【2013 INTERNATIONAL CES】

ソニーモバイルに聞く「Xperia Z」の開発コンセプト

ソニーモバイルの黒住氏

 ソニーモバイルは1月7日(現地時間)、2013年のフラッグシップモデルとなる「Xperia Z」と、その派生モデルの「Xperia ZL」を発表した。Xperia Zは、フルHDのディスプレイやクアッドコアCPUを搭載したハイスペックなAndroidスマートフォンで、「モバイルブラビアエンジン2」や「Exmor RS for mobile」といった、ソニーの最新技術もふんだんに盛り込まれた1台。海外での評判も高く、CESのソニーのブースには、連日Xperia Zを触る来場者が多く詰めかけていた。

 一方でこれまでのソニーモバイルは、どちらかといえば機能の高さで市場をリードするメーカーではなかった。別の言い方をすると、Xperiaは数字で表せるスペックより、ユーザーの体験を重視したスマートフォンだった。そのソニーモバイルが、なぜ現行モデル最高峰のハイエンド端末を開発したのか。Xperia Zを見て、まずこのような疑問が頭に浮かんだ。

 「Xperia X10」(日本では「Xperia」)発表時に打ち出した「コミュニケーション・エンタテインメント」のような強いメッセージも、最近は控えめになっているように感じる。ソニーモバイルが、Xperia ZやXperiaシリーズでどのような価値をユーザーに提供したいのかは、フラッグシップが発表された今、改めて確認しておきたいところだ。そこで、ソニーモバイルで商品戦略を担当するVice President、Head of UX Product Planningの黒住吉郎氏に、お話をうかがった。

――まずは、Xperia Zの手ごたえを教えてください。

黒住氏
 逆にうかがいたいのですが、Xperia Zを見てどう思いましたか?

――第一印象では、だいぶデザインが変わったように感じました。

黒住氏
 「デザイン」と日本語で言うと、どうしても表層的な意味になってしまいますが、商品についての考え方という意味で言えば、大きく変わったことはありません。ソニーモバイルになっても、デザインを単なる造形物と捉えるのではなく、“人との関係の中でこうあるべき”ということは基本に置いています。英語ではずっと「ヒューマンセントリックデザイン」と言い続けていますが、その基本は一貫しています。

 Xperia X10から始まり、Xperia arc、Xperia Sがあり、Xperia Zに続いていますが、形は違えど、どれもヒューマンセントリックデザインに基づいています。ただ、使い方、使われ方が、5インチになったこともあり、大きく変わってきます。1.5GHzのクアッドコアCPUも、昔のワークステーションが手に収まっているようなものです。そうなると、電話の使い方も昔と同じではなくなります。これまでより横に持って操作するようになりますし、カメラのように構えることも増えます。でも、普段は縦で使いたい。いろいろな使われ方を想定すると、裏と表を同じ面構えにして、デザインに“動き”を作ってあげたいですし、動かす時もきれいでいてほしいんです。

 Xperia Zは、すべてが直線ではなく、手に当たるところがちゃんとした球面になっています。そうすることで、端末を動かしながら使う意識も生まれてきます。これらを称して、我々は「オムニバランスデザイン」と呼んでいますが、原点には、どんなとき、どんな使われ方をしても、美しくあってほしいという思いがあります。

――5インチのディスプレイや、クアッドコアCPUは、開発の前提だったということでしょうか。

 端末の開発期間で考えると、Xperia Zが新生ソニーモバイルの第1号機とも言えます。当然、気合を入れて作りますし、ソニーの英知も結集させています。

 一番きれいで、大きなディスプレイを載せ、カメラの性能も妥協したくはありません。また、できる限りコンパクトで薄くしつつも、それを実現するにあたってカメラだけがポコっと飛び出すようなことはしたくありませんでした。バッテリーも2330mAhと大きくしています。カメラモジュールの高さ、バッテリーの大きさ、基盤の配置を考え、一番体積を減らすにはどうすればいいのか考えた結果が、この形だったということです。

黒住氏はXperia Zを「スーパーフォンへの挑戦」と語る

――機能をそこまで入れるという方針は、今までになかったものだと思います。ソニーモバイルは、ユーザーの体験に重きを置いた商品開発を以前から標榜していました。たとえば、Xperia AXやXperia VLは、同じ商戦期の中では平均的なスペックでしたが、販売は好調です。それも、そういった方針がユーザーに受け入れられたからだと思います。

黒住氏
 もちろん、Xperia AXや、Xperia rayのような商品を否定しているわけではありません。(ソニーのCEO)平井も言っていますが、これらもソニーらしい、ソニーにしかできない製品なので、否定するものではありません。

 ただ、今回のXperia Zで挑戦したいのは、米国で言われているところの「スーパーフォン」や「スーパースマートフォン」という領域です。事実上、スマートフォンを引っ張っているのはそのカテゴリーで、業界のど真ん中とも言えます。ソニーがスマートフォンをやる上で、そこは避けて通れません。この領域は体力勝負、知力勝負です。それらを持ち合わせていなければ参戦すらできません。

 たとえば、オリンピックには参加するにあたって、標準記録をクリアしてなければいけないといった基準がありますよね。スーパーフォンも同じで、そこは最低限クリアしなければいけない。現状では、それがディスプレイでありCPUであるということです。

 当然ですが、それらを持っていてもスーパーフォンの領域に参加できるだけです。勝つためにはプラスαで独自のトレーニングをしなければいけないというのも、オリンピックと同じです。ここは、ソニーモバイルで言えば、幸いにもソニーという親がいます。欠点がない形にして、その上でこれを見てくださいということができるのです。クアッドコアが入りました、画面が5インチになりましたとさけぶのではなく、それがあって次のステップに進むことができます。

ソニーブースにあったXperia Zの展示は、動く様子も美しいデザインを表現するためのものだ
カメラには、ソニーの「Exmor RS for mobile」を採用

 Xperia Zでいうと、世界で初めて「Exmor RS for mobile」の13メガカメラを載せました。これは、カメラのスペックがすごいというより、撮った映像がきれいというメリットがあるからです。1080pのディスプレイもそうで、密度を443ppiまで上げられます。一般的には300を超えれば肉眼では判別できないと言われていますが、やはり300水準のもとの比べると違いは分かります。その上で、モバイルブラビアエンジン2で、動画や写真がよりシャープになり、色もきれいに出ます。そういうところは、まさにソニーならではです。

 カメラに関しても、これまでCyber-shotケータイをやってきています。欧州ではカメラケータイを一番最初に押したこともあり、カメラのソニー・エリクソンという自負もありました。一方で、もっとそれより強い自負を持っているのが、我々ソニーのデジカメチームです。今回のモデルは、根っこの部分からデジタルイメージングやセンサーを作っているチームと、ジョイントして進めてきました。

フルHDディスプレイが、モバイルブラビアエンジン2でさらに美しくなる

 ソニーとしての第1号機となれば、一緒にやるという次元も意識も変わってきます。一昨日、デジタルイメージングの責任者をやっている人間がブースにきて、「最近のXperiaのカメラは俺たちがやってる」と話していました。もちろん、実際にそこまですべてをやっているわけではありませんが、マネージメントが自分でやっているという感覚になっている。これまでだと、「Xperiaもカメラはがんばっているな」とどこか他人ごとのような感想になっていました。他人事と思わず、自分が一緒にやっている。こういう会話ができることが、まさに「One Sony」です。たわいもない雑談でしたが、うれしかったですね。

――確かに、今回のカメラは、暗い場所でも本当にきれいに撮れます。

黒住氏
 暗いところや、逆光時の補正はすごくいいと思います。「プレミアおまかせオート」を使えば、かなりのシーンで、最適なものを自動で選んでくれます。今までのオートシーンセレクトより、格段によくなっています。

 一方で、まだ本家のCyber-shotやαには追いついていないのも事実です。カメラは物理的なものとデジタル、ソフトウェアの総合です。センサーやレンズのサイズ、明るさを考えると、どうしても携帯電話のカメラはかないません。一方で、画像処理の部分は、かなりのところが追いついています。今後は、デジカメだからいいと言われていた部分を、補えるポテンシャルはあると思います。

ユーザーインターフェイスのデザインも、画面サイズに合わせて変更された

――今回は、ロック解除画面やホーム画面のユーザーインターフェイスも変わりました。この意図も教えてください。

黒住氏
 大画面になり、よりダイナミックに見せたいという意図があります。スワイプするためのバーがあると、どうしてもこじんまりと見えてしまいますからね。プロトタイプも20個ぐらい作り、検証してきました。

 ロック解除画面は、ロックを外すというより窓を開けていくイメージです。これまではドアの鍵を空けるという概念でしたが、ブラインドを上げていく最中の様子を視覚化しています。電話の向こうに、無限につながる世界があるというイメージですね。

 ホーム画面(にウィジェットやアプリを置くとき)の処理も、ダイナミックに見せるためです。難しいのはあまりやりすぎると意外とパワーが必要になってしまうので、これも何パターンか作り、どれがどの程度メモリを消費するのかを確認しながら搭載していきました。ソフトウェアはやればやるほど分かってくるので、そのさじ加減が上手くできるようになってきました。

――先ほど「スーパーフォン」の領域というお話がありましたが、一方でXperia X10のときに打ち出した大きなコンセプトを、最近、あまり聞かなくなりました。ある意味、ソニーらしかった部分だと思いますが、これについてはどうお考えでしょうか。

黒住氏
 もしかしたら、コンセプトが見えないというのはそのとおりかもしれません。Androidというプラットフォームの上でやっていて、動きの速いSNSがこちらの想像以上に広がっていく中で、どういう形でソニーらしい「コミュニケーション・エンターテインメント」を打ち出せばいいのか、今悩んでいるところです。

 ただ、コミュニケーション自体がエンターテインメントにならなければいけないというのは、ずっと思っています。オーディオビジュアルを持ってくるのはもちろんですが、コミュニケーションそのものが楽しくなければ、携帯電話の意味がありません。だからみんな電話もするし、メールもするのだと思います。

NFCでの機器連携は、ソニーグループとしてさらに強化していく
海外からは絶賛の声があがっている。CESでもさまざまな賞を獲得した

 原点に戻ると、この端末をどうしたらユーザーに喜んでもらえるのか。電話は人と人をつなげるように、ほかのものの媒介にもなります。たとえば、今回やっている(NFCで機器同士をつなげる)ワンタッチも、その一環です。今まではアプリを落としその中で済ませればよかったものが、端末の性能がここまで上がり、生活の中に入り込んでくると、この経験を誰かほかの人と一緒に楽しみたくなります。Xperia arcのときに、HDMIでテレビに出力して、電話のあり方が変わると言っていたのはそういう意味です。でも、せっかくやるならワイヤレスで、スマートにやりたい。であればというわけで、NFCを使ってやることにしました。総合メーカーの強みも、そういうところにあります。

 また、クラウド、サービス、アプリ、コンテンツに、いかに簡単に、いかに気持ちよくつなげていけるのかも考えています。そのひとつに「Sony Entertainment Network」がありますが、生まれがエンターテインメントなので、どうしてもコミュニケーションへのケアが足りなくなります。たとえば、「Music Unlimited」には1600万曲の楽曲がありますが、そこに対してコミュニケーションを始めたらどんなに楽しいか。今見え始めている道筋はそんなところです。

――本日はどうもありがとうございました。

石野 純也