ソフトバンク孫氏、900MHz帯開始でネットワーク品質の改善を約束


 ソフトバンクモバイルは、2012年の夏モデルを披露する新製品発表会を開催した。グループ会社となったウィルコムの新製品も同時に発表されたほか、ネットワーク品質の改善や、高速なデータ通信サービス、端末と、さまざまな点で今後の取り組みを明らかにした。


 

 ソフトバンクモバイル 代表取締役社長の孫正義氏によるプレゼンテーションは、ネットワーク品質改善への取り組みと、端末紹介の大きく2つに分けられる。「今年のキーワードはネットワーク」と切り出した孫氏は、ネットワークに対する満足度を「つながりやすさ」「速さ」の2つと定義。最大の課題をネットワークのつながりやすさとする一方で、「新たに重要されているのがスピード。特にスマートフォンでは通信速度が重要な鍵になる」とし、Wi-Fi環境の整備や「ULTRA SPEED」「Softbank 4G」などのサービス名を挙げて、速度についてもこだわって取り組んでいく方針を示した。

 

「どこでもつながるソフトバンク、必ずやってみせます」

 そのソフトバンクがネットワークの施策で注力しているのが900MHz帯の電波の利用だ。2012年7月25日からサービスを開始するこの周波数帯について、同社は今回「プラチナバンド」と呼称。900MHz帯対応の基地局数は、ほかのキャリアが900MHz帯の申請時に提出していた開設計画と比較して3~4倍になっているとし、この速度を“垂直立ち上げ”とアピールする。

 「許認可を得る前から機材の発注を先行し、確証は無かったが、リスクを取って、垂直立ち上げに全力を注いだ」と、免許の取得前から投資してきたことに改めて触れ、「ソフトバンクの意地で、なんとしても繋がりやすくする。全社で取り組んでいる。ドコモ、auがすでに何年も前からプラチナバンドを活用できている。我々は無かった。技術力が無いから繋がらないのだと多くのお叱りを受けた。悔しい思いを、積年の思いをぶつけて、一気に改善していく」と語り、900MHz帯でネットワーク品質の大幅な改善を見込む。

 孫氏はここで、2.1GHz帯と900MHz帯を例に、伝搬特性をイメージ図を交えて紹介。「ひとつの基地局で3倍のエリアをカバー」といった内容や、ビルなどの影響を受けにくいといった特性を示し、「建物の中でもつながりやすい」と紹介した。孫氏は、「プラチナバンドを持っていないことがハンディキャップになっていた。これを得たことで完全にイコールフッティング。確実に届くようにしてみせる。都市のビル群、地下鉄の入口などでもはるかに届きやすくなる。あるいは郊外でも」と意気込みをみせ、「どこでもつながるソフトバンク。着実に一歩一歩、必ずやってみせます」とつながりやすいソフトバンクを約束。

 さらに同日発表する端末は「全機種プラチナバンド対応」とアピールし(データ通信端末を除く)、「準備には1年以上かかるが、全機種にプラチナバンド対応のチップ、アンテナを準備してきた。900MHz帯を取れなかったら無駄になるが、それでも恩恵をお届けしたいと、開始していた」と、端末についても900MHz帯の免許取得前から準備を始めていたことを明らかにした。


 

スマートフォン・携帯電話は900MHz帯対応

 端末については、Androidを採用したスマートフォンに加え、フィーチャーフォンもラインナップ。ハイエンドモデルにあたる「AQUOS PHONE Xx 106SH」は大画面や下り最大42MbpsというDC-HSPA方式による「ULTRA SPEED」の通信速度をアピールし、ドコモのLTE「Xi」とのエリア比較や、「ほとんどのエリアは37.5Mbps」として通信速度についても比較し、優位性を強調。「大事なのはスピードとエリア」と語った。

 「ARROWS A 101F」については、「富士通との初のコラボ」と、ソフトバンク向けに始めて端末を納入する富士通製であることを紹介。「売れているARROWSがソフトバンクでも取り扱いを開始する。他社にもあるが、ソフトバンクはより高速でサービスエリアが広い」と、ここでも通信速度やエリアに自信を見せた。

 なお、テザリング機能については、「依然として検討中」としており、当面は提供されない見込み。

 同氏からはこのほか、「スマホ以外にも手を抜かない」として、900MHz帯対応のフィーチャーフォンが紹介された。加えて、元ウィルコムで現WCP(Wireless City Planning)のAXGP方式のネットワークを利用し、ソフトバンクがMVNOとして提供する「Softbank 4G」のデータ通信端末2機種「102HW」「102Z」を披露。下り最大110Mbpsと高速なデータ通信が可能である点や、コンパクトで女性でも持ち運びしやすいというモデルを紹介した。同氏は「Softbank 4G」について、「市場では断トツで最速。他社の概ね3倍で、エリアは今年度中に政令指定都市をカバーする」と、まずは都市部を中心にエリア面でも拡充していく方針を示している。


 

ソフトバンクとウィルコムの両方の良さをもった「DIGNO DUAL」

 ウィルコムの端末についても紹介した孫氏は、「DIGNO DUAL」について、「両方の良さが合体した。PHSの通話は、誰にかけても話し放題。ウィルコムはソフトバンクのグループとなり、話し放題で一気に復活したが、弱みだった通信速度が(この端末で)解決した」とアピールし、ウィルコムの注目の端末であることを紹介した。


 

「PANTONE 5 107SH」は放射線測定機能を搭載

 「PANTONE 5 107SH」については、紹介ムービーが流れる直前、孫氏が「僕にとって大事な端末」と語ったように、ほかの端末紹介の流れとは違い、時間を割いて説明された。これは、PANTONEシリーズ自体が累計340万台と人気の機種であることに加え、パッケージや搭載コンテンツにもこだわり、プロモーションにも力が入っていることが関係している。

 しかし、孫氏が非常にシリアスな面持ちで「大事な端末」と語った訳は、人気の端末であるということ以上に、「放射線測定機能」に込められていたようだ。

 「PANTONE 5 107SH」のテーマやプロモーションの紹介が終わると、孫氏は「楽しく商品を発表してきたが、どうしてももうひとつ発表しておかなければいけない」と語りだし、「ドーン」という効果音とともに、破壊された福島の原子力発電所の航空写真をステージ全面に表示。「3月11日の東日本大震災の影響で、私も人生観が変わった。まだ解決していない現在進行形の問題。放射能の脅威は目に見えないだけに、とくに小さな子供を持つ母親のことを考えると胸が締め付けられる」と語った。

 孫氏は、Twitterなどで震災当時から緊急地震速報やガイガーカウンター機能付き端末の要望が寄せられたとことが説明されたが、「この機能だけは、“やりましょう”と簡単に答えるわけにはいかなかった。難しいということよりも、できなかった時に落胆させてしまう」と、慎重を期して開発されたとした。

 このフォトダイオードを利用した放射線測定機能については、専用ICチップを独自に開発したことを紹介。そして、放射線測定機能を搭載したスマートフォンを発表し、これが先ほど発表した「PANTONE 5 107SH」であることを明らかにした。この機能は昨年4月に開発がスタートしたとのことで、約1年程度で開発・発表に至ったことになる。搭載されるフォトダイオードは、出荷される全品が校正される。

 孫氏は放射線測定機能について、ステージ上でデモも披露。地図上に表示される機能などを紹介し、「公園などでも安心感が得られる」とした。また、「料金体系も特別なもので届けたい」と、何らかの特別な施策の提供を示唆したが、詳細は今後発表される見込みとなっている。


 

 孫氏はプレゼンテーションの最後に、900MHz帯のサービス開始により、「つながりにくいと言われてきたが、プラチナバンドで一発で解決する」と大きくアピールし、12機種50色展開の端末を披露。「ひとりでも多くの人に、幸せを提供するために、この事業を続けていきたい」と締めくくった。

 

900MHz帯、「12月には数千局」

 質疑応答の時間では、900MHz帯の基地局の展開イメージが聞かれた。“垂直立ち上げ”を強調している孫氏だが、「第1週目は(基地局数が)数百、そこから毎週どんどん増えていき、12月には数千でも上のほう。来年の3月には万のオーダー。この展開速度は一般的な速度の3~4倍」と説明した。

 今回発表されたようなAndroidスマートフォンとiPhoneの販売比率や今後の動向が聞かれると、孫氏は、販売比率については従来通りノーコメントとした上で、「iPhoneは、我々の販売しているものが依然としてとして高いシェアで、主力であることは変わらない。色々なものが求められるので、品揃えとして用意する。ただ、単に品揃えするのではない」として、今回発表されたラインナップに言及した。


 

発表会・プレゼンテーションの模様


 




(太田 亮三)

2012/5/29 17:55