ドコモ加藤氏が社長就任会見、スピード感重視へ


 NTTドコモは20日、前日に社長へ就任した加藤薫氏の就任会見を開催した。同氏は、「スピード&チャレンジ」「七分で良しとする」といった表現で、今後、ドコモとして積極的かつ素早い取り組みを実践していく方針を示した。会見では、あわせて発表されたXiの料金プランのほか、ソフトバンクモバイルが近日スタートする“プラチナバンド”によるサービスへの見方などが語られた。

 冒頭、加藤氏は、台風4号の影響に触れて、被災者への見舞いの言葉を述べるとともに、静岡県浜松市を中心に停電の影響でストップしている基地局の復旧に注力するとした。また2011年度にたびたび発生した通信障害についても、再発防止を誓った。


“夢”“使命”を“底力”で実現

 現在のモバイル業界は競争が激しく、大きく変化する時代との認識を示し、「(ドコモ社長職という)大役に身が引き締まる思い」とした加藤氏は、今後、ユーザーが便利にスマートフォンや利便性の高いサービスを使える環境を整える、そうした状況を「ドコモの夢」と表現する。また加藤氏にとってもドコモ社員全員にとっても、ドコモの夢を実現することを目標としつつ、その一方で、社会インフラとして通信サービスの品質確保に取り組むことを「ドコモの使命」とした。ドコモの「夢」「使命」を実現するのは、世界最先端のドコモの技術力・開発力、そしてユーザー満足度の向上や現場原点主義であり、これらが「ドコモの底力」と解説する。

 そして“スピード&チャレンジ”で取り組むとした加藤氏は、ドコモは今後「イノベーションによるサービスの進化」「融合による新たな価値の創造」を目指すと語る。また、社長交代会見で「七分で良しとする」とコメントしたことに再び触れて、「70%のままでいい、ということではなく、100%を目標にしつつ、70%でまずユーザーに問いかけて、お叱りをいただきながら、磨き上げて100%に向かっていく」とした。

 質疑応答で「ドコモの姿勢はスピード感に欠けるのでは」と問われた同氏は「確かに遅いところがある。料理屋で、おにぎりの形を整えきってから出すような会社。しかしそれではいけないということでスピード&チャレンジと掲げる。形を整えきっていない状態でも、温かい状態でおにぎりを出す。そこで塩が効いていない、といったお叱りがあればフィードバックしていく。“七分で良しとする”と言う点と、それをさらに100%へ磨き上げていく“PDCA”(Plan Do Check Act、業務管理手法の1つ)のまわし方が今後のポイント」とする。

 一方、これまでの山田隆持前社長のもとでは、経営企画部長として、ドコモの経営戦略に携わってきた加藤氏は、山田体制からの移行について「これまで山田は、顧客満足度の向上、店舗など現場第一主義、そして変革とチャレンジを進めてきた。私も経営企画部長として一緒に方針を作ってきた。(山田体制からは)何も変わりません。ただ、単に引き継ぐのではなく、継続こそ力だと思う」と述べ、大きな変更はなく、これまでの路線を着実に実行すると表明。また現状のドコモへの評価を100点満点で、と問われると「80~85点」とコメント。これは「しゃべってコンシェル」に代表される、新たなクラウドサービスを提供し、スマートフォンのラインナップを拡充していることに自信があるものの、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)で他社への転出が相次ぐ状況を辛めに評した結果、だという。

 こうした説明により、加藤新体制では、山田隆持前社長のもとで練られた体制・方針をベースに、さらなるスピードアップを図ることがあらためて示された。

“プラチナバンド”への評価

 ソフトバンクモバイルが900MHz帯の免許を獲得し、この7月からサービス提供が開始されることから、サービスエリア面での競争力への影響を問われた加藤氏は、「もともと技術屋で、3年前にも説明したが、周波数帯で伝搬特性に違いがあって2GHz帯のほうが届きにくい、とされる点については、郊外では力を発揮するだろうが、都市部では2GHz帯と900MHz帯の違いはそれほど大きくない」とする。

 サービスエリアの拡がり、という面で見た場合、高層ビルなど遮るものが多い都市部では、900MHz帯の“届きやすさ”は、さほど威力を発揮しない、との見方で、これはドコモ自身がこれまでエリア設計を行ってきた体験に基づく説明だ。

 続けて加藤氏は「トラフィック(通信量)に対しては、どれだけ周波数幅を持っているか、これが圧倒的に効いてくる。周波数幅が増えて、全国の基地局が適正に配置されれば、キャパシティは上がるだろう」と解説する。エリアという面ではなく、スマートフォンの普及によって飛躍的に増大するトラフィックを処理していくためには、ソフトバンクが獲得した900MHz帯は(基地局がきちんと整備されれば)有効、という見方となる。

 加藤氏は「ドコモのユーザーはそろそろ6050万を超えようとしているが、基地局はおおよそ10万カ所。密に基地局を設置して、通信量をさばく容量を確保する努力は、通信事業者、とくにモバイルの基本中の基本。置局のノウハウは我々も多く持っている。十分他社と競争できる」と述べ、他社の競争力が向上したとしても、ドコモはそれに対抗できる力を有しているとした。

iPhoneについて

 NTTドコモでiPhoneが発売されるかどうか、ドコモ幹部はたびたび「現状では難しい」としてきた。前日の株主総会でも、山田前社長は、アップルの提示するであろう条件をドコモとしては許容できず、さらにアップルのビジネスモデルそのものがドコモの戦略に合致しないとの説明を行っている。

 加藤新社長は、会見後の囲み取材で、あらためてiPhoneに対する考えを問われると「iPhone、iPadは、とっても素晴らしい端末だと思っている。一方、キャリアとして、次の成長はクラウドと端末の組み合わせだと考えている。さまざまな機種とクラウドがあいまったサービスを展開したいが、それがセットになっているもの(iPhone)がドミナント(支配的な存在)になるのはあまり好ましくない。ラインナップの1つとして揃えたいが、なかなか条件は整わない。(条件が整えば扱う可能性は? と問われ)条件が変わってくれば(あり得る)。金輪際イヤだ、というわけではありません」と述べた。

Wi-Fiスポットの設置を加速

 Wi-Fiスポットの展開について問われた加藤氏は、「今年中に10万スポット展開したいと考えてきたが、もう少し早めたい。今年度末までに12万~15万程度にしたい。光回線に繋がるものもあれば、Xiをバックボーンにするものがある。9月までに7万スポットくらいにしたい」とコメント。経営のスピードアップを示す例の1つとして、Wi-Fiスポットの急速な拡充を図る。

Xiの新プランについて

 社長就任会見が開催された20日、あわせてXiの新たなパケット定額サービスが発表された。他社の最安値(4410円)よりも高い形だが、加藤氏は「Xiの利用促進には、中程度の利用となるユーザーにどういったプランがいいか、半年ほど検討してきた」と語る。

 今年度にはXiの人口カバー率を70%、主要都市では100%にする方針としている中、加藤氏は「Xiのプランは、定額制と従量制をあわせたハイブリッドなプラン」と表現する。

 新プランでは3GBまで定額で、上限に達すると通信速度が遅くなるか、追加料金(2GBごとに2625円)を支払うことで高速通信が利用できる形となる。10月1日まではキャンペーンとして、通信量による速度制限はなく、利用料も1050円割引している。今回の新プランは、これまでのキャンペーンの終了時期にあわせる形で提供される。

 新プランでは、これまでの7GBという基準が3GBに引き下げられる一方で、料金が1050円安くなる。この3GBという基準について、加藤氏は「動画を頻繁に利用するユーザーには適さないだろうが、ユーザー全体の8割程度がおさまる」と説明し、従来よりも値頃感をアピールしていく考え。全体の1%にあたるヘビーユーザーは、通信量全体の30%程度を生み出しているとのことで、単なる定額制ではなく、従量制の考え方を取り入れたプランにした、と理解を求めた。

 Xiの通信速度については、2012年度~2013年度にかけて、増速したサービスを提供できるよう準備を進めているとした。

MNPへの対策

 同じ携帯電話番号のまま、他社へ乗り換えられるMNPの利用者数を見ると、NTTドコモは他社からの転入(ポートイン)よりも、他社への転出(ポートアウト)が多い状況が続いている。2011年度は増収増益を達し、業績は伸長しているドコモだが、MNPでは他社に遅れをとっていると指摘する声がある。

 夏モデルが発表され、様子見の多いユーザーが多いためか6月の状況は、4月~5月よりも落ち着いている、とした加藤氏は、「10年以上のユーザーも、2年以上10年未満のユーザーも、両方、いかに満足していただけるようにするか。現在、2年契約が主流で、解約時期は大きな転機で、ここで転出する率が高い。そこでドコモを継続していただけるようにしていくのが1つのポイント。また10年以上のユーザーは、機種変更されないこともある。こうした方々へどんなことができるか。実は昨日から、社員のアイデア募集を始めた」と、長期契約者への対策もとっていく姿勢を示した。

海外の失敗活かす

 ドコモではここ数年、インド、ドイツ、最近ではイタリアと、積極的に海外事業者への出資を続けている。加藤氏は「昔ちょっと失敗したが」と前置きしつつ、かつてのiモード海外進出はタイミングが早すぎたと評価。現在のスマートフォンは、キャリアにとってはiモードの延長線上にある存在として、今回は海外キャリアそのものではなく、コンテンツなど何らかの配信プラットフォームを担う事業者への出資を重視する考えを示した。

 既に子会社となっているドイツのネット・モバイルは、いわゆるB2Bで、キャリアに対してソリューションを提供する一方、5月に買収を発表したイタリアの事業者であるボンジョルノは、B2Cのコンテンツ配信プラットフォーム事業者とのこと。今後はB2B、B2C、2つの取り組みを海外で展開する

固定回線との割引について

 前日の株主総会で、固定回線とのセットによる割引の提供について「提供したいが、電気通信事業法で規制されている」とした加藤氏は、会見でその点をあらためて問われると、「市場の支配力に対する規制だが、時代とともに見直すのが一番いい。産業のありよう、成長の過程、そして何よりもユーザーが何を望むのか。同じ条件下で各社がサービスを提供するのが一番」とコメント。NTT東西と組んで提供したいのか、と問われると「東西に限らず、いろんなものとの融合を目指したい。通信事業者だけではなく、いろんな企業と組んで、割引券を提供するといったことを行いたい」とする。

 囲み取材でも同様の質問が投げかけられると、加藤氏は「NTT東日本、西日本とのタイアップ料金は実現できる。ただし、東西だけではなく、(法規制によって)全ての事業者へあまねく提供しなければならない、ということになっている。全ての同じ事業者と同じことになると、単純な値下げになる。そのため通信速度の速いXiを軸足において、複数回線を利用しやすい環境を整える方針を掲げている」と説明した。

新規領域にも注力

 らでぃっしゅぼーやなど、モバイルとは直接関わりのない分野の企業を子会社化するなど、積極的な進出を図るNTTドコモ。この背景には、5年後、10年後を見た場合、通信料収入の頭打ちする、との想定がある。

 こうした領域での収入を2015年に1兆円にするとしており、そのなかで期待できるものとして、加藤氏は「もうすぐオムロンとのヘルスケアサービスが提供されるが、どんな時代でも健康は一番関心が高い。教育も普遍的な関心事。またこうしたサービス、製品を、手のひらのパソコンであるスマートフォンから手軽に利用できるようにしたい」と語る。

大阪出身、熱く、面白く語る加藤氏

 大阪出身で61歳になった加藤氏は、電電公社(当時)入社後から、移動体通信事業を担当。最近は経営企画部長として、ドコモの戦略に携わる立場だったが、もともとは設備関連の部門など技術畑でキャリアを積んだ。前任の山田氏は、NTT(持株)から移動してきた形で、当初はモバイルサービスについて熱心に学んだというが、加藤氏はいわばドコモ生え抜きの人材。先述した“おにぎり”の例のようにユニークかつわかりやすい表現を用い、身振り手振りを交えて熱意を込めた語り口が印象的だ。

 山田前社長は、会見で赤いネクタイを着用し、今回新社長に就任した加藤氏も同じネクタイを身につけていた。これを問われた加藤氏は「山田のネクタイではないですよ! ドコモのネクタイなんです」と、報道陣から笑いを誘いながら、2008年の企業ブランド刷新にあわせて作られたネクタイ、というエピソードを紹介。販売代理店との年一回の会合などで着用するもので、ドコモ社長と同社を代表する立場に立ったことから、今後も着用していくと語った。

会見中も身振り手振りを交えて説明ネクタイを示して、エピソードを披露




(関口 聖)

2012/6/20 18:09