは言え、AIなので回答の精度を向上させる必要がありました。でなければ「チャットしようとしたけど返事がない」と言われてしまう可能性があります。とはいえ、チャットで対応できるオペレーターって、サポート対応の教育のなかでは最後の最後になってようやくたどり着けるんです。

――資質を身に着けるまで時間がかかるのですか。

嘉戸氏
 チャットサポートって、即時性が期待されるのできちんと対応できなければいけません。しかもユーザーからの質問文はとても短い文章であることが多い。電話やメールのほうがユーザーの意図を読み取りやすいんです。そういう意味で熟練というか時間がかかるのです。ちなみに有人サポートの規模感は非公開です。AI対応は24時間ですが、有人は10時~19時です。

人気機種に絞って提供

――端末についても教えてください。LINEモバイルのWebサイトへアクセスすると「iPhoneが使えます」と案内されていますね。

嘉戸氏
 それは問い合わせが多いことの裏返しなんです。サポートスタッフの負担軽減も考えて用意しました。LINEモバイルのユーザーが利用する端末を見ると、iOSとAndroidの出荷比率と同じ、だいたい半々です。

――なるほど。Androidの取り扱いラインアップは、今、6機種紹介されていますね。

嘉戸氏
 端末のポートフォリオについては、少なくとも週次で売れ筋を見て決めています。社内では「そこまで多くの機種を揃える必要はないのでは」と考えています。

 サービス開始当初は、どれが人気になるかわかりませんでしたから、一時は9機種揃えることもありましたが、今は人気機種に絞っています。

――たとえば楽天モバイルだけで「honor 8」が扱われているように、LINEだけで取り扱う機種をラインアップする、という考えはあるのでしょうか?

嘉戸氏
 今のところはさほど考えていません。というのも、LINEという会社は独占よりも、ユーザーが自由に選べるほうがいいと考えがちなんです。

――では折りたたみ型の携帯電話、いわゆるフィーチャーフォンは?

嘉戸氏
 要望は特にいただいていません……がラインアップに加えたら売れるのかな、と悩んでいるところです。

――携帯電話の販売方法としては、キャッシュバックや割引などで購入意欲を刺激する手法があります。MVNOでもそうした施策を採用しているところはありますが、これから実店舗での販売を進めるにあたり、LINEモバイルとしての考え方は?

嘉戸氏
 あまりよくないと思うのは、端末の異様な値引きです。サービスでアピールしていきたいなと思っています。こうした考えに近いMVNOさんもいらっしゃると思います。LINEモバイルでは解約率を重視しています。端末を値引きすると、「買ってすぐ解約、端末を転売」という事例が増えるのです。

 実はそうした形で値引きされた端末を他社さんで購入しつつ、回線は解約してLINEモバイルを使う……という方もそれなりにいらっしゃいます。

――なるほど……それはLINEモバイルが何か仕掛けた結果ではなく、ユーザーが合理的に何がお得か追求した結果ということになりそうですね。

店舗展開で意識したサイクル

――15日からスタートした実店舗での販売についても教えてください。

嘉戸氏
 最初から10カ所という規模は、MVNOでは実はこれまでなかったと思います。本当に大変でした(笑)。

――既存の大手キャリアショップはどうしても待ち時間が長くなってしまう傾向が続いています。そうした点についてLINEモバイルではどう対策をしているのでしょうか。

嘉戸氏
 (端末価格を割り引く代わりに有料オプションの契約を迫る)いわゆるレ点商法はしませんし、ミニマムな説明に留めています。シンプルなサービス内容にするということは、待ち時間の短縮に繋がる、店舗での生産性が上がるんですよね。

 そうなるとカスタマーサービスのクレームも少なくなります。「シンプルな企画」→「接客時間(待ち時間)が短くなる」→「従業員もハッピー」→「クレームも少ない」と。

――キレイなサイクルですね(笑)。

嘉戸氏
 もちろん通信サービスなので、カウントフリーを含めて、必ず説明する部分はあります。でも手順などは改善し続けていきますが、大手キャリアさんよりも確実に短くなっちゃうと思っています。割賦もありませんし、2年契約もないですから。

――携帯電話の販売店は、スタッフへの負担が大きく、離職率がとても高いという話がありますね。

嘉戸氏
 そうなんです。離職率は絶対に高くしたくないと思っていて。店舗スタッフが愛してくれるサービスじゃないといけませんよね。良い物をちゃんと売ってるんだと思っていただけるようにしたい。現場の疲弊は変えていかないといけません。離職率が低いと人材の採用コストも抑えられます。生産性向上もあってコスト増にはなりません。

実はこじんまりとした運営

――サービス内容~離職率のサイクルや、ロードマップといったエピソードをうかがうと、流れが美しすぎると言いますか、隙が無いですね(笑)。

嘉戸氏
 店頭販売が始まって、今、まさにうちのスタッフは七転八倒していますよ(笑)。そうした現場の苦闘もありますし、LINEモバイルのTwitterでのサポートはまだ私が担当しています。ユーザーリサーチの項目も私が「第1問はこれ、第2問はこれ……」と書き出しました。新たなスタッフの採用も1日5件の面談もしていたりしていますよ。求人票も私が書いてます(笑)。

――それだけ面談されているのは採用基準が厳しいとか?

嘉戸氏
 LINEモバイルのサービスの作り方と、これまで通信キャリアでやってこられた方との間で温度差があるようですね……マッチする方を探すのが大変です。たとえばARPU(ユーザー1人あたりからの平均収入)も、私たちは「ARPUはいつの間にか上がるもの」という考え方なんです。ちょっと付加価値が付いていて価格は相応であれば、ユーザーは自然とそうしたサービスを選ぶのです。

――なるほど。今日はありがとうございました。