ケータイ用語の基礎知識

第795回:Android Things とは

 「Android Things」は、グーグルが「IoT向けのプラットフォーム」として発表したOSなどを含むソフトウェア群です。

 Androidといえば、スマートフォンやタブレットによくインストールされているOS、ソフトウェアプラットフォームです。Android Thingsは、ここからIoT(モノのインターネット)向け機器に最適化したサブセットと言えます。

 サブセットとあって、Androidの機能全てが使えるわけではないものの、共通するAPIやSDK(ソフトウェア開発キット)を使って互換性のあるアプリケーションの開発やGoogleの各種サービスを使ってIoT機器向けのアプリケーションを手軽に作ることができます。

 なお、Android Things APIには、これまでのAndroidにはなかった「Things Support Library」というライブラリが追加されています。これを使うとセンサーからデータを取得したり、アクチュエーターを操作して筐体を動かしたりすることもできます。設置箇所の気温などを計測するだけではなく、本体を動かすようにするをセンシングするだけでなく、自分から動くようなロボット向けも意識した本当の“アンドロイド”OSを目指しているのかもしれません。

 グーグルの提供したIoT向けミドルウェアとしては、Brilloというものもありました。Android Thingsは、このBrilloを整備し、より強力にしたものです。Google Playの各種サービスや、Googleドライブを初めとするクラウドサービスがサポートされ、さらに将来的にはボイスコントロールによってデバイス自体を結合させるGoogle Weaveもサポートする予定となっています。

 これまでグーグルからは、IoT向けのプロダクトがラボから次々をリリースされるイメージがありましたが、これで本命の仕組みが出てきたという安心感がデベロッパーにはあるのではないでしょうか。

 2017年3月現在、IntelのEdison/Joule、XNP Pico i.MX6UL、そしてRaspberry Pi 3という4種類のハードウェアにインストール可能なイメージデータが提供されています。また、SoC単位ではSnapdragonのサポートも発表されています。

スマートフォンアプリ開発者がだれでもIoT技術者になれる

 Android Thingsの特徴は、AndroidアプリやAndroid用デバイスのドライバーソフトなどを開発していた人であれば、IoT向けのプログラムも開発しやすくなったということでしょうか。

 Android Thingsの開発ツールなどいわゆる「エコシステム」は、スマートフォンのAndroidのものと同じです。オプションとして「Android Things」を選べば、改変は一部必要となるものの、Android Things向けのアプリが完成します。

 SDKにはエミュレーターもありますが、IoT向けのボードコンピュータやその周辺機器、たとえばEdisonやRaspberry Pi 3といったコンピュータと、それ用のディスプレイやセンサーといった機器さえ手に入れれば、誰もがIoT機器の実機でAndroidやアプリを使えます。またAndroid Thingsがバージョンアップした場合でも、比較的、簡単に対応できます

 IoT機器向けの開発を行うには、組込機器向けのシステム設計の知識が多く必要でしたが、そうした知識の多くをAndroid Thingsが覆い隠してくれます。つまり深い知識がなくとも、信頼できるプラットフォームでプロフェッショナルな大量生産製品を構築することができる、とグーグルではアピールしています。

 グーグルでは、SoCパートナーと協力して、SoM(System-on-Modules)を含む開発ボードを開発していく方針です。SoCとは、CPUやグラフィックチップ、メモリなどといった装置の主要機能をひとつのチップにまとめたものです。さらにSoMは、SoCに加えてフラッシュメモリのストレージ、Wi-Fi、Bluetoothなどを1つのボードに統合し、必要な技術認証をモジュール単位で取得してしまう製品です。

 SoMを使えば、複雑な事務手続きなしに、スピーディな製品化が期待できます。日本のような独自認証制度がある国でも、たとえば米FCCでの型式認証の事実と、回路の同一性を証明することで迅速に手続きが可能となることでしょう。

 なにより、Android Thingsを利用することで、開発の初期コストを非常に軽減できるでしょう。ゼロから開発するのに比べて、こうした既製のプラットフォームを使うことでその負担はグッと減るはずです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)