インタビュー

ファーウェイ呉波氏に聞く「P9」「P9 lite」の手応え

“実質0円終了”がSIMフリー市場の追い風に

 17日にSIMロックフリーのAndroidスマートフォン「HUAWEI P9」と「HUAWEI P9 lite」を発売したファーウェイ。昨年5月の直営オンラインストア「Vモール」のオープン以来、日本のSIMロックフリー市場で積極的に製品を投入してきた。

 4月では銀座にサポート拠点をオープン。販売店舗の展開も予定するなど、ファーウェイ製品を体験できるスポットの展開も強化していく。

 競合製品を投入するメーカーも増え、熱を増しつつある日本のSIMロックフリー市場の中で、ハイエンドモデル「P9」を投入したファーウェイ。市場への反響や今後の取り組みについて、ファーウェイ・ジャパンで端末部門を統括するデバイス・プレジテントの呉波(ゴ・ハ/Wu Bo)氏にお話をうかがった。

ファーウェイ・ジャパン デバイス・プレジテント 呉波氏

市場の変化が追い風となった「P9」発売

――今回「HUAWEI P9」と「HUAWEI P9 lite」という2モデルを日本市場向けに投入されましたが、発売後の手応えやユーザーからの反響はいかがでしょうか。

呉氏
 「P9」と「P9 lite」は、先週末(6月17日)の発売以来、我々の予想をはるかに上回る反響をいただいています。販売店には、1~2週間程度で販売する台数を見込んで納入していますが、一部の店舗ではその在庫が初日に売り切れたという報告も受けています。

――以前から「Mate S」などプレミアムラインの製品も投入されていましたが、今回、ハイエンドモデルと言える「P9」を投入されたことに対する不安はありましたか。

HUAWEI P9

呉氏
 「P9」の投入を決めた時から自信を持っていました。今回はハイエンドモデルを投入するには、最もベストなタイミングだったと思っています。以前、「Ascend Mate7」や「Mate S」を投入した時は、市場では大手キャリアの端末購入補助が強く、芽が出ない状況でした。

 「P9」投入の前に、総務省から大手キャリアの「実質0円販売」に対して是正勧告があったことで、追い風が吹きました。その後発売の「P9」は、このクラスのスマートフォンでは非常に競争力がある価格だと考えています。

 昨年、弊社から「Mate S」を発売した際に、日本の知人達に製品を披露しました。すると、「どのキャリアを通して販売するのか」と聞かれました。彼らにとってスマートフォンはキャリアを通して買うものだったのです。価格についても「高い」と言われてしまいました。

 「P9」を発表した後で、同じように披露したら、「iPhone 6sが10万円で販売されているのに比べて、6万円は安い」と言われました。知人の反応が示すように、日本の市場環境も劇的に変化しています。2016年のSIMフリー市場はさらに大きく変化する年だと考えています。

――ロンドンでグローバル版を発表した際には、「P9」よりさらに強化された5.5インチの「P9 Plus」も発表されました。日本のユーザーにも待ち望む声があるかと思います。

呉氏
 我々は、どの市場にどの製品を投入するかについては、その市場のユーザーニーズに厳格に合わせています。

 確かにグローバルでは、iPhone 6s Plusのような、大画面のスマートフォンを望む声が多くあります。

 一方で、日本市場では、5.2インチの「P9」のようなサイズ感が好まれていると感じました。市場調査の結果でも、他社製品を含め、5.5インチ以上の大きさで少しでも売れたモデルはありませんでした。他のどの国とも違うユニークな市場です。

快適な操作性の裏側にある技術

――「P9」の目玉機能としてライカと共同開発したカメラ機能が搭載されていますね。これまではインカメラのビューティーモードなどを積極的にアピールされていましたが、今回アウトカメラに力を入れた意図をお聞かせください。

呉氏
 スマートフォンでよく使われる機能といえば、動画視聴など画面に表示するものと並んで、撮影は重要なものの1つです。「P9」では、スマートフォンのカメラ機能を極めることを目標にして開発しました。


 これまで力を入れていた「セルフィー」(自分撮り)は、複数提供していたカメラ機能の一部という位置づけでした。今回のライカとの取り組みでは、カメラ機能そのものを強化することを目的としています。

 ダブルレンズの機構は見た目にも映えますが、実際に機能させるにはただレンズを並べるだけでは不十分で、相当な技術の蓄積が必要となります。とりわけ重要なのはアルゴリズムです。ファーウェイではロシアにアルゴリズム専門の研究センターを設置して、その研究成果をスマートフォンにも取り入れています。

――撮影機能にこだわると、ユーザーインターフェース(UI)が複雑になりがちですが、「P9」ではどういった工夫をされていますか。

呉氏
 実は、私は今までデジカメを1台も買ったことがないくらい、カメラに関してはど素人です。この「P9」を初めて手にして、マニュアル撮影モードを目にした時は、まさに今おっしゃったような困惑を感じました。

 しかし、実際に使ってみたら、見た目以上に簡単に操作できました。というのも、1つ1つの項目をすべて設定する必要があるデジカメのマニュアルモードと違い、「P9」のマニュアルモードでは自分で設定していないものについては最適な調整に自動で設定されるのです。

――「P9」はカテゴリー6のLTEに対応していて、2波のキャリアアグリゲーション(CA)に対応していますが、大手キャリア向けには3波CAに対応した機種を提供されています。SIMフリー市場向けには一歩引いた姿勢のようにも思えます。

呉氏
 まず、「P9」は現状、日本のSIMフリー市場向けの製品ではもっとも高速な部類に入ります。そして、市場では珍しく、キャリアアグリゲーションにも対応しています。

 そのP9にも搭載されているチップセット「Kirin」を設計するHiSilicon社は、ファーウェイの子会社です。そしてHiSiliconは2012年に、150MbpsのLTE通信をサポートする世界初のチップセットベンダーになったという実績もあります。今後、375Mbpsに限らず、5G時代に突入して、500Mbps、1Gbpsに迫る高速通信が登場しても、技術の進歩に応じていち早く提供します。

――ロンドンでは発表されなかった「P9 lite」ですが、日本向けの専用モデルでしょうか。

HUAWEI P9 lite

呉氏
 グローバル向けには「P9 lite」として提供していますし、中国でも別の呼び名で提供しています。ハードウェアはグローバル版と同じですが、ソフトウェアは日本の独自性に合わせて、カスタマイズしています。例えば、「Emotion UI」は日本市場向けのモデルでは最新のものを搭載しています。

 今後日本市場向けに、ハードウェアレベルでカスタマイズした製品を提供する可能性はあります。

エンドユーザーに向き合ったサポートを

――日本向けのカスタマイズとして新たに「ETWS」(緊急地震速報)に対応されていますね。さらに、「GR5」「P8lite」など、旧機種にも追加されています。どのような意図があるのでしょうか。


呉氏
 やはり、日本の消費者を一番に考えたからです。ファーウェイは「お客様第一」というポリシーを全社で掲げています。

 キャリアを通して販売するモデルでは、「大手キャリアがお客様」となります。ですので、端末のスペックやソフトウェア更新の内容は大手キャリアの要望に沿うように決めていました。

 しかし、SIMロックフリーのモデルでは、「お客様はエンドユーザー」です。ですので、エンドユーザーに向き合って製品を開発していく必要があると考えています。

 ETWSの他にも、Androidの安定性を向上させたり、操作性を高める変更も行っています。端末を長期間利用しても、もたついてきたと思わせないように更新しています。

――大手キャリアでは購入後も頻繁にソフトウェア更新を提供していた印象があります。SIMフリーでもこまめなアップデートを提供されるのでしょうか。

呉氏
 もし、1回の更新で全て改善できるのであれば、各機能を頻繁に追加する必要はなくなると考えています。ソフトウェア更新については、あまり頻度が多すぎても悪い印象を持ってしまいます。

 ですので弊社では、更新の提供回数を多すぎないようにコントロールしています。Androidのメジャーバージョンアップについても、最適なタイミングで提供します。

年内に直営の販売店を展開

――4月には東京・銀座にサポート拠点をオープンされましたね。実店舗の展開も今後強化していくのでしょうか。

呉氏
 はい。銀座の「ファーウェイ・カスタマーサービスセンター」では端末の販売は行いませんが、年内には端末を販売する直営店舗をオープンします。しかも、1店舗にとどまりません。現時点でお話できるのはここまでです。

――銀座のサポート拠点は、販売よりは銀座に立地していることによるブランドイメージの向上が目的にあるように思います。販売店舗は都市部など、実際に製品が売れるような立地に展開するのでしょうか。

東京・銀座にオープンした「ファーウェイ・カスタマーサービスセンター」

呉氏
 ブランドイメージの向上はあくまで付加的なもので、銀座のサポート拠点の一番の目的はお客様の満足度を高めることです。店舗自体の収益性で経営状態は判断しません。

 販売店舗となると、投資に見合った利益を出していけるかが重要です。せっかく家電量販店にショップ・イン・ショップを展開しても、収益を立てられずに1年で撤退してしまうのでは意味がありません。

――銀座のサポート拠点にはどのような方が来店されていますか。

呉氏
 大多数のお客様は、アプリのインストール方法など、スマートフォンの使い方を聞きにいらっしゃいます。年配の方が多いですね。

 実は、この店舗を開設するきっかけは、ある家電量販店の上層部の方からいただいたアイデアでした。SIMフリーのスマートフォンを購入されたお客様が、購入した機種について量販店の店員さんに質問されることが多いようです。

 製品の使い方が分からないお客様にお越しいただき、快適な空間で操作方法をサポートできる場として、銀座の拠点を用意しています。今後は東京以外でも、ユーザー体験を向上させるような拠点を展開していきたいと考えています。

――最後に、SIMロックフリー市場でライバルが多く登場する中で、ファーウェイの強みをお聞かせください。


呉氏
 品質を一番の足がかりとしてきたことが強みです。弊社では定期的にSNS上でのお客様の声をリサーチしていますが、最近は、品質について多くの評価をいただくようになりました。中には、4台目のファーウェイ製品として「P9」をお買い上げいただいたお客様もいらっしゃいました。

 製品自体の品質を高めることで、ユーザーさんからユーザーさんへ、ファーウェイ製品をおすすめしていただける。製品自体でブランドイメージを形成することができます。

 これまでずっと、「SIMフリーといえば品質が悪い」というイメージを打破しようと頑張ってきました。今回の「P9 lite」には、「性能が高いからといって、値段も高いわけではない」というメッセージを込めています。

 「P9」というフラッグシップモデルでも、強力なブランド力を持つ競合製品と比較したときに、それでも競争力がある性能で、手の届く価格で提供しています。

――本日はどうもありがとうございました。