俺のケータイ of the Year

Xperia Z

Xperia Z

石野 純也編

 振り返ってみると、筆者が「俺のケータイ of the Year」に参加したのは、2007年からとなる。スマートフォンを初めて選出したのは2010年のことで、当時はドコモから発売されたばかりの「GALAXY S」をチョイスしていた。以降の年はスマートフォンが続き、2011年は「Xperia arc」、2012年は「GALAXY S III」と続いている。

 よくよく見ると、GALAXY→Xperia→GALAXYとキレイな順番ができているが(笑)、どちらも早くからAndroidに取り組んできたメーカーで、グローバルでもシェアが高いという点を考えると自然な結果と言えるのかもしれない。この流れに沿ったわけではないが、今年の「俺のケータイ of the Year」に推したいのが、ソニーモバイルの「Xperia Z」だ。

 これまでのXperiaも、確かに魅力的な機種が多かった。2011年の「俺のケータイ of the Year」に選んだXperia arcは、背面がアーク形状になった美しいデザインやカメラ機能が魅力で、当時の原稿を読み返しても「バランスのいい端末」と評価している。一方で、Xperiaはスペックを見ると、最先端のグローバルモデルに一歩及ばないところがあった。たとえば、同じ2011年にはサムスン電子が「GALAXY S II」を発売しており、デュアルコアCPUを搭載し非常にサクサク動いたことを記憶している。一方のソニー・エリクソン(現・ソニーモバイル)は同時期に「Xperia acro」を発売した。このXperia acroはおサイフケータイ、ワンセグ、赤外線といった日本仕様を取りこみ、実際にその部分が評価されヒットはしたが、ことスマートフォンとしての基本性能ではGALAXY S IIに見劣りしていた感はあった。

 その前の年には、日本における初代Xperia(海外では「Xperia X10」)が発売されているが、こちらについても同様である。SNSや電話帳の情報に横串を挿す「Timescape」のように斬新な機能は搭載していたものの、OSのバージョンが「HTC Desire」より古く、パワフルさではGALAXY Sに負けていた。世界観や個性、魅力的なデザインはあり、バランスも悪くないが、ハイエンドモデルとして何か欠けているところがある。これが、当時からXperiaに対して抱いていた印象だ。

 この傾向が少しずつ変わり始めたのは、昨年のことだった。Xperia arcを「俺のケータイ of the Year」に選んだときに触れていたように、ソニーがソニー・エリクソンの株式を100%取得し、完全子会社になった。昨年は「Xperia acro HD」や「Xperia GX」「Xperia SX」「Xperia AX」といった端末が発売されており、スペック面でも、だんだん他社のハイエンドに見劣りしなくなってきた。一方で、形状が機種によってバラバラだったり、LTEへの対応が他メーカーより遅かったりと、このまま迷走してしまうのではないかと密かに心配もしていた。個人的にもピンとくる機種がなく、結果としてこの年の「俺のケータイ of the Year」に挙げた機種は、「GALAXY S III」だった。

 そして2013年1月、米・ラスベガスで開催されたCESで、「Xperia Z」が満を持して発表された。これまでのXperiaとは異なり、両面にガラスを用いたフラットなボディを採用しており、機能も最先端のものが詰めこまれていた。当時のインタビューで開発を指揮したソニーモバイルの黒住吉郎氏は「スーパーフォンと呼ばれる領域に挑戦したい」と語っていたが、その意気込みが表れた製品だったと感じている。Xperia ZはクアルコムのクアッドコアCPUを採用しており、当時はまだ一般的ではなかったフルHDディスプレイや、世界初の「Exmor RS for mobile」を搭載した点も、この黒住氏の発言を裏づける。実際、日本はもちろん、海外での評価も高かった。Mobile World Congressの取材にあたって先行発売された日本版を欧州に持っていったが、英・ロンドンのVodafoneショップの店員に「これが、あのソニーのスマートフォンか」と話しかけられ、あれこれ質問され、少し驚いたことも覚えている。

 また、ソニーの100%子会社となり、他の製品との連携もより深まった。前年のXperiaから徐々に搭載されてきていたが、「アルバム」「Walkman」「ビデオ」といったアプリ群が秀逸で、標準のAndroidにはない利便性がある。特にピンチイン、ピンチアウトで驚くほど滑らかにサムネールのサイズを変更できるアルバムアプリは、写真を見る頻度が上がるほどだ。これらのアプリは他のソニー製品とも、共通のデザインや機能を持っている。NFCによってワンタッチで設定を変更したり、他の機器と接続したりする機能も、印象に残った。こちらも機能自体はこれ以前のXperiaから搭載されてはいたが、Xperia Zの登場に合わせて対応機器がさらに増えていった。

 もちろん、性能的には、10月に発売された「Xperia Z1」の方がいい。ディスプレイの画質、カメラの性能はもちろん、ボディのフレームもアルミになり、質感はさらに上がった。ソニーと一体になって開発した成果がきちんと出ているのも、Xperia Z1だろう。実際、独・ベルリンのIFAで行ったソニーモバイル 田嶋知一氏へのグループインタビューでは、Xperia Zには「Xperia Z0(ゼロ)」という意味を込めていたことが明かされている。Z1はカメラのセンサーをゼロからソニーと一緒になって開発したが、その前段階として、持てる力をつぎ込んだ端末がXperia Zだったというわけだ。

 逆に言えば、Xperia Zは、2013年に発売されたXperiaの“ベース”になっている。Xperia Z1はもちろん、同モデルをコンパクトにした「Xperia Z1 f」や、au版のXperia Zとも言える「Xperia UL」、ツートップに選ばれ大ヒットを記録した「Xperia A」などは、すべてこのXperia Zが元となり、派生もしくは正統進化した機種と捉えられる。筆者が年末に掲載される「俺のケータイ of the Year」に、あえてXperia Zを推したのも、この機種がそうした位置づけであることを評価したからだ。

 とがった製品ゆえに、トレードオフになっている部分はある。たとえば、持ちやすさはその1つ。丸みを帯びた部分が少ないため、Xperia Zはディスプレイサイズ以上に大きく感じる。実際、同じ5インチ端末同士で比べても、「GALAXY S4」や「Nexus 5」の方がはるかに片手で持ちやすい。また、防水を実現するため、キャップが多いのもネックだった。フレームになじむ質感でデザイン上はそこまで気にならなかったとはいえ、空けたまま使うことになるイヤホンだけはキャップレスにしてほしかった(後継のXperia Z1ではそうなったが)。ただ、Xperia Zは、そうした欠点を補って余りある、魅力ある端末だったことは確かだ。CESでソニーモバイルが発表したあと、日本で発売されるのが待ち遠しかったと記憶している。個人的にここまでほしかった機種はほかになかったという意味でも、Xperia Zが「俺のケータイ of the Year」にふさわしい1台だと感じている。

石野 純也