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損しないためのケータイ料金再入門
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第14回:ドコモのツートップは本当にお得?
(2013/7/17 20:20)
鳴り物入りで始まったNTTドコモの「ツートップ」。これは、「Xperia A SO-04E」と「GALAXY S4 SC-04E」の2機種を重点的に販売する施策で、プロモーションに比重をかけた上で、価格も抑えている。
確かに、2機種の“実質価格”を見てみると、Xperia Aが新規で5040円、GALAXY S4が新規で1万5120円と、比較的安価だ。機種変更はXperia Aが2万5200円、GALAXY S4が3万5280円だが、ドコモとの契約が10年以上のユーザーには、24カ月間、420円の「月々サポート」が増額される「ありがとう10年スマホ割」が適用される。さらに、初めてスマートフォンに乗り換えるユーザーには、同額の「はじめてスマホ割」も用意されている。この2つのキャンペーンが適用された場合、機種変更時の実質価格もXperia Aが5040円、GALAXY S4が1万5120円と、新規契約と同じ価格になる。
ただし、これはあくまで各種条件を満たしたうえできっちり2年間使ったときの“実質価格”であることは覚えておきたい。というのも、Xperia AとGALAXY S4のどちらも、本体価格は他の機種より高めに設定されているからだ。参考までに、夏モデルの他の機種と本体価格を比べてみたのが、以下の表になる。なお、価格については本誌7月4日の調査に基づいている。筆者が独自に調べた限りでも、都内の家電量販店はおおむねこの価格で販売されていた。
端末名 | 本体価格 |
---|---|
Xperia A SO-04E | 7万8120円 |
GALAXY S4 SC-04E | 8万3160円 |
AQUOS PHONE ZETA SH-06E | 7万4760円 |
ARROWS NX F-06E | 7万4760円 |
ELUGA P P-03E | 7万2240円 |
MEDIAS X N-06E | 6万7200円 |
AQUOS PHONE si SH-07E | 6万7200円 |
Optimus it L-05E | 6万7200円 |
この表を見れば分かるように、Xperia Aの7万8120円とGALAXY S4の8万3160円は、むしろ他の機種より割高だ。それでも2年間使った際の実質価格が安いのは、月々サポートの額が大きいからにほかならない。各機種の月々サポートは以下のとおりだ。
端末名 | 月々サポート(新規) | 月々サポート(機種変更) |
---|---|---|
Xperia A SO-04E | 3045円 | 2205円 |
GALAXY S4 SC-04E | 2835円 | 1995円 |
AQUOS PHONE ZETA SH-06E | 1365円 | 1365円 |
ARROWS NX F-06E | 1365円 | 1365円 |
ELUGA P P-03E | 1365円 | 1365円 |
MEDIAS X N-06E | 1260円 | 1260円 |
AQUOS PHONE si SH-07E | 1260円 | 1260円 |
Optimus it L-05E | 1260円 | 1260円 |
ご覧のように、Xperia AとGALAXY S4は本体価格の高さに比例して、月々サポートの額が大きいことが分かる。この場合、確かに24カ月間きっちり使えば、額面どおりの実質価格になるため、非常に安い。
一方で、以前、この連載でも指摘したとおり、本体価格の高い端末と、多額の割引の組み合わせは、2年以内の機種変更や解約がしづらくなるというデメリットにつながる。以前よりペースが落ちているとはいえ、スマートフォンは進化のスピードが速い。ちょうど2年前、ドコモで人気だった端末が「GALAXY SII SC-02C」や「Xperia acro SO-02C」であることを考えると、性能向上の速さが分かるはずだ。当時はまだCPUもシングルコアが主流で、おサイフケータイ、ワンセグ、赤外線といったいわゆる日本仕様も、ようやくスマートフォンに普及してきたところだった。LTE対応のスマートフォンも、まだ登場していない。
こうした事情をふまえると、2年間使い切ったときの実質価格だけを見て購入するのは、あまりオススメできない。そこで夏モデルを6カ月、12カ月、18カ月、24カ月使ったと想定し、4つのパターンで実質価格を算出してみた。なお、「Xperia A」や「GALAXY S4」は新規と機種変更で月々サポートの額が異なるため、ここでは2つのパターンで金額を掲載している。ツートップに2つのキャンペーンが適用された際の価格は、新規の方を見てほしい。
端末名 | 6カ月 | 12カ月 | 18カ月 | 24カ月 | |
---|---|---|---|---|---|
ツートップ | Xperia A SO-04E(新規) | 5万9850円 | 4万1580円 | 2万3310円 | 5040円 |
Xperia A SO-04E(機種変更) | 6万4890円 | 5万1660円 | 3万8430円 | 2万5200円 | |
GALAXY S4 SC-04E(新規) | 6万6150円 | 4万9140円 | 3万2130円 | 1万5120円 | |
GALAXY S4 SC-04E(機種変更) | 7万1190円 | 5万9220円 | 4万7250円 | 3万5280円 | |
非ツートップ | AQUOS PHONE ZETA SH-06E | 6万6570円 | 5万8380円 | 5万190円 | 4万2000円 |
ARROWS NX F-06E | 6万6570円 | 5万8380円 | 5万190円 | 4万2000円 | |
ELUGA P P-03E | 6万4050円 | 5万5860円 | 4万7670円 | 3万9480円 | |
MEDIAS X N-06E | 5万9640円 | 5万2080円 | 4万4520円 | 3万6960円 | |
AQUOS PHONE si SH-07E | 5万9640円 | 5万2080円 | 4万4520円 | 3万6960円 | |
Optimus it L-05E | 5万9640円 | 5万2080円 | 4万4520円 | 3万6960円 | |
このようにまとめてみると、ツートップが必ずしもすべてのケースで安くはないことが分かる。たとえば、フルHDのディスプレイを備えるハイエンド端末で機種変更を考えている場合、「AQUOS PHONE ZETA SH-06E」や「ARROWS NX F-06E」「ELUGA P P-03E」でも、12カ月間使ったときの価格はGALAXY S4とほぼ同じ。むしろ、わずかながら「AQUOS PHONE ZETA」や「ARROWS NX」、「ELUGA P」の方が安くなるほどだ。18カ月では「GALAXY S4」とその他3機種の価格が逆転しているが、その差は数百円から数千円といったところ。24カ月では、「AQUOS PHONE ZETA」や「ARROWS NX」と約7000円、「ELUGA P」と約6000円の差がつき、GALAXY S4が安くなる。
同様に、Xperia Aと同じコンパクト端末というくくりで「MEDIAS X N-06E」「AQUOS PHONE si SH-07E」「Optimus it L-05E」を比較しても、機種変更で12カ月間使うときの価格はほぼ同じになる。機種変更であれば、18カ月でもXperia Aが非ツートップより数千円安い程度だ。逆に、24カ月だと1万円以上の差が出てくる。
つまり、ツートップが有利になるのは18カ月前後使う場合で、利用期間が24カ月に近づけば近づくほど、お得になるということだ。また、キャンペーンの適用対象になっている場合も、ツートップが圧倒的に安い。逆に、1年間で機種変更するようなヘビーユーザーでキャンペーンが適用されないケースでは、どの機種を選んでも価格面で不利になることはない。利用期間が短ければ短いほど、ツートップを選ぶと損をすることもある。
いわゆる“2年縛り”が導入され、機種変更のサイクルは伸びている。そのため、平均的なユーザーであれば、ドコモが勧めるようにツートップを選べば損はしない仕組みだ。ただ、2年間での機種変更というのは、あくまで目安でしかない。実際には割賦を払い切らなくても機種変更は可能だし、先に一括で支払いを終えてしまったユーザーなら追加の負担なく好きなタイミングで機種変更できる。最初から1年で機種変更すると決めていて、なおかつキャンペーンが適用されないのであれば、少なくとも価格面でツートップにこだわる必要はないだろう。
ちなみに、ドコモの端末は、以前と比べ本体価格が高騰している。先に挙げた2年前の記事では、最新のハイエンド端末が5万円程度だったのに対し、夏モデルはツートップの2機種が8万円前後、それ以外が6万円台後半から7万円台前半と非常に割高だ。そこまで長く同じスマートフォンを使うつもりはなく、キャンペーンの対象外になるユーザーは、MNPを検討するのも1つの手と言えるだろう。たとえば、同じXperia同士という点では、auの「Xperia UL SOL22」が本体価格6万8040円でXperia Aより安く、しかも機能は高い。MNPであればキャッシュバックがつく店舗も多い。
ミドルレンジ以下の端末であれば、ソフトバンクの安さが目立つ。夏モデルの「AQUOS PHONE ss 205SH」は、新規で本体価格が3万720円。月月割が1280円で、2年使った際の価格は0円だ。本稿のベースにした7月4日の価格調査には反映されていないが、「DIGNO R 202K」も新規の本体価格が2万3520円と安価で、2年間使った際の実質価格は0円になる。エリアやメールアドレスの都合でドコモにこだわりがあるということでなければ、こうした選択肢も視野に入れておいた方がいい。
ドコモがMNPで1人負けしている理由を、iPhoneがないことに求める声は多い。ただ、今回取り上げた端末の価格設定を見ていると、必ずしもそれだけが原因ではないように感じられる。たとえば、Xperiaを利用したい場合でも、冷静に価格を比較すればより高性能なモデルがauで安く手に入ってしまう。ミドルレンジの端末では、ソフトバンクの価格設定が戦略的で魅力もある。そしてこれらのAndroid端末は、(容量にもよるが)iPhoneとも価格は大きく変わらないか安くなっている。このように考えると、2機種にだけ重点的に月々サポートやキャンペーンでの割引を手厚くするツートップ戦略は、MNPでの流出を抑止する効果が限定的になるのではないか。
むしろ、ツートップを選定して他の機種の割引が手薄になったことで、非ツートップの端末を買うなら他社の方が安いというねじれも生まれてしまった。ドコモには10年以上の長期契約をしているユーザーが多く、フィーチャーフォンからの移行需要があるとはいえ、これだと、条件に当てはまらない場合、他社に移るという選択肢が頭をよぎってしまう。スマートフォンへの移行を進めるという点では効果を発揮しているツートップ戦略だが、MNPでの流出は止まるどころか、かえって進んでしまうような気がする。