法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

Hybrid 4G LTEで“ナンバー1”加速、ソフトバンク冬春モデル

 9月30日、ソフトバンクモバイルは、2013年冬~2014年春商戦へ向けた新ラインアップと新サービスの発表会を開催した。

 iPhone 5sとiPhone 5cの発売日からの間隔が短く、例年に比べると、かなり早いタイミングでの発表会となったが、今回は夏モデルの発表に続き、昨年のイー・モバイル買収以降、さらに充実したとするネットワークをアピールすると共に、ディズニー・モバイル・オン・ソフトバンクを含むスマートフォン4機種、フィーチャーフォン2機種、モバイルWi-Fiルーター1機種、その他の端末1機種と新サービスが発表された。

 発表会の詳しい内容については、本誌レポート記事で詳しく解説されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは今回の発表内容と捉え方などについて、解説しよう。ただし、筆者はスケジュールの都合上、発表会そのものはネット経由でしか見ることができず、タッチ&トライも数十分しか試すことができなかったので、その点をご了承のうえ、お読みいただきたい。

キャリアの優劣=“ネットワークの優劣”

 この秋、ソフトバンクは厳しい時期を迎えていると指摘する声が多い。というのもソフトバンクにとって、虎の子とも言える「iPhone」がNTTドコモからも発売され、国内3社が揃ってiPhoneを扱うことになったからだ。

 2008年、国内向けにiPhoneが発売されて以来、新モデルが登場するたびに、発売記念イベントでは陣頭に立ち、一番乗りのお客さんにiPhoneを手渡すなど、iPhoneを積極的にアピールしてきたソフトバンクモバイルの代表取締役社長の孫正義氏だが、今回はKDDIの田中孝司代表取締役社長、NTTドコモの加藤薰代表取締役社長がそれぞれの発売記念イベントで出席したのに対し、孫社長はスケジュールの都合上、出席できず、メディア関係者の間では「ドコモがiPhoneを扱うから避けたのでは?」「iPhoneには興味がなくなった?」といった声もささやかれた。

 国内3社によるiPhoneの販売競争は、まだ始まったばかりであり、MNP(携帯番号ポータビリティ制度)の転出入も含め、今後、どのような展開になるのかはわからないが、それでも今まで以上に厳しい戦いになってくることは、誰の目にも明らかだろう。その意味において、ソフトバンクがこの秋冬モデルの発表会でどのようなラインアップを揃え、どんなサービスや施策を打ち出してくるのか、非常に注目が集まっていた。

 しかし、その発表内容はすでに本誌レポートでもお伝えしたように、「ナンバー1のネットワーク」「つながりやすさ」をアピールするもので、基本的には夏モデルの発表時のプレゼンテーションをさらに拡張したものという印象だった。夏モデルの発表会の解説記事でも触れたように、ソフトバンクは2010年の「電波改善宣言」に始まり、2012年7月からの「プラチナバンド」での運用開始、2013年3月のイー・モバイル網との相互接続など、これまで積極的に基地局の整備を推し進めてきたとアピールするものの、なかなか「ソフトバンク=つながらない」というイメージを払拭できずにいる。

 こうした市場の反応を覆そうとするため、ソフトバンクは今年に入ってから、テレビCMなどでも「つながりやすさNo.1」を積極的にアピールしている。今回の発表会でもさまざまなメディアによる調査結果などを挙げながら、「つながりやすさ」が実証されていることを積極的にアピールしていた。なかでも3社がまったく同じ仕様の製品を扱うことになったiPhoneについては、これからは「キャリアの優劣はネットワークの優劣で決まる」とし、iPhoneをはじめとするスマートフォンでは同社がもっともよくつながるとアピールに終始していた。

 ただ、こうしたアピールに使われているグラフを冷静に見ると、「スマートフォンパケット接続率」「スマートフォン通話接続率」「iPhone 5通話接続率」「Android各社販売1位モデル(8月度)パケット接続率」はいずれも他社と比較して、1%程度しか差がない。最新の3社のiPhone 5sとiPhone 5cを利用した「iPhone 5s/iPhone 5cパケット接続率」に至っては、その差は1%にも満たない。どういう調査をして、何をデータとして扱うのかはソフトバンクの自由だが、さすがにわずか1%前後の差を何倍もつながるかのようにアピールするのは、過去にも見られた手法とは言え、いささか説得力を欠くと言わざるを得ない。

ダブルLTEからHybrid 4G LTEへ

 これらのソフトバンクの力強いアピールをどう受け取るのかは、ユーザー次第だが、iPhone 5s/iPhone 5c発売時のソフトバンクモバイルCTOの宮川潤一氏のインタビューでも触れられているように、周波数帯と周波数帯域(周波数の幅)について、着実に強化されてきているのは事実だ。

 たとえば、iPhone 5発売時にLTEサービスを開始しようとしたものの、2.1GHz帯については東京の山手線内などは3Gのキャパシティが限界に近く、なかなか帯域の一部をLTEに置き換えることができなかったが、現在は3GからLTEに置き換えるだけでなく、LTEの帯域を5MHz幅から10MHz幅へ順次、拡大している。首都圏については、iPhone 5sとiPhone 5c発売日前日の9月19日の段階で、すでに工事が完了しているそうだ。これに加え、イー・モバイル買収によって利用できるようになった1.8GHz帯(1.7GHzとも表記)についてもLTEで利用できる帯域を同じように5MHz幅から10MHz幅に拡大し、いわゆる「ダブルLTE」の環境を整えている。

 そして、今回の発表会では、同社が昨年から展開している900MHz帯についても2014年春からLTEサービスを開始することを明らかにし、「ダブルLTE」から「トリプルLTE」へ拡大するという。ちなみに、LTEサービスについては、NTTドコモやauもLTEを複数の周波数帯域(バンド)で展開し、なかでもauは800MHz帯優先でLTEのネットワークを整備してきたことがよく知られている。LTEについては2014年以降の整備になるが、今後、どのようにソフトバンクがプラチナバンドでのLTEネットワークを充実させていくのかは、ユーザーとしても注目すべき点だろう。

 ところで、これらの「ダブルLTE」「トリプルLTE」と謳われているものは、NTTドコモやauと同じFDD(上りと下りで異なる周波数を使う周波数分割タイプ)-LTE方式によるもので、ソフトバンクでは「SoftBank 4G LTE」という名称でサービスを提供しており、これまではiPhoneのみが利用できる環境になっていた。これに対し、AndroidスマートフォンではWireless City PlanningのAXGP方式(1つの周波数を時間によって上りと下りに分ける時分割タイプのTD-LTE100%互換)を使い、「SoftBank 4G」という名称でサービスを提供してきた。しかし、今回発表されたAndroidスマートフォン4機種は、いずれも従来のSoftBank 4Gに加え、SoftBank 4G LTEにも対応することが明らかにされた。前述の通り、AXGP方式はTD-LTE100%互換であるとされるため、FDDとTDD、両方のLTEを使えることから、これを「Hybrid 4G LTE」と銘打ち、ユーザーに訴求していくという。

 こうした取り組みが生まれてきた背景には、ベースバンドチップセットなど、ハードウェアの環境が整ってきたこともあるが、その一方で、iPhoneを3社が扱い、ソフトバンクとしてもAndroidスマートフォンのパフォーマンスを高めなければならない時期に来ているという見方もできる。いずれにせよ、これまでの同社のAndroidスマートフォンは、SoftBank 4G(AXGP)でつながれば、バツグンに速いものの、それ以外のエリアでは3Gでしか接続できず、ややパフォーマンス不足を感じるようなシチュエーションがあったが、そういったものが改善されることはユーザーとしても歓迎したい。もっともHybrid 4G LTEを利用できるのは、2013年冬モデル以降であり、既存端末のユーザーは端末を買い替えなければ、その恩恵を受けることができない。技術適合認定など、法的な課題はあるにせよ、このあたりはもう少し計画的に対応を進め、1シーズン前くらいのモデルも利用できるようにして欲しかったところだが……。

 さて、端末ラインアップについてだが、個々の機種は後述するとして、ユーザーとして気になるのは、やはり、このラインアップの内容だろう。まず、Androidスマートフォンの機種数は、ソフトバンクが3機種、ディズニー・モバイル・オン・ソフトバンクが1機種の計4機種だ。ディズニー・モバイル・オン・ソフトバンクの1機種はソフトバンク向けに供給されるAQUOS PHONE Xx 302SHをベースとしており、実質的には3機種のみという見方もできる。

 孫社長は今回の発表会のプレゼンテーションにおいて、今夏、NTTドコモが採った「ツートップ」戦略を引き合いに出し、「端末を何機種もラインアップする時代は終わり、重点的に絞って出す時代になった」と話しており、今回のラインアップをそれを反映したものとも受け取れる。ただ、ユーザーから見ると、従来機種がある程度、継続して併売されるとは言え、約半年間に登場するスマートフォンの新機種が3機種しかないというのは、いささか物足りない印象は否めない。

 ただ、一部ではこうしたソフトバンクのラインアップについて、ソフトバンク自身が選択したのではなく、ソフトバンクのこれまでの取り組みが招いた結果だと指摘する向きもある。というのもソフトバンクはこれまで「iPhoneシフト」と呼べるほど、iPhone重視の販売施策を打ち出し、積極的にiPhoneを売る一方、Androidスマートフォンについてはあまり積極的に販売してこなかった経緯がある。その結果、メーカー側から見ると、ソフトバンクに納入してもあまり十分な台数が売れる見込みがないため、無理に納入する必要はないと判断されてしまったという見方だ。9月30日のソフトバンクの発表会後、10月2日にはauが2013年冬モデルの発表会を催したが、そこにはこれまでNTTドコモが扱っていたサムスンのGALAXY Noteの最新機種「GALAXY Note 3」が加わり、IFA 2013で発表されたばかりの「Xperia Z1」、オリジナルデザインの「isai」もラインアップされるなど、かなり充実したモデルが並んでいる。auにも課題がないわけではないが、それでもソフトバンクほどの極端な状況ではないため、メーカーとしては「納入する魅力がある事業者」と判断され、こうした新モデルがラインアップされているようだ。NECやパナソニックなどがスマートフォン市場から撤退したことも無関係ではないが、やはり、3社がiPhoneを扱っていく状況を考えると、ソフトバンクはメーカーから見ても魅力的な事業者にならなければいけない時期に来ているのではないだろうか。

少ないながらも強力なモデルをラインアップ

 さて、ここからはいつものように、今回発表されたソフトバンクの2013年冬~2014年春モデルの印象と捉え方について、解説していくが、冒頭でも触れたように、今回、筆者は別のスケジュールとバッティングしてしまい、タッチ&トライの30分程度しか試用できなかったため、あくまでも外観の第一印象程度のものでしかない。詳しい内容については、本誌のレポート記事を参照していただきたい。

AQUOS PHONE Xx 302SH(シャープ)

AQUOS PHONE Xx 302SH

 今回発表されたの2013年冬~2014年春モデルの内、もっともインパクトの大きかったモデル。5.2インチのフルHD液晶を搭載しながら、上部と左右の三辺を狭額縁に仕上げ、画面占有率80.5%を実現している。液晶パネルはIGZO搭載液晶ではなく、S-CG Silicon液晶だが、三辺狭額縁は液晶パネルそのものを持っているような感覚で、非常に新鮮だ。独自機能としては、カメラのファインダーに英語を書かれた部分を表示したとき、リアルタイムで翻訳ができるという「翻訳ファインダー」などが注目される。まだ開発中とのことだったが、会場に用意されていた空港のパネルやレストランのメニューなどは多少のちらつきはあるものの、うまく翻訳されていた。製品版でもぜひ試してみたい機能のひとつだ。ボディデザインとしては、夏モデルのAQUOS PHONE Xx 206SHよりも春モデルのAQUOS PHONE Xx 203SHを進化させたようなイメージに近いが、手に持ったときの印象は三辺狭額縁のおかげで、何よりもディスプレイが目立つ。

AQUOS PHONE Xx mini 303SH(シャープ)

AQUOS PHONE Xx mini 303SH

 AQUOS PHONE Xx 302SH同様の三辺狭額縁を採用しながら、ディスプレイにフルHD対応の4.5インチIGZO搭載液晶を採用したコンパクトなモデル。シャープ製端末では夏モデルにAQUOS PHONE ss 205SHがラインアップされていたが、こちらはディスプレイ以外のスペック的がAQUOS PHONE Xx 302SHとほぼ同等で、コンパクトなハイエンドモデルという位置付けになる。今回は残念ながら、モックアップのみの展示だったが、翻訳ファインダーをはじめ、ソフトウェアもAQUOS PHONE Xx 302SHとほぼ同等になるということで、かなりお買い得感の高いモデルになりそうだ。

ARROWS A 301F(富士通)

 昨年の夏モデルからソフトバンク向けにARROWS Aを展開する富士通製端末の第4弾。丸みを帯びたデザインと背面の丸型指紋センサーが特徴的なデザインを採用する。これまでのARROWSの直線的なデザインとは非常に対照的で、ホワイトのモデルは指紋センサー部もホワイトに仕上げるなど、全体的にやさしいイメージのデザインに仕上げられている。注目ポイントは1日分を10分で充電できるという急速充電機能で、ケースを装着したままでも充電できる卓上ホルダも付属する。着信音やアラーム音にサウンドクリエイターのNakamura Koji氏を採用するなど、今までのARROWSとはひと味違ったアプローチも目を引く。AQUOS PHONE Xx 302SHと並んで、今回のラインアップのフラッグシップモデル的な位置付けになる。

ディズニー・モバイル・オン・ソフトバンク DM016SH(シャープ)

DM016SH

 AQUOS PHONE Xx 302SHをベースに、ディズニーのオリジナルコンテンツを搭載したモデル。これまでのディズニー・モバイル・オン・ソフトバンクのモデルは、どちらかと言えば、ミッドレンジやエントリー向けのモデルをベースにしていたが、今回はフラッグシップモデルをベースにする。今回は壁紙などを収録したのみだったが、本体をシェイクして、壁紙を変更するなどのエフェクトも用意されている。

THE PREMIUM 10 WATERPROOF 301SH(シャープ)

THE PREMIUM 10 WATERPROOF 301SH

 2012年9月に発売された「THE PREMIUM 10 WATERPROOF 109SH」の後継モデルに位置付けられるフィーチャーフォン。基本的なスペックはまったく同じだが、全6色のカラーバリエーションがラインアップされる。同時発表のCOLOR LIFE 4 WATERPROOF 301Pが普及モデルに位置付けられるのに対し、こちらはフィーチャーフォンでも少しハイスペックのモデルという位置付けになる。

COLOR LIFE 4 WATERPROOF 301P(パナソニック)

COLOR LIFE 4 WATERPROOF 301P

 2012年7月に発売された「COLOR LIFE 3 103P」の後継に位置付けられるモデル。従来モデルはエントリー向けということもあり、かなりスペックは限定的だったが、今回はIPX5/IPX7の防水、IP5Xの防じん対応に加え、ディスプレイサイズもひと回り大きい3.4インチを搭載し、解像度もQVGAクラスからワイドVGAに向上するなど、全体的にワンランクアップした格好だ。おサイフケータイなどには対応していないが、使いやすさと手軽さを重視したいユーザー向けのフィーチャーフォンと言えそうだ。

Pocket WiFi 301HW(ファーウェイ)

Pocket WiFi 301HW

 SoftBank 4G(AXGP)、ULTRA SPEED(W-CDMA/HSPA+/DC-HSDPA)、EMOBILE LTE(FDD-LTE)、EMOBILE G4(W-CDMA/HSPA+)で利用できるタッチパネル対応モバイルWi-Fiルーターだ。ボディカラーに「スピカホワイト」「マルスレッド」を採用するなど、カジュアルに利用できるユーザー層を狙ったモデルだ。夏モデルの203Zもネットワークの仕様などはほぼ同じだが、バッテリー容量を少なくしたことで、重量は120gに抑えられ、かなり持ちやすくなった印象だ。ただし、ソフトバンクのULTRA SPEEDが利用できるのは1.5GHz帯のみで、900MHz帯のプラチナバンドは利用できないため、地方で利用するユーザーはエリア面で少し注意が必要だろう。

スマート体組成計 301SI(セイコーインスツル)

スマート体組成計 301SI

 3Gの通信モジュールを内蔵し、ソフトバンクが提供する「ソフトバンク ヘルスケア」に対応した体組成計だ。体重、体脂肪率、BMI、基礎代謝、内臓脂肪レベル、身体年齢、骨レベル、骨格筋レベル、水分量を計測し、ソフトバンク ヘルスケアのサービスに自動的にアップロードされる。こうした体組成計は各社から販売されているが、多くの製品はNFCやFeliCa、Bluetoothなどでスマートフォンやケータイにデータを転送する仕様を採用している。今回は3G通信モジュールを搭載することで、面倒な設定もなく、自動的にアップロードできることをメリットとしているが、これだけブロードバンドが普及し、家庭内のWi-Fi環境も充実しつつある状況下で、体組成計で計測できるデータのために、わざわざ月額619円の回線契約が必要になるというのは、正直なところ、いかがなものだろうか。一般的に体組成計はバスルーム近くなどに置くことになるだろうが、3Gの対応周波数が2.1GHz帯に限られているため、設置場所が圏外で、通信できないということも十分に起こり得る。手軽にヘルスケアサービスを利用できることは評価したいが、3G通信モジュールでデータを自動アップロードするという仕様は、さすがに無理があるという印象だ。

ソフトバンクは迷走していないか?

 夏モデルの発表会の解説記事でも触れたが、この6~7年、ソフトバンクは国内市場に大きな影響を与えてきた。思い返せば、月額980円のホワイトプランに始まり、端末の割賦販売、スーパーボーナスと月月割という独特の販売手法、iPhoneの販売、Wi-Fiサービスの整備、PhotoVisionのようなデジタルフォトフレームなど新ジャンル端末の開発など、さまざまな形で業界全体に影響を与えてきた。そして、これらの取り組みの多くは、結果的に他社が追随してきたようなケースも数多く見受けられた。一見、スタンドプレーに見えるような手法も何か明確な目的が見え、賛否があったとしてもひとつ筋が通っているような印象もあった。

 しかし、今回の発表内容や最近のソフトバンクの動向を見るにつけ、少し状況が変わりつつあり、やや迷走しているような印象も受けた。たとえば、本稿でも説明したように、iPhoneを3社が扱うことになり、どちらかと言えば、iPhone以外でどう差別化し、どう戦っていくのかがカギを握るという商戦期において、事実上、3機種しかないラインアップというのは、いささか物足りなさを感じずにはいられない。もちろん、個々の機種は非常に魅力的であり、なかでもフラッグシップの2機種は他社と比較しても十分に戦える力は持っているが、このラインアップと発売済みの機種の組み合わせで、幅広いユーザーのニーズをカバーできるのかは、やや疑問が残る。

 また、ソフトバンクは他社に比べ、いち早く新しいジャンルの端末に取り組み、市場を開拓してきた。はじめてフォトフレーム端末の「PhotoVision」を見たとき、「写真立てに回線契約?」と考える人も多かったかもしれないが、J-フォンやボーダフォン時代の写メールから続く、「写真を送って、人に見せる」という文化を考えれば、自然な流れであり、ユーザーとしても興味を持てた。みまもりカメラなどもどれだけの数が契約されたのかはわからないが、「外出先からペットの様子がみたい」「家に変化があったら、知らせて欲しい」といったニーズが存在することは理解できた。

 一方、今回のスマート体組成計はどうか。確かに、体組成計は単純に体重を量っていたときと違い、さまざまなデータが得られるため、それをインターネットに保存し、ウェルネスサービスと連携することは理解できる。ただ、そのデータを転送するため、3Gデータ通信の回線契約が必要になるというのはどうだろうか。同時発表の子育てサポートで提供される「ベビーモニター」はWi-Fiのみで利用できるのに、なぜ体組成計が3Gデータ通信が必須なのだろうか。もちろん、メーカーや担当が違うため、同じ仕様にはならないことも理解できるが、こういう見せ方としてしまうと、結果的に「また契約数稼ぎの“ネタ”なのね」という印象を持たれてしまう。

 また、今回の発表会は9月30日に催されたが、その翌日、ソフトバンクで端末を割賦購入したユーザーが支払いをしたにも関わらず、誤って未入金として扱われてしまい、信用情報機関に間違った情報を登録されたことが明らかになった。詳細は当該記事を参照していただきたいが、少なくとも半年近く前には事態を把握し、経産省に報告していたのであれば、発表会の席で何らかのアナウンスなり、謝罪をすべきではなかったのだろうか。個人情報を扱う事業者として、あってはならないミスだが、そういうトラブルが起きたのであれば、できるだけ早く周知していくことも大切なはずだ。結果として、発表会では黙っておき、翌日にアナウンスすることで、突っ込まれることを避けたようにしか見えない。孫社長は10月7日に行なわれた「Yahoo! JAPANストアカンファレンス2013」に登壇し、そこで今回の一件について、謝罪を述べたそうだが、そのイベントはECサービス出店者向けのものであり、本来、謝罪するべき相手でもなければ、場所でもないはずだ。

 本稿で説明したように、今回の発表会では夏モデルの発表会に続き、孫社長はさまざまなデータを示し、「ソフトバンクのつながりやすさ」をアピールした。「残存イメージとして、ドコモが1番で、ソフトバンクはつながらないと考えている人が世の中にたくさんいるのではないか」と語っていたが、そこで示されたデータを信頼し、納得するためには、単に何回も説明するだけでなく、会社としての立ち振る舞いも影響するはずだ。特に、今回の信用情報の誤処理のように、人の人生を左右してしまい兼ねないようなトラブルであれば、自ら先頭に立って、ユーザーの不安を払拭するように説明するべきであり、そういう姿勢を持たないからこそ、くり返し説明しても『残存イメージ』が払拭できないのではないだろうか。

 さて、今回発表されたモデルは、機種数こそ少ないが、いずれも魅力的なモデルであり、11月以降、順次、市場に製品が投入される予定だ。今後、本誌では各製品のレビューや開発者インタビューなどを随時、掲載する予定なので、それらもチェックしたうえで、ぜひ、お気に入りの1台を見つけていただきたい。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。