ケータイ用語の基礎知識

第689回:エモパー とは

 「エモパー」は、シャープ製の家電製品に搭載されている人工知能「ココロエンジン」をベースに、スマートフォン向けに新しく開発されたエージェント機能です。スマートフォンがまるで心を持ったかのように振る舞うようになっています。たとえばロック画面や画面消灯中、本体を置いたときなどに、場所や時間、天気やその日の予定などに応じてタイミングよく、声や表示でユーザーにメッセージを伝えます。

 2014年12月現在、シャープ製ドコモ向けスマートフォン「AQUOS ZETA SH-01G」、同じくディズニーモバイル向け「SH-02G」に搭載され、近日登場予定のソフトバンク向け「AQUOS CRYSTAL X」でも利用できます。将来的にはすべてのシャープ製端末に搭載される予定です。

能動的に自分からユーザに話しかけてくるエージェント「エモパー」

 スマートフォンのエージェントと言えば、iPhoneに搭載されている「Siri」、ドコモの「iコンシェル」などがあります。エモパーが、これらと違うのはユーザーが操作しなくても自分から話しかけてくるという点です。内蔵センサーなどから収集した情報などを用いて、能動的にメッセージをユーザーに伝えようとします。

 たとえば「Siri」では、ホームボタンを2回押すという動作をして、初めてエージェント機能であるSiriが反応します。しかし、「エモパー」の場合、携帯電話側で何かイベントが発生したと感知したとき、自発的にメッセージを出します。たとえばバッテリーが一定以上減ってしまったときには「おなかがすきました」、あるいはスマートフォンが高所から落ちたと感知したときに「痛い。親にも殴られたことないのに」などと話すのです。

 ちなみに、端末を落としたかどうかは、加速度センサーを使い、一定の時間のうちにスマートフォンにかかっている加速度をチェック、急激な加速度がかかれば、倒した、落とされたと判断しています。またスマートフォンの位置情報機能を利用して、現在位置が屋内か屋外かを区別し、屋外では屋外では声を出さずに画面表示で通知をします。ただ、端末を振ることで、屋外でも音声メッセージを出す、ということもできます。

 このようにユーザーがどのように行動したのか、あるいは端末がどのような環境にいるのかを理解するには、スマートフォンが接するさまざまな情報、変化を監視する必要があります。

 エモパー搭載のシャープ製スマートフォンでは、センサー制御ICを搭載し、このICがこれらをCPUに変わってセンサー関連の情報を集約、管理します。一般的に言って環境センサーなどの情報を集約するにはCPUが作動して多くの電力を使うというデメリットがあります。一方、シャープではその機能を別の部品で分担することで、必要なときにだけCPUを動かし、あとは省電力で動く、という形で済むようにしているのです。エモパーのためにセンサーが稼働するとはいえ、これまでスマートフォンとの消費電力の差は数%程度とされています。

 エモパーが話しかける「タイミング」と話す「内容」は、スマートフォン内蔵のコンピューターが推定して決められます。さまざまなセンサーからの情報と、現在の状態推定エンジンを組み合わせた「スマートセンシング」を活用し、就寝時間・自宅の場所・朝の出発時間・日常の生活圏などの情報を推定、その内容と「面白法人カヤック」「日本記念日協会」「インクリメントP」「ウェザーニューズ」「JTBパブリッシング」「時事通信社」「ネットシーズ」「ナビタイムジャパン」から提供を受けた情報を掛け合わせて、状況にマッチした情報を提供するようになっています。たとえばユーザーのいる現在地、外出先の天気予報がわかると「雨が降るかもしれないので傘をお忘れなく」と出かける前に話すのです。

 エモパーでは、エージェントの音声として、女声の「えもこ」、男声の「さくお」、動物をイメージした「つぶた」を選ぶことができます。「えもこ」は「けなげにがんばる」、「さくお」は「渋くつぶやく」、「つぶた」は「自由につぶやく」といった個性を持っており、それぞれしゃべる内容が微妙に異なるようになっています。

 また、エモパーの各キャラクターのしゃべる内容は吹き込みではなく、音声を合成して作っています。そのため、非常にバリエーションに富んだ内容を話すことができます。その喋る内容、シナリオの作成では面白法人カヤックが協力しています。

 こうした機能が導入された背景として、スマートフォンがどれも似たようなスペックになってきたことが挙げられます。メーカーはさまざまな機能で、他社との違いを打ち出そうとしていますが、その一環として、エモパーは開発されました。その名称は、“エモーショナル・パートナー”という言葉を略したもので、感情を演出した形で、自発的に話しかけ、その内容もさまざま、ということで、持ち主であるユーザーが徐々に愛着を抱いてもらえるよう、工夫されています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)