ニュース
ソフトバンク孫氏が“世界最強”の通信網アピール
(2013/5/7 20:59)
ソフトバンクのネットワークは世界最強。――2013年夏の新製品発表会は、この“最強”とするネットワークを強くアピールするものとなった。
ソフトバンクモバイル代表取締役社長 兼 CEOの孫正義氏は、同社の販売するケータイの8割がスマートフォンであり、この5年で同社のデータ通信トラフィック(通信の混雑度、利用度)は60倍にふくれあがったと説明する。
孫氏は、データ通信が詰まってしまう状態を自ら「パケづまり」と定義し、この「パケづまり」を未然に防ぐために、「パケづまり」を予見したネットワーク作りが重要とした。なお、ユーザー間で使われている「パケづまり」という言葉は、さまざまな要因でネットが繋がらない状態を総称した言葉という印象が強い。
小セル化、ダブルLTE
ソフトバンクは、言わずと知れたインターネットカンパニーであり、グループは世界に約1000社を数える。ヤフーやアリババといったグローバルなネット企業を傘下に収めているのも知られたところだ。
孫氏は、パソコン中心のネットがモバイル中心になり、ネットのためのモバイルネットワーク構築が必要とする。それには、Wi-Fi網と基地局の小セル化、そしてダブルLTEの3つがポイントになるという。
その中心となるのが小セル化だ。小セル化は、小さなエリアをカバーする基地局を数多く設置することで、大きなエリアを1つの基地局でまかなうよりも、混雑を回避しやすいネットワークが構築できるという考え方だ。
PHSのウィルコムは、長い年月をかけて小セル化の礎を築いたが、経営難によりソフトバンクに買収された。現在、ウィルコムはソフトバンク傘下としてPHS事業を展開し、次世代PHSに位置づけられていたウィルコムのXGP事業はソフトバンクに事業譲渡され、Wireless City Planningとなった。
Wireless City Planningでは、2.5GHz帯のAXGP方式で高速通信サービスを提供している。MVNOとしてWireless City Planningのネットワークを中心的に利用するのはソフトバンクで、Android端末やWi-Fiルーターなどで採用される「SoftBank 4G」はこのネットワークを使ったものだ。ちなみに、AXGP方式はTDD-LTE方式と互換するという。
ソフトバンクはさらにイー・アクセスの買収にも成功する。自前のFDD方式のLTEに加えて、イー・モバイルが1.7GHz帯で展開するFDD方式のLTEサービス「EMOBILE 4G」の通信網を手に入れた孫氏は、通信網を高速道路に例えて「高速道路が(ソフトバンク網とイー・モバイル網で)二車線になる。渋滞を起こさずバイパスした形。ダブルLTEで2.1GHz帯と1.7GHz帯の両方が使え、ネットワークが混まない」と説明した。
また、Wi-Fiの公衆無線LANサービスについても言及し、「世界でもっともWi-Fiスポットを作った結果、弱い電波を拾って結果的に繋がらない」などと新たな影響が出たとし、Wi-Fiの電波強度があるしきい値以下になると接続しない、移動中は接続しないなどといった利便性向上策を導入したことを紹介した。孫氏はWi-Fi網への取り組みについて「真っ先にやったのはソフトバンク」などと語っていた。
クラウド基地局
繋がりやすさについてアピールする孫氏は、Wireless City Planningが手がけるAXGP方式の高速通信サービスで導入されている基地局のクラウド化についても言い及んだ。
複数の基地局をたくさん設置すれば、その分だけ、電波干渉が起きる可能性がある。通常、各基地局は無線制御装置を備えているが、クラウド基地局は、複数の基地局を束ねて1つの無線制御装置をセンター側に置いて運用される。基地局と無線制御装置はダークファイバー(光ファイバーの使われていない部分)で結ばれる。
1つの無線制御装置で束ねられた複数の基地局は、1つの基地局として機能し、その一方で各基地局にはそれぞれ利用者を収容できるため、大都市など混雑したトラフィックに強いとされる。こうしたネットワーク構成を「SFN(Single Frequency Network)」と呼ぶが、孫氏は「(SFNを)この規模で行っているのはソフトバンクが世界初だ」と話した。
担当者によれば、複数の基地局を1つの基地局と見なすため、1つにみなされた基地局の中にいれば当然、電波干渉は発生しないという。しかし、基地局を束ねるにも限界があるため、実際には束ねられた基地局グループが複数存在し、隣接する基地局グループの端では電波が干渉するという。
他社接続率も分析可能
このほか、ソフトバンクでは他社の通信ネットワークの繋がり具合も分析できるという。分析した結果をスマートフォンのパケット接続率というもので比較し、接続率はソフトバンクが首位であるとした。各通信会社の接続率は、ソフトバンクが96.7%、auが96.4%、NTTドコモが96.2%となっていた。こうしたデータは、ヤフーの「防災速報」アプリ、Agoopの「ラーメンチェッカー」アプリなどの通信利用状況から抽出されているため、ソフトバンク以外の通信会社の状況も分析できるという。
新製品、新サービスについて
孫氏は、「世界最強のネットワークを活用する端末を紹介する」として、2013年夏の新商品を紹介した。
「AQUOS PHONE Xx 206SH」と「ARROWS A 202F」はフルセグに対応した最上位機種であるとし、「世界最強の4Gネットワークに繋がる」とアピールした。また、モバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi 203Z」についても、「最強のPocket WiFi、ネットワークも最強」と“最強”を強調した。
このほか、SoftBank SELECTIONブランドの周辺機器についても言及し、iPhone向けのACアダプタ「itomaki」(ホシデン製)なども紹介された。
新サービスとしては、「SoftBank Healthcare(ソフトバンク ヘルスケア)」が発表された。孫氏は健康関連サービスを続々と出していくと語った。
米Sprint買収について
発表会の中で、何度も触れていたのが米Sprintの買収に関する話題だ。Sprint傘下のClearwireは今後、2.5GHz帯でTDD方式のLTEを展開する計画となっている。
ソフトバンクの買収が成功すれば、Wireless City Planningのノウハウが活かせる上に、シナジー効果も生み出せると孫氏はアピールする。さらに、Clearwireの持つ2.5GHz帯がSprintの「再生の鍵」であるとし、同じ周波数で商用サービスを展開しているソフトバンクこそ、最大限活かせるパートナーと強調した。Clearwireは、Wireless City Planningの4倍となる120MHz幅の割当を受けている。
SIMロック解除はユーザーの要望次第
また、質疑応答では、SIMロック解除について考えを問う質問がなされた。孫氏は、「一時は解除の声がたくさんあった」としたものの、実際のニーズは少ないと結んだ。
これに対して、ソフトバンクの主要モデルであるiPhoneシリーズでSIMロック解除が行われていない状況の中、ニーズがないとするのは尚早とする声が上がる。孫氏は、「世界のiPhoneでSIMロックを解除して売っているのはほんの一部。ソフトバンクは実質無料でiPhoneを入手できる。6万円高くてもiPhoneを買いたいなら、海外でいくらでも売っている」と反論した。
だが、NTTドコモの「GALAXY S III」では、端末の値段が上がることなくSIMロック解除に応じているとの反論があった。孫氏はその状況を把握していないとした上で、「ドコモに補填金を出してもらってソフトバンクにくるなら大歓迎」などとコメントした。
孫氏がニーズがないと語るSIMロック解除だが、なおもSIMロック解除に関する質疑は止まない。孫氏は自身で大歓迎と語ったものの、ソフトバンクは持ち込み機種変更の契約を受け付けず、APN(アクセスポイントの設定情報)も公開していない点が問われた。孫氏は、「ソフトバンクが提供するネットワークと端末にサービスを提供する。要望があれば検討する。ごく一部で要望があるのかもしれないが、今のところそういう声が私の耳には届いていない」と話した。
通信障害について
質疑応答において、5月6日に西日本の一部で発生した通信障害の原因について問われた孫氏は、報告を受けていないとした。発表会後の囲み取材に応じた同氏は、障害については報告を受けており、その詳細についてはまだ聞いていないと言い直した。
孫氏は、2時間以内は大規模事故にあたらず、総務省に障害の報告は必要ないとコメントした。障害から復旧までが1時間58分であった点を問われると、「たまたま」と語っていた。
囲み取材
囲み取材で孫氏は、スマートフォンの機種が絞り込まれているのは、世界的な流れであるとした。「スマホの時代は、ニッチマーケット向けに小さな差別化をハードウェアで行う必要がなくなった」と話した。
また、NTTドコモがTizen OS、KDDIがFirefox OSと、第3極とも言える端末プラットフォームに手を挙げていることにふれて、「我々は30年以上前からパソコンの業界で体験してきた。横道にそれたものはあまり伸びない。もちろん、急に伸びれば検討するが、今は大きなうねりが見えない」などとコメントした。