グーグルのラーゲリン氏が語る「Android」の現状とこれから


グーグルのラーゲリン氏

 グーグルは31日、Androidの現状と今後について、報道関係者向け説明会を開催した。グローバルパートナーシップ担当のディレクター、ジョン・ラーゲリン氏から説明が行われた。

 2007年11月に発表されたオープンソースの携帯機器向けソフトウェアプラットフォーム「Android」は、ミドルウェア~オペレーティングシステム(OS)~ユーザーインターフェイス(UI)を包括的に用意し、不慣れなメーカーでは苦労しがちな電波関連の部分を含めて、基本的なソフトウェアが一通り揃っている。そのため携帯電話を開発したことがないメーカーもAndroidスマートフォンを提供できるようになった。こうした環境作りをグーグルが行う理由について、ラーゲリン氏は「スマートフォンで多様性を実現する為の道を用意しているのがAndroid」と語る。

 多くのメーカーがさまざまな機種を展開しやすくすることで、ユーザーにとっては豊富な選択肢が提示されることになり、現在では、日々35万台のAndroid端末がアクティベートされ、利用されはじめているとのことで、世界的に勢いづいている。グーグルにとっては、検索サービスにおける1台のスマートフォンが生み出すトラフィックは、750台のフィーチャーフォンに相当するとのことで、「Android発表直後は、ある日突然画面が広告だらけになるのでは、と危惧する声もあったが、そんなことは一切行わない。検索(のトラフィック増)だけでもグーグルにとってはビジネスになる」(ラーゲリン氏)という。

多様性をもたらすことがメリットの1つ検索サービスのトラフィック増を例にグーグルにとってのメリットを説明

タブレット向けHoneycomb、今後は未定

 Androidの次バージョンとして予定されているソフトウェアは、グーグル社内で“Honeycomb(ハニカム)”と呼ばれ、タブレット端末での利用を想定した仕上がりとなっている。スマートフォンよりも大画面となるタブレットで使いやすいようなウィジェットのデザイン、マルチタスクにより動くアプリを背後から呼び出す場合には3Dでポップアップする機能などが備わり、ラーゲリン氏は「これくらいに画面サイズになると、本当のAndroidの力が発揮できると思う」と語る。

 今回の説明会では、実機ではなく、プレゼン資料として紹介されるに留まったが、会見後の囲み取材で、2010年度内(2011年3月末まで)に日本国内でもHoneycomb搭載のタブレットが登場するとしたラーゲリン氏は、具体的なハードウェアの話はできないとしながらも、「これがAndroidの力を発揮するデバイスになる」と語り、自信を見せていた。

 タブレット向けとなるHoneycombだが、これまでのスマートフォン向けと、どのようなラインナップになっていくか、現状では未定とのこと。オープンソースのため、Honeycombをスマートフォンサイズの機器に採用するメーカーがあっても、グーグルとしては「かまわない」(ラーゲリン氏)とのことだが、Honeycombで搭載される新要素は、スマートフォンサイズに最適化できる部分がまだあるとして、今後グーグル社内で調整が進められる。Androidのラインナップとして、タブレット/スマートフォンと分かれるかどうかは未定ながら、ラーゲリン氏個人としては「統合したほうがいいと思う」との見解が示された。

Honeycombの画面YouTube上のデモ動画を披露

多様性の中でコンテンツの互換性に配慮

 多様性をもたらすことがAndroidの存在意義とされる一方、メーカーによってボタンの位置が異なったり、同時期の市場にバージョンが異なる機種が数多く存在することになったりしている。

コンテンツの互換性に配慮するコメント
これまでのバージョンの流れ

 この点について質疑応答で問われると、ラーゲリン氏は「メーカーに対して、こうしなさい、と指定するようなことはない。ただ、タブレット向けのHoneycombについては、ハードキーは備えず、全て画面にタッチする。それよりも心配なのは、コンテンツプロバイダがコンテンツを開発する際、各バージョンで動作するかどうか、非常に気をつけている」と回答。ディスプレイサイズが異なる機器が存在していても、Android向けコンテンツは1つのリソースで対応できるような環境を目指しているとした。そのため、解像度や比率は、一定の枠を設けて制限し、流通網の1つであるAndroidマーケット側でもある程度管理していく方針を示した。

 ハードウェアの共通性に関しては、メーカーの差別化要素と見られがちだが、ラーゲリン氏は「メーカーさんも交換性(Android端末として共通の部分)のメリットを認識されるようになってきたと思う」と語り、外観デザインやユーザーインターフェイスが差別化要素になるとの見方を示した。

 ただ、続々とバージョンアップするAndroidの動向をメーカーがキャッチアップするのは難しい部分もあるとされる。この点については、昨年末に体制を強化し、メーカーからの技術的な問い合わせに対応するスタッフを増強した。またバージョンアップの時期はある程度決まっており、発売後の機種にとっては、18カ月でバージョンアップ1回か2回程度できるよう、体制を整えているメーカー、あるいはその点をユーザーに対する売り込み要素にするメーカーが存在するとした。

 今後のバージョンのロードマップについては、進化が速いインターネットに立脚するグーグル社内では日進月歩で新機能が開発されているため、メーカーから1年後の機種に求められるハードウェア要件を尋ねられても、将来のAndroidの状態が見通せず「正直分からない」とした。

 Androidを提供するグーグルにとって、Androidはオープンソースであり、バージョンアップするからといってメーカーやキャリアから収入を得ることはない。だからこそ、どのバージョンを採用し、その後のバージョンアップにどうつきあうか、オープンソースのAndroidへの姿勢はメーカーやキャリア次第、と見ているようだ。

 またラーゲリン氏は「これまでの携帯電話は、重大なバグへの対処といったときに通信経由の更新を行っていた。ソフトウェア担当者も1つの機種の開発を終えれば、次の機種の担当になっており、発売後の機種をメンテナンスするという意識が薄かった。それが良い、悪いということではなく、パラダイムシフトというか、変化してきた部分。うまく付き合えるメーカーとそうじゃないメーカーがあり、そこもユーザーに見えてしまい、端末購入時に選ぶときの判断の根拠の1つとなっている」とも語っていた。

NFCへの取り組みはまだ未定

日本市場の造詣が深いラーゲリン氏。「いずれスマートフォンもケータイと呼ばれるようになるのでは」とも語っていた

 かつてNTTドコモに勤務し、iモードの海外展開を担当したこともあるという同氏は今回の説明会冒頭で「日本のモバイルは世界をリードすることになるのか。これまでと比べどうなるのか。Androidをどう取り込むのか議論も多く行われている」と指摘したほか、サムスン製のAndroid 2.3搭載スマートフォン「NEXUS S」でNFC(次世代の非接触IC技術)を搭載したことで、「日本で携帯電話に関わってきた身からすると今更と感じなくはないし、欧米でなぜ普及しないのかと疑問に思ったりするが、NFCはエコシステムがとても複雑」として、主要プレーヤーが音頭をとらなければ業界が動かないと指摘。そこで今回はAndroidでNFCを搭載することになったとする。

 NFC搭載による影響は、日本市場が1つの事例として、「(海外からも)ベネフィットは見えている」とする同氏は現在、海外でもおサイフケータイのようなサービスが実現するようビジネス展開を検討しているとのこと。

 日本におけるおサイフケータイは、端末にFeliCaチップを搭載し、さまざまな事業者がアプリを提供している。またフェリカネットワークスという企業がモバイルFeliCaチップ上の一定領域を管理し、各社のサービスが用いるICチップ上のエリアを調整する。端末メーカーや通信事業者、フェリカネットワークスのような事業者といった存在がNFCでどうなるか、グーグル側ではどのように調整していくか、ラーゲリン氏は、今後のスケジュールを含めて未定とコメントしていた。

 このほか、新バージョンが登場する際、一部メーカーがリファレンスモデル(先行して登場し、他から“参照”できる端末)を開発していることについて問われたラーゲリン氏は「我々がどのようにリードデバイスを選ぶか。当社自身のリソースが限られている中でAndroidを開発する際、“この1台に向けて次のリリースを作れ”というほうが良い結果が出る。そのためにリードデバイスが必要となるが、その担当メーカーは、どの程度エンジニアリングリソースを割り振ってもらえるのか、ハードだけではなくソフトウェアもオープンソースにする覚悟があるのか。またNEXUS Sでは薄いディスプレイやNFC統合といった新要素があるが、そうした技術面で勢い、信頼性などから選定している。日本メーカーがこれまで入っていないのはスピード感の問題だったかなと個人的に思う。ただ、かつての日本市場は、ポケベルが普及していながら、あっと言う間にiモードが席巻した。現在はターニングポイントで、誰よりもスマートフォンを理解し、愛していくメーカーもいると感じている」と述べた。

 



(関口 聖)

2011/1/31 14:22