日本のコンテンツを海外でいかに売るか

英国貿易投資総省のヒューズ氏が語るモバイル市場


 電波方式や端末進化の方向性から、「ガラパゴス」という自嘲的な表現も飛び交う日本の携帯電話市場。しかしモバイル市場の発展が全世界的なものであることは疑いようもなく、国内市場の飽和などを背景に、日本のコンテンツ関連企業もまた必然的に海外に目を向ける必要が出てきた。

 国によって異なる商慣習や文化を乗り越え、日本のコンテンツを海外で売るにはどうしたらいいか。駐日英国大使館主催のセミナーに講演者として来日した英国貿易投資総省 デジタルテクノロジー&コンテンツ セクター・チャンピオンのトニー・ヒューズ氏に、そのヒントを伺った。

有望コンテンツはアニメとゲーム?

英国貿易投資総省 デジタルテクノロジー&コンテンツ セクター・チャンピオンのトニー・ヒューズ氏

 トニー・ヒューズ氏は、英国でテレビやデジタルメディアの業務に従事。その後は産学連携による起業支援センターの設立などに携わったほか、大手企業のコンサルティングなどを手がける企業の共同創設者としての実績を持つ。現在は英国の貿易投資総省に籍を置き、外国企業の英国進出などを促進している。

 ヒューズ氏は「英国の携帯電話市場規模は現在7500万契約。国民1人あたりが1.25台ずつ端末を保有している計算になり、コンテンツ販売の市場規模は年間10億ポンドにおよぶ(1ポンド150円換算で1500億円)」とその規模を説明する。

 一方、日本の業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」(MCF)が発表した2008年度の日本国内モバイルコンテンツ市場は4835億円。算出基準の違いなどがあるため正確な比較は難しいが、単純に計算すれば市場規模は日本が上になる。しかし国際的言語の英語をベースに英国進出が図れれば、他国へと商圏を広げられる可能性もあるため、潜在的な市場はさらに大きくなるとも考えられるだろう。

 英国で流通している携帯電話向けコンテンツは、着信メロディや待受画像が中心。ビデオも取扱量が増えてきているという。また音楽配信については英国コンテンツ市場の1/5、2億ポンドに達しつつあるとヒューズ氏は解説する。直近ではPC向け音楽配信サービス「Spotify」がモバイル向けでも提供され、人気を集めているという。

 実際に日本国内のコンテンツを英国で販売すると考えた場合、短期的な観点ではどのようなジャンルに人気が集まるかだろうが。ヒューズ氏は「スタジオジブリに代表されるアニメーション、あるいはゲームなどが英国でも受け入れられやすいのではないか」と分析する。

 ゲームはすでに人気を集めているコンテンツであり、英国の人気ランキングでは日本製ゲームが上位を占めることも多い。中でもスポーツゲームについては「言語を問わない世界共通のエンターテインメント性を有している点などがら期待できるだろう」と説明する。さらに女性の46%がモバイルでゲームを楽しんでいるという統計もあり、幅広いユーザーがゲームを楽しむ実態が浮かび上がっていると補足する。

 日本国内ではニンテンドーDSやPSPなどの携帯ゲーム機が一定の地位を確保しており、携帯電話で楽しむゲームといえばパズルなど気軽に楽しめるゲーム中心という感は拭えない。しかし、ゲームも含めたさまざまなアプリケーションを実行できるiPhoneの登場以降、携帯型ゲーム機市場を多少なりとも浸食しているというのがヒューズ氏の観点だ。

 「30ポンドでニンテンドーDSのゲームを買っていたのが、携帯電話で3ポンドで楽しめれば人は安い方を選ぶだろう。現在はクオリティに差があるが、いずれその差はうまる可能性が高い。電話やメールという付加価値があり、常に持ち歩いている携帯電話が、携帯ゲーム機のシェアを奪っていくのではないか」(ヒューズ氏)。

法的配慮はどこまで必要か

 日本では、広告掲載を前提に無料ゲームを提供するSNS「モバゲータウン」「GREE」などの存在感も大きい。ヒューズ氏によれば英国でも同様のサイトは増えているという。米Googleが携帯電話向けの広告会社「AdMob」を買収した例にも触れ、モバイル広告の取り扱いは今後大きく変化するだろうと予測する。「現状でも74%のモバイルユーザーが、無料ゲームをもらえるなどのインセンティブがあれば広告を見てもかまわないと答えている。PCの世界ではこうはいかない」とも続け、広告とユーザーの関係性に注視すべき姿勢も見せた。

 一方、携帯電話を取り巻く社会的問題として長年認知されているのが「出会い系サイト」だ。SNSが出会い系サイトとして利用される実態もあり、日本国内では業界レベルでの自主規制、青少年を対象とした有害サイト閲覧制限の法制化などに発展している。英国でも同様の配慮は必要なのだろうか。

 ヒューズ氏は「問題の発生しそうなチャットなどのサイトは、警察による取り締まりなどが行われている」と現状を説明。法による直接的な規制は現状ではないという。

 その上で「インターネットを使った何らかの犯罪が発生した場合、モバイルやゲームなどの新興ビジネスはスケープゴートにされがちだ。しかしそれら犯罪の多くはモバイル登場前からあったもの。青少年保護の枠組み自体はもちろん必要だが、それらの対処は専門家に任せ、コンテンツプロバイダー自体は過度に心配する必要はないだろう」と続ける。企業自身は“常識の範囲内”でのサービス提供を心がけるべきとした。

 ヒューズ氏は「日本のコンテンツプロバイダーの皆さんは、ぜひ貿易投資総省を使ってほしい。パートナーシップを必要としている英国企業の紹介はもちろん、われわれがエージェントとなって現地企業との協業などもお手伝いしていく。ヨーロッパでももっとも起業しやすい国とされている英国で、先進的な日本市場で培ったサービスを展開してほしい」と訴えた。同氏はまた、「来年の今頃は(英国人である)私のケータイでも、日本の演歌が聴けるようになれば」とユーモアも交えて語っていた。




(森田 秀一)

2009/11/25 06:00