【Mobile World Congress 2016】

最新通信技術を披露したクアルコム

1Gbpsの通信やLTE-Uをデモ、ソニー試作機も出展

 キャリアやインフラベンダーが集うMobile World Congressだけに、クアルコムのブースには、最新の通信関連技術が一堂に会していた。ここでは、その中から主要なものをお届けする。

クアルコムブースには、同社のチップセットを搭載したスマートフォン、スマートウォッチもズラリと並べられていた。シャープのRoBoHoN(ロボホン)も注目を集めていた

 まもなく実現する新規格として注目を集めているのが、ライセンスが不要な5GHz帯を使ったLTEだ。この周波数帯を利用するLTE技術は「LTE-U」や「LAA」と呼ばれている。前者は「LTE Unlicensed」、後者は「Licensed Assisted Access for LTE」の略。仕様としては、通信開始前に干渉を防ぐための通知を行う「Listen Before Talk」がないものがLTE-U、あるものがLAAとなる。

LTE-Uのデモを実施。Wi-Fiと干渉しないことをグラフで示していた

 LTE-UにはSnapdragon 820が対応。Listen Before Talkの不要な米国、韓国、中国では、LTE-Uのサービスインが近いと目されている。こうした状況を踏まえ、クアルコムのブースには、LTE-UやLAAに対応したチップなどの製品が、多数展示されていた。

 1年前のMobile World Congressでは実験段階だったものが、より具体化してきたというわけだ。LTE-UやLAAは、スモールセルが想定されており、SpiderCloudやサムスン製の小型基地局が展示されていた。

LTE-U、LAAに対応したSpiderCloudの小型基地局(左)と、LTE-U対応のサムスン製小型基地局(右)。サムスン製は、アップデートでLAAが利用可能になる見込み

 同様に、スモールセルは、クアルコムブースの主要テーマの1つとなっていた。Wi-Fiアクセスポイントの活用を視野に入れた製品がクアルコムの「FSM9016」で、Ruckus WirelessのWi-Fiアクセスポイントと一緒に展示されていた。ここにFSM9016を挿すだけで、Wi-Fiのアクセスポイントを、3.5GHz帯のTD-LTEに対応した基地局にすることができる。通信事業者が、小さな負担でWi-FiアクセスポイントをTD-LTEの基地局に転用できるというのが、この製品の特徴と言えるだろう。

Wi-Fiアクセスポイントを3.5GHz帯のTD-LTE基地局化するソリューション

 LTE-UやLAAは、通信事業者がキャリアアグリゲーションで活用することが想定されている。LTE-UやLAA自体は免許不要な帯域だが、この仕様では事実上、免許が必要な帯域を運用している会社しか活用できない。これを、より幅広い事業者に開放するという発想で生まれたのが、「MulteFire」(マルチファイヤー)。となる。

 MulteFireは、キャリア以外の事業者が単独で利用することを想定。クアルコムとノキアの主導で、アライアンスも昨年発足した。一方で、Wi-Fiにも利用されている5GHz帯は、干渉の懸念も表面化しており、米国では、行政を交えて活発な議論が交わされている。こうした不安を払しょくする狙いもあり、クアルコムのブースではMulteFireを利用した際のスループットを公開していた。

「MulteFire」で全体のスループットが上がるデモ

 すべてをLTEにしたときにスループットが上がるのはもちろん、Wi-Fiとの共存環境でも全体としての最適化が働き、電波の利用効率がよくなる。実験は、米サンディエゴにあるクアルコム本社で実際に行われており、その結果を、スペイン・バルセロナのクアルコムブースで見られる形となっていた。

 また、エリクソンやファーウェイといった、各インフラベンダーとも共同でデモを行っていた。その1つが、TD-LTEの上り速度を高速化する技術。アップリンクの通信に対して圧縮をかけ、ネットワーク側で解凍するというもので、ブースの説明員によると、最大で50%程度の高速化が実現するという。

 TD-LTEは時間軸で上りと下りの速度を分割するが、一度割り振りを決めてしまうと、変更が容易ではない。特に複数事業者がサービスを行っていると、事業者間での協調も必要になる。そのため、アップロードの速度が十分出ないという問題が顕在化しており、それに対処するための技術が求められているようだ。

TD-LTEの上りを高速化するデモ

 インフラベンダーとの共同実験としては、ソニーモバイルコミュニケーションズとエリクソン、クアルコムの3社で、LTEを高速化する技術も展示されていた。端末の試作機はソニーモバイルが開発、インフラ側をエリクソンが担当する形となり、20MHz幅のLTEに4×4のMIMOを入れ、変調方式を256QAMにすることで、下り最大400Mbpsを実現した。

ソニーモバイルの試作機を使って、4×4 MIMOと256QAMを実験

 さらに、最新のモデムチップも出展されていた。ブースにはMobile World Congressに合わせて発表された、X16 LTEモデムを搭載したクアルコムのリファレンスモデルが置かれており、約1Gbpsで通信する様子を確認できた。

1Gbpsの通信を実現した、X16 LTEモデムのデモ

 このほか、IoT関連技術として、通信の頻度を大きく抑え、バッテリー寿命を飛躍的に伸ばしたモデムチップも展示されていた。その1つが「PSM」(Power Save Mode)で、1KBのデータを1日に1回だけ送るような使い方をしたとき、単三電池2本で10年以上持つようになった。

 もう1つの「Extended I-DRX」は、もう少し通信頻度が高い用途を想定しており、43分に1回の通信で、数カ月電池が持つという。こうしたモデムは、ペットに着けるトラッカーなどをターゲットにしているそうだ。

IoT向けのチップセットも出展

石野 純也