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8K動画を無線伝送、5Gの要素技術、着々と開発中――WTP2016で見つけたもの
(2016/5/25 20:27)
5月25日~27日、東京ビッグサイトで「ワイヤレスジャパン2016」「ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2016」が開催されている。2020年ごろの商用化を目指して開発が進む5G(第5世代)のモバイル通信技術についても、意欲的な展示が並ぶ。
ドコモ、8K動画を5G技術で
NTTドコモが今回披露したのは、ノキアとともに開発した、8K動画のリアルタイム伝送技術だ。70GHz帯、1GHz幅という高い周波数かつ広い帯域を利用するもので、ひとつの基地局装置あたり2Gbpsを超える通信速度を達成。会場では、実際に2つの移動局装置を用意して、それぞれにビームフォーミングして電波を発射し、1Gbpsずつ、あわせて2Gbps程度の速度を達成した。
ビームフォーミングされる電波はスイッチを使って、数十マイクロ秒程度で時間差で切り替えられており、今回の展示では、電波の様子を可視化するという試みも披露された。
担当者によれば、8Kという高精細・大容量なコンテンツを無線で伝えることが初めてだったため、有線であれば途切れなくデータを送出できるところ、いかにパケット化して送出するか、あるいは電波が遮られてデータの伝送が途切れた場合にどう再生を続けるのか、といった点も含めて研究・開発を進めたという。
無線技術の開発が進む一方、基地局より先、いわゆるコアネットワークで新しい概念としてドコモが提唱するのが「ネットワークスライス」。Mobile World Congressや、ドコモのオープンハウスなどで披露されてきたもので、ひとことで言えば「サービスごとに仮想ネットワークを用意する」というもの。現時点で想定される具体的な用途として、たとえばM2M/IoTで、設置される場所が固定されるような機器については移動時の処理が不要になるため、そうした機能を省いた設備を仮想的に構築する。余計な機能がつかないため、コストダウンも期待されるのだという。2017~18年ごろには標準化され、2020年を迎える前に商用化される可能性がある。一方、5Gで実現するもののひとつとして自動車の自動運転が提唱されるなか、その実現のためには車車間通信や位置情報など複数の機能が求められる。自動車一台で、複数のスライスへ登録するには、新しいパラメーターが必要になると見られ、現在そうした点の議論を進めているという。
このほか会場では、5G用のシミュレーターも紹介される。これまでも紹介されてきたものだが、今回は三重県の伊勢志摩を舞台にしたシミュレーション。おりしもサミットの舞台ということで、タイムリーな形で5G用の装置を現地で展開した場合の状況が紹介されていた。
KDDI研究所、スマホ同士を繋ぐ「D2D」技術や60GHz帯の通信技術
5G向けの技術としてKDDI研究所のブースで紹介されていたのが「D2D」、デバイス間通信の技術だ。これは、従来であれば基地局とやり取りするスマートフォンなどの端末が、最寄りの基地局が混雑している場合、近くの端末を軽油して通信するというもの。通信量がさらに増えると見込まれるなかで、基地局設備への負担軽減をはかる災害時のいざというときの通信手段としても期待される。
このときD2Dで通信するのは、LTEだけではなく、Wi-Fiスポットなど、より高速で通信できるルートを利用する形。D2Dでデータを受信する端末は、あわせて最寄りの基地局とも同時に通信しておき、2つのルートの通信をたばねて高速に通信する。「たばねて通信する」という部分は、似たコンセプトの技術として既にキャリアアグリゲーションが存在するものの、担当者によればキャリアアグリゲーションは物理レイヤーでの処理となる一方、D2Dでたばねて通信するのはその上のレイヤーで実現しているという。
D2Dとは異なる技術で、大容量コンテンツを効率良く処理できるものとして紹介されていたのが、60GHzを使った技術。これはアンテナの周辺数mだけ60GHz帯の電波が届くサービスエリアを作り上げ、その場を通りがかったユーザーの端末に、大容量のコンテンツを配信できるもの。通信速度は端末ひとつあたり6.1Gbpsに達する。ただ、サービスエリアが狭いため、ユーザーがその場に滞在する時間が短くなる。もしダウンロードしきれない場合は、ユーザーが次に訪れるであろう場所のアンテナにコンテンツを先回りして配信しておき、通りがかったら通信する、という仕組みも用意している。
このほか同社ブースでは、大規模災害時、孤立した場所にいるユーザーへメールなどを届けるドローンを使ったシステムも紹介している。
腕にキーパッドを表示、NECのAR技術
NECのブースで紹介されているARソリューションは、スマートグラスを使って、腕に仮想のキーボードを表示するというもの。手首にQRコードを表示しておき、スマートグラスのカメラでとらえると、QRコードの内容にあわせたキーボードがスマートグラスに表示される。今回の展示では、表示先がスマートグラスではなくタブレットにしてわかりやすく案内。カメラが指の動きをとらえて、仮想空間上のキーボードを操作することを検知する。
両手を自由に使える状態にしつつ、取扱説明書やさまざまなデータを表示できることが特徴。機器のメンテナンスを行う際、チェック対象の機器にあるメーターなどを認識して何をチェックすべきかスマートグラスで案内したり、医療現場で患者のデータを見ながら手で何かを操作することなく治療を行ったりする、といった場面での利用が想定されている。
このほかNECでは、5G向けのビームフォーミング技術を紹介。数多くのアンテナを使うMassive MIMOで電波を発射。すぐ近くにある端末2台では、その電波を受信して、マルチパス(反射したり曲がったりして遅く届く電波)や、自分宛の電波が一番信号が強いことを利用して、他の端末向けの電波を取り除く。NECでは、フルデジタルビームフォーミングと呼んで、10cm程度しか離れていない端末でも、干渉せずに通信できるとアピールする。
防災行政無線のような仕組みを、LTEのD2Dで代替する技術もNECブースでは展示されている。現在は音声メインの防災行政無線を、LTEの仕組みを使うことで映像や写真も送れるようにする。今回展示されていたシステムでは、200MHz帯のような周波数を使うとのことで、通信速度としては1Mbps程度になる。端末と端末が通信して、最終的に基地局へ繋がるというもので、広範囲なエリアをカバーする基地局が1カ所あれば、複数の端末がフィールドに散らばって存在することで、通信できるようにする。同様の仕組みは、米国でも700MHz帯で導入されている。
BIGLOBEのIoTデバイス、ノキアの高性能360度カメラ
BIGLOBE(ビッグローブ)のブースでは、Android 4.4を採用するIoTデバイス「BL-01」が紹介されている。3月に発表されていたもので、防水防塵対応、1.6インチディスプレイや3G通信機能を備える。たとえば空港の荷物運搬用カートにBlutooth LE対応のビーコンを付けておき、さまざまな場所に「BL-01」を設置しておけば、空港内のどこにビーコンが存在するか、BL-01経由でクラウドへ情報が集まって把握できる。カートがどこかに偏って多く存在すれば、他の場所へ運ぶといった使い方ができる。また会津若松市では、既に「BL-01」を使って、道路が荒れている場所があるかどうか、調べるという実験を行っている。民間のバスや市の道路パトロール車に「BL-01」を搭載しておき、専用アプリでBL-01の加速度センサーを使って揺れの状態を記録しておく。あらかじめクルマの揺れの特性を調整しておけば、「BL-01」搭載車が走るだけで路面が荒れている場所がどこか、すぐわかる、という仕掛けだ。こうしたIoTデバイスもまた、5G時代での普及が期待されている用途のひとつと言える。
ノキアブースでは、2Kサイズの高精細カメラを8個搭載し、360度の映像を記録できる「OZO」を紹介する。現物は数百万円クラスの高級カメラとのことだが、今回の展示でその姿はなし。担当者によれば、OZOの特徴は、その高性能なカメラで捉えたハイクオリティな全天球映像に加えて、編集を含めたソリューションにあるという。展示では、GearVRを使って、20秒~30秒程度におさめられた宇宙飛行士の訓練風景を楽しめるようになっていた。高精細な全天球映像という大容量コンテンツは、5Gのインフラが整えば、どこでも利用できるとして今後の活用が期待されている。
このほか、NTTドコモのブースではIoT関連の取り組みとして、メーカーの垣根を超えて、さまざまな機器を操作できるWebアプリを開発できる「デバイスコネクトWebAPI」、スマホアプリからIoTデバイスの情報を参照できる「Linking」を紹介。これら2つを連携させる取り組みもスタートさせているという。