ソフトバンク、実証実験中の気球無線中継システムを公開
ソフトバンクの気球無線中継システム。気球の中に設備が納められている |
5月30日、ソフトバンクモバイルは実証実験中の気球無線中継システムを報道関係者に公開した。
ソフトバンクモバイルは、災害時などに通信障害が発生した場合、早急にエリアを復旧できるようにと係留気球を利用した臨時無線中継システムを開発している。5月10日に総務省東海総合通信局より、実験試験局の本免許を取得。愛知県稲沢市の木曽川周辺で2013年6月末まで通信速度や品質、エリアなどの広さを評価している。
今回、報道陣に公開されたのは直径約7メートルの気球だ。気球の内部には、離れた場所にある基地局と通信を行うアンテナと、周辺をエリア化するアンテナ(子機)の2本がぶら下がっている。離れた基地局(親機)とは3.3GHz帯、子機は2.1GHz帯を使う。3.3GHz帯を2.1GHz帯に変換することで回り込みを防ぐのだという。アンテナは、風が吹いて気球が傾いても鉛直方向に向くようにバネなどで動くようになっている。中継システムだけでなく、地上と通信を行い、万が一の時には気球からヘリウムを抜き、ゆっくりと降下させられるような仕組みも備えている。
気球は最大100メートルまで上げることが可能だ。郊外などでは半径3キロ、さらに見通しのいい場所では半径5キロをエリア化できる。丸い気球ではなく、扁平型気球という、球形よりもやや平たい気球を使用しており、逆ピラミッド型の地上係留装置には三角形の頂点部分にロープをつなげ、3点で固定することで、上空でも安定して浮遊することが可能なのだという。上空で15メートルの風速があったり、雷が発生したときは気球を下ろさなくてはならないが、雨などであれば問題ないとのことだ。ちなみに、気球はヘリウムで飛ばしているが、密閉性の高い気球であるため、数カ月はしぼむことはなく、上げ続けることも可能とのことだ。電源は、地上からケーブルで供給している。中継局で収容できる人数は「200名強はいけるのではないか」(ソフトバンクモバイルCTOの宮川氏)とのことだ。
また、気球内にはWi-Fiの設備も装備されており、スマートフォンなどからWi-Fiで接続することで、サーバー内にある動画などのリッチコンテンツを視聴できる。これは「災害時に情報共有する際に、重たいデータを中継器に経由させるのは負荷がかかる。そのため、ローカルにコンテンツを置くことで、負担なく共有することが可能になる」(説明員)とのことだった。デモアプリでは、3G回線経由で見られる情報として災害エリアマップや災害伝言板、位置情報サービス、Wi-Fi経由では動画や新聞記事が視聴できた。
ソフトバンクモバイルの宮川潤一CTOは、「あったらいいな、を形にした」と語る。宮川氏は昨年の東日本大震災時には現場でネットワークの普及活動の陣頭指揮を行っていた。宮川氏は「現場では木の上によじ登って、所有者から怒られるまでアンテナを設置し続けようかとも思ったくらい。高い場所にアンテナを設置するのに苦労した」と語る。その解として考え出されたのが気球型中継システムというわけだ。「これまで何度も失敗してきたが、ようやく披露できるまでになった。本日から実践投入できるレベルにある。今後は10機ほど用意して、万が一に備えたい」(宮川氏)。
今後も、少人数で設営するシステムを整えるなど、実証実験は継続されるが、場合によっては災害時に出動できる準備は進めるという。また、現場の訓練もかねて、花火大会など、これまで移動基地車が出動していたようなイベントにも投入する考えがあるとのことだ。
気球無線中継システムの実験の様子 | |
ソフトバンクモバイル CTOの宮川潤一氏 | |
■耐震強化、無停電化、移動基地局車の増車など対策を強化
今回の気球型中継システムは、東日本大震災の教訓を基に開発がスタートしている。宮川氏からは、ソフトバンクモバイルの震災に対する新たな取り組みについても説明があった。
昨年の東日本大震災時には3786局の基地局が一時的に使えなくなった。また台風12号の被害でも764局がダメージを受けた。当時を振り返り、宮川氏は「我々には準備が足りなかった。心底、反省してやり直した」という。
500近くある同社の拠点のうち、仮に東日本大震災レベルの災害が起こったときに被害を受ける可能性のあった拠点は、8割近くに上ったという。そのため、379拠点で耐震強化工事を行い、今年12月には完了させる予定とのことだ。また13カ所あるネットワークセンターは24時間以上の無停電化を実施。燃料を備蓄することで、6カ所は48時間、7カ所は72時間、電源が供給されなくても自家発電で対応できる。
東日本大震災の発生時には、自家発電装置を動かす燃料が供給されず、基地局が次々とダウンしてしまった。そのため、ソフトバンクモバイルでは全国に10カ所の燃料備蓄基地を確保。また燃料を運ぶためのタンクローリーを全国に4台、新たに配備している。
移動基地局車は15台から100台に増車。ソフトバンクモバイルだけでなく、ウィルコムのネットワークにも対応する。可搬型衛星基地局セットも200セットを用意し、万が一の時に備える。災害時に対応できるようにと災害対策品を備蓄するための倉庫は、主要拠点から30分以内の場所に14カ所準備している。
ソフトバンクでは、これまで新規参入事業者として、あまり災害対策には積極的ではなかったが、宮川氏は「これからは指定公共機関になり、国の指定機関として、ライフラインとしての責任を持って本気で向かい合っていく」とした。
2012/5/30 19:44