【Mobile Asia Expo 2013】

ドコモチャイナに聞く、中国での取り組み

ドコモチャイナの総経理(社長)、本間氏

 NTTドコモは、2008年に100%子会社のドコモチャイナを上海に設立。現地法人やコンシューマーに向けたビジネスを行っている。一般ユーザーも利用する可能性があるサービスとしては、海外渡航者向けのサポートを手がける上海の「サポートデスク」があり、これもドコモチャイナが運営している。Mobile Asia Expoには、「Handbook」などの法人向けソリューションを出展していた。このほか、同社はサポートデスクで、中国聯通(チャイナユニコム)のSIMカードや、SIMフリーのスマートフォンも邦人向けに販売している。こうした上海でのドコモの取り組みを、ドコモチャイナ 総経理(社長)の本間雅之氏に聞いた。

――まず、改めてドコモチャイナの概要を教えてください。

本間氏
 ドコモチャイナは、ドコモが100%出資している現地子会社です。2008年に上海で設立しました。元々、上海は世界で一番日本人が多く駐在している都市です。領事館の登録で約6万人、未登録の人まで入れれば10万人を超えるのではと言われています。そうした日本企業に向けて、モバイルを使ったソリューションを提供する目的で設立されました。

 2009年にはコンシューマー向けのサポートデスク上海を、「上海環球金融中心」というビルに作りました。これは、上海万博で多くの方がいらっしゃることを見越したためです。ローミングの仕方や電池が切れてしまった方のサポートをしていたほか、駐在の際に日本で使っていた携帯を解約された方の囲い込みとして、日本に帰るときに上海で事前にドコモの携帯を予約できるサービスも始めています。万博のときは非常ににぎわい、1日100人を超えるお客様がいらっしゃいました。

――法人向けはどのようなサービスをやられているのでしょうか。

本間氏
 1つご紹介したいのが、ECです。中国にはアリババやタオバオといったサービスがあり、非常に強い力を持っています。一方で日本企業に話を聞くと、確かにいいサービスだが偽者も並んでいるという意見も耳にします。ただ、だからと言って単独でECサイトを立ち上げると、初期費用もかかってしまいます。プラットフォームの利用料を他社とシェアしながら、あたかも自分のサイトとして利用できるサービスが求められていました。

 ファーストユーザーとして、釣具を販売しているDAIWAさんにご利用いただけましたが、やはりタオバオには出店したくないが、自社でサイトを作るのは様子を見たいとのことでした。これが、昨年始めたサービスです。

 そのほかには、屋外位置情報サービスや、MDM(モバイル・デバイス・マネージメント)もやっていて、MDMではトップシェアのSAP社が提供する「Afaria」というサービスを中国において日系企業に対して独占販売しています。

 業務効率化ソリューションも提供しています。これは、日々の在庫管理や営業日報の作成をモバイルで行うもので、たとえば、キヤノンさんの量販店向け営業マンが、これを持って日々の管理を行っています。

 これがメインで取り組んでいるソリューションです。

――逆に、中国のものを日本に紹介するといったことはされていますか。

本間氏
 新たなビジネスモデルとして取り組んでいます。中国の方が観光で、百貨店や量販で買い物をする際に一番使うのは銀聯カードです。日本でも大手量販店や百貨店は日本でも対応していますが、一般の商店街などではまだ対応していないところも多いのが実情です。そうした方が手軽に使える、Android端末に差し込むだけで決済ができるジャケットを販売している。リンクプロセッシングという、ドコモが出資した会社が決済システムを持っているので、そこに対して銀聯ジャケットを輸出するという形を取っています。

 また、ワークフローつきの出張旅費削減サービスも新たな取り組みの1つです。1つの特徴は決裁機能を持ち、上長の承認を得られるところにあります。また、旅費自体も安く抑えられるんですね。なぜかというと、ZTEさんに協力してもらっているからです。ZTEの社員は中国各地に出張するため、インハウスの旅行会社を持っていて、約3万のホテルと法人契約を結んでいます。これが幅広いホテルでディスカウントが効く理由です。このサービスは3月に始めたばかりです。

中国で展開する「Handbook」は、Mobile Asia Expoのドコモブースにも出展されていた

 対象をもう少し広げて、中国の外資系企業に対しても取り組んでいます。今、売上げの半分をホテル向けソリューションが占めていて、ドコモチャイナ設立以来の大ヒットになっています。アメリカのシステムを販売する形で、ホテルに勤務しているハウスキーパーさんや、機材のメンテナンスをする方に、マネージャーがSMSで指示を飛ばせるのが特徴です。上海には万博を機に、いわゆる5スターホテルが競ってオープンしましたが、彼らは使い慣れたアメリカのシステムが世界で一番進んでいると思っています。そうした理由もあって、アメリカのソリューションを販売することになりました。

 なぜホテルかというと、ドコモにはドコモインタータッチという会社があり、海外ホテルでのWi-Fiサービスを提供しています。このビジネスをドコモチャイナに持ってきたのも、元ドコモインタータッチの社員です。ドコモインタータッチは世界中のホテルのIT部隊に対し、強力な営業部隊を持っていますが、そこに対してオファーがあったものを、ドコモチャイナがやる形になりました。

 ほかにも、中国に日本の優れたサービスを盛ってこようという取り組みも行っています。「Handbook」というインフォテリアさんが提供しているサービスがあり、この市場を一緒に開拓することもやっています。こちらも、日系企業に導入実績ができています。

――コンシューマー向けのサービスはいかがでしょう。SIMカードも販売されているようですが。

本間氏
 中国聯通(チャイナユニコム)の回線を、代理店として販売しています。また、中国で使える携帯電話の販売もしています。

 また、最近始めたのが、日本用Wi-Fiルーターのレンタルです。こちらのビジネスマンが日本に行くときにWi-Fiルーターを使いたい、しかもできれば決済は人民元でしたいという要望があり、これに対応しました。10日間で500元(約8040円)という分かりやすい料金プランを作り、4月に開始しました。こちらも非常に好評です。

ドコモチャイナのWebサイトには、中国で使えるSIMカード(中国聯通)や、端末のページも用意されている。日本語でプランの詳細が確認でき、契約も日本語でできるため、旅行者にもお勧めしたいサービスだ

――SIMカードや端末は中国現地のショップでも買えますが、実績はいかがでしょう。

本間氏
 そこそこは売れていますが、爆発的にということではありません。去年でいうと、数十回線というのが実情です。端末だけをお買いになる方の方が多く、数百台は売れています。今では、ノキアのフィーチャーフォンからスマートフォンに変えたいという方が多いですね。回線はなぜ少ないのかというと、新規の需要が少ないからです。新規回線の需要が生まれるのは、基本的に駐在員を増員したときです。逆に交代要員がくると、新規の回線需要は生まれません。

――スマートフォンの普及で、サポートデスクに寄せられる相談に変化はありましたか。

本間氏
 はい。最近では、ほとんどの方がスマートフォンを持ってこられます。海外パケ・ホーダイを使うとき、どうやったら中国聯通に固定で設定できるのかといったことや(中国ではW-CDMA方式を提供するキャリアは中国聯通だけだが、固定にしておかないと中国移動のGSMに接続してしまうこともある)、固定にすれば電池の持ちもよくなるということを、お客様に対してコンサルしています。

 また、お問い合わせとして増えているのは、どうすればWi-Fiにつなげるのかということですね。国際ローミングをお勧めする拠点なので競合してしまい非常に悩ましいのですが、そうは言ってもお客様が困っているのでお知らせしないわけにはいきません。万博のときまでは国際ローミングでよかったのですが、さすがに海外パケ・ホーダイも浸透し、かつ上海ぐらいの大都市になるとWi-Fiスポットも多いですから、質問の内容も変化してきています。

 たとえば、「Wi-Fiを使えるレストランを紹介してほしい」と聞かれることもあります。

――それはさすがに業務の範囲外ではないでしょうか(笑)。

本間氏
 サポートですくには中国が地元のスタッフもいるので、そこは丁寧に回答しています。気持ちよく帰っていただきたいですし、やはりドコモでよかったと思ってもらいたいですからね。

――Wi-Fiを利用したいというユーザーに対して、中国聯通のSIMカードをお勧めすれば、利益につながるのではないでしょうか。

本間氏
 ただ、手数料が低いのがネックです。同様に中国移動とも代理店交渉をしていますが、彼らの回線は黙っていても売れるので、まだ契約は結べていません。一方で、中国聯通は中国移動の牙城を崩したいと考えているので、代理店の拡大に積極的です。

 また、尖閣問題もあって、一時的に新規の駐在員がほとんどいなくなってしまいました。その後、鳥インフルエンザもあって、旅行客の客足もぱったり止まっています。一過性のものだと思っているのですが、非常に悩ましいですね。コンシューマーを取り込むのには、ジレンマがあります。

 それでもBtoBに積極的になっているのは、企業が撤退したという話は聞かないからです。中国は景気に関して色々言われてはいますが、まだまだ伸びる市場ですからね。

――ちなみに、ドコモUSAのようにMVNOでという形はないのでしょうか。

本間氏
 残念ながら、中国ではまだMVNOができません。中国政府の工業情報化部(日本における経済産業省や総務省のような役割を果たす行政機関)がMVNOに関する公開ヒアリングを始めたところで、まずは中国の民間企業にMVNOをやらせていく方針のようです。有力なのはTencent(メッセンジャーなどを開発する中国のネット企業)や、中国の家電量販店で、彼らは手を挙げています。外資に広げるのは、そこから段階的にという形になるのだと思います。

 MVNOをやれるときにどうするかは、本社との相談になります。今の資本力では難しいですから。ただ、個人的にはドコモチャイナをハブにして、そういうところまでやってほしいという気持ちはあります。そうすれば、邦人営業にも広がりが出ますからね。

――本日はどうもありがとうございます。

石野 純也