楽園モルディブのケータイ事情

 KDDI総研 宮脇景子
 (株)KDDI総研 市場分析グループ。国内のモバイル市場の需要予測や、行動観察調査などを担当。気が付けばスマホを手放しづらくなっている自分を戒めるためにも本稿を執筆。


 リゾート地として人気の高いモルディブ共和国。Maldivesとはサンスクリット語で「島々の花輪」の意味。その名の通り、26の環礁と約1200もの島々が円を描くように連なっている。

 島にはそれぞれ役割がある。「住民の島」と「観光客の島」は明確に分けられているし、「空港の島」「ごみの島(ごみを処分する島)」などもある。首都であるマレ島は、世界一人口密度が高いとも言われており、東京都心のビジネスアワー以上の密度だそうだ。

 筆者も念願叶い、モルディブを訪れることができた。エメラルドグリーンから深い青まで濃淡をつけながら広がる海は、さえぎるものが何もなく、丸い水平線が見渡せる。引き潮になると現れる真っ白な砂州は海を割ってどこまでも伸びるようで、隣の島まで歩いて行けそう。キラキラまぶしい太陽に少し疲れたら、木陰にそよぐ風が体を冷やしてくれる。まさしく、この世の楽園!

楽園モルディブ(筆者撮影)

 そんな楽園で、ふと気がつく。あれはもしかして携帯電話の基地局では?

もしかして基地局?(筆者撮影)

 モルディブ=日常からかけ離れた場所、と考える我々観光客にはちょっと違和感があるが、モルディブの現地の人たちも当然携帯電話を持っているし、インターネットだって楽しむのである。

 リゾートスタッフの方にお願いして、モルディブのケータイ事情についてインタビューを行った。ここでは便宜上、男性スタッフをアリさん、女性スタッフをジャミーラさんと呼ぶことにしよう。

――モルディブでもケータイは当たり前?

ジャミーラさん
 うん、みんなケータイは持ってるわ。リゾートホテルに住み込みで働く人や、進学のために地元を離れている学生のように実家を離れて暮らす人も多いし、固定電話よりも断然ケータイが必須。うちのスタッフにも、子供の写真を毎日のようにメールで送ってもらっている単身赴任のお父さんがいるのよ。

――(話を聞くと、ケータイの普及状況は日本と同じような感覚らしい)ジャミーラさんのケータイ、見せてもらえますか?

ジャミーラさんの携帯電話(筆者撮影)

ジャミーラさん
 仕事用とプライベート用で2つ持ってるの。1つは仕事用、会社から支給されたSIMカードを、自分で選んだ端末に入れて使っているわ。

――(モルディブのケータイはいわゆるSIMフリー。携帯電話会社からSIMカードを買い、端末は好きなものを自由に選べるのだ)

ジャミーラさん
 私は殆どケータイを使わないから、プライベート用はプリペイドのケータイなの。周りの同世代の人たちはたくさん通話するから、通話料割引のある月額契約にしている人が多いわ。皆よくあんなに長く話せるなと思っちゃう。私自身は使わない月は5ドル位で収まるの(笑)。

――(ジャミーラさん自身はケータイをそこまで使わないタイプだそうだが、月5ドルとは安い。では月額契約の場合だと、大体いくら位なのか? 月額契約をしているアリさんに聞いてみよう)

アリさん
 僕の場合は月に50~60ドル位かな。特定の相手との通話が安くなるプランに入ってるよ。

――(通信料金は日本と同じ位の水準だった)ところで、アリさんのケータイは?

アリさん
 僕のはこれだよ。

――(出ました、スマートフォン! サムスンのGALAXYでした)やはりモルディブにもスマホブームが到来しているのですね。

アリさん
 モルディブで一番流行っているスマホはiPhoneかな。あとはノキアやサムスン。

――お値段ばっかり聞いてごめんなさい。このスマホはいくらで手に入れたの?

アリさん
 500ドル位だったかな?

――(端末の値段も、日本で入手する場合と変わらないようだ)そういえば、モルディブのケータイ会社は何社あるの?

アリさん
 Dhiraagu(ディラーグ)とWataniya(ワタニア)の2社があるよ。料金も割引サービスも似ているし、大きな違いはないな。強いて言えば、Wataniyaの方がちょっと先進的なイメージがある。

――(ここまでの話を聞いていると、SIMフリーだという違いはあれども、モルディブのケータイ事情は日本と比べ大きな違いはないようだ。ここでジャミーラさんが一言)

ジャミーラさん
 そうそう、アリさんは最近番号を変えたのよね?

――電話番号を変えた? なんでまた?

アリさん
 ちょっと人間関係の清算にね(笑)。モルディブでは電話番号や契約会社を変えるのはよくあることだよ。


 これにはちょっと驚いた。日本ではMNPが当たり前で、みんな電話番号はおろかメールアドレスが変わるのも避けたがる。モルディブでは携帯電話会社による、いわゆる“2年縛り”は存在しないため、気が向けばキャリアも番号も変え放題らしい。日本でも2年縛りがなくなったら、みんな番号を変えたがるのだろうか。私の場合は、手間を惜しんでやっぱり変えないだろうな。

 ちなみにモルディブの海はダイバーにも大人気で、ドボンとダイブすればまさに竜宮城が待っている。島と島の間の移動も全て船なので、モルディブで暮らせば海に出る機会は日本以上に多いだろう。ここでふと気になった、ケータイの水没事故。やっぱりモルディブでは事故多発なのかなあ。

2012/4/25 10:00