ソフトバンク松本副社長、「SIMロック解除義務化は不利益過大」


ソフトバンクモバイルの松本氏

 ソフトバンクモバイルは2日昼、携帯電話のSIMロックに関する説明会を開催した。同社取締役副社長の松本徹三氏は「SIMロック解除に関して勘違いが広がっている。主張を行うのではなく、実態を理解してもらえれば結論は自ずから出る」と述べ、SIMロック解除の義務化がもたらす影響を説明した。

SIMロックで実現していること

 SIMロックとは、A社向けの携帯電話をB社の契約で利用できないようにしている仕組みのこと。海外で普及している第2世代の携帯電話向け通信規格であるGSM方式で導入された。欧州では国をまたいでも、現地の通信事業者が発行するSIMカードを自由に携帯電話に装着して利用できるようにしていた。この状態の携帯電話は“SIMロックフリー”“SIMフリー”などと呼ばれ、ロックされていない形。しかし、3G方式およびSIMカードの導入に伴い、国内では主要キャリアがSIMロックを導入、海外でもSIMロックは拡がりつつある。

 松本氏は、SIMロックがあるからこそ実現できている要素として「ワンストップサービス」「ネットワーク/端末を連携させた高度なサービス」「ユーザーの料金負担の軽減」「踏み倒しや盗難端末など不正利用防止」を挙げる。

 また、SIMロックが解除されると、端末開発のコストアップも大いに懸念されるとして、現状はキャリア提供のSIMロック端末か、メーカーが提供するSIMフリー端末のどちらも選べるようにしている一方、SIMロック解除が「義務化」されれば、高価で現状よりも機能が制限された端末しか選べなくなる、とも説明する。

日本の携帯業界のエコシステム

 携帯電話市場は、キャリア、端末メーカー、コンテンツプロバイダー、ショップ、ユーザーという5者が存在する。日本では、キャリアが中心となり、メーカーの端末をキャリアブランドで提供し、コンテンツプロバイダーの課金代行を行い、自社ショップの展開などを行う。回線契約~端末購入~コンテンツサービスの利用、サポートサービスまで一貫してキャリアが提供するという形で、いわゆる“垂直統合モデル”と呼ばれる。

 こういった垂直統合モデルは、国内ではキャリアが中心を担っているが「アップルはiPhoneで類似の仕組みを構築し、グーグルはメーカーやキャリアと提携しながら、これらエコシステムの中心たろうとしているのではないか」と松本氏は指摘する。垂直統合モデルを実現する為に必要なものがSIMロックで、長期契約を前提にして端末を安価に販売できるのは、SIMロックがあるからこそ、ということになる。また垂直統合モデルだからこそ、キャリアがほとんどのレイヤーに関わり、ユーザーの苦情・相談にも隅々まで対応できるとした。

 

解除すればどうなる?

ロック解除の影響

 SIMロック自体は、法で定められた仕組みではなく、事業者の自主的な判断で行われている“民間の取り組み”だ。そのため、SIMフリー端末が国内に登場し、技術的な課題をクリアしていれば、キャリアとしてはSIMフリー端末のキャリア網への接続を拒むことはできない。一方、過去にノキアやHTCがSIMフリー端末を国内市場で販売したこともあるが、人気を得るまでには至らなかった。

 ただ、SIMフリー端末については、その通信がネットワークへどのような影響を与えるか、ネットワークを構築したキャリアがコントロールできない。松本氏は「通信キャリアはネットワークの運用に責任を持っている。あの人がめちゃくちゃ使いましたから、あなたの電話は使えません、とは言えない。既存ユーザーを守る義務があり、ネットワークのキャパシティを、ある程度守らなければいけない」と語る。現在のところ、SIMフリー端末向けの定額料金プランなどは存在しないが、松本氏は「今の(一般ユーザーに提供する)プランは継続的に使うためのもの」と前提を述べ、SIMフリー端末向け定額制プランの提供は困難と同社の認識を示した。

 また、SIMフリーが義務化されれば、ユーザーへの説明も問題になると指摘。「キャリアを乗り換えればメールも携帯向けコンテンツも利用できない、インターネット(フルブラウザ)と音声通話は使えるだろうが、そうなるとユーザーから“騙された”と言われかねないし、きちんと説明しなければ騙すことになる。負担が莫大になる」と述べ、デメリットがあまりに大きいとする。

端末面での影響料金面での影響

 次世代通信規格であるLTE方式は、国内のキャリア各社がいずれも導入する予定で、各社での導入が進めば、通信規格としては国内で統一されることになる。LTEのエリア整備が現状と同程度になるのはいつになるか、現時点では見通しが立っていないが、仮にLTE時代が到来した場合であっても、松本氏は「各社の周波数が異なる」などと指摘し、SIMロック解除の効果があまりにないとした。

 また、「SIMフリーになって、キャリアを乗り換えても同じサービスを受けられるというのは完全な誤解。もし、1つの端末に各社のサービスに対応した機能を搭載すると、大きくコストアップになる。また、各キャリアのネットワークへ接続してきちんと動作するかどうか、互換性のテストをクリアするのも、猛烈な時間がかかる。(現在発売されているGSM対応機種では)実際欧州各国で(コストをかけ)テストをしている」と述べ、あまりにコストが多大とした。接続テストについては、「契約から2年経過した機種のSIMロックを解除する」というケースにおいても「2年後を見据えて、最初からテストしておかなければいけない。そういう使い方をする人がどれだけいるのか」と述べる。TELECなど国内の技術基準に適合していても、そういった基準はあくまで最低限の仕様を満たした物であって「ネットワークへ接続しようとすると繋がらないことも多々ある」という。このことから、ネットワークへの接続テストは欠かせないものとして、各キャリアのネットワークに対応するにはコストが莫大になるため、ビジネスとして成り立たないとした。いわゆるスマートフォンであれば、キャリア特有のサービスを利用することが少ないため、SIMフリーを実現しても問題が少ないように思えるとしつつも、相互接続試験の必要性がコストアップに繋がるとして、端末メーカーがSIMフリー機の開発・販売に参入しない要因になっていることを示唆した。

 不法行為に関しては、SIMロック端末に対してロック解除を試み、海外で販売されるという行為が現在でもあるものの、SIMフリーになればロック解除そのものが不要となるため、安価な契約で端末を入手しながら、不正に海外へ横流しするという行為が横行すると指摘した。

他のユーザーへの影響ユーザーサポートへの影響
不法行為への抑止効果LTEにおける留意点

 

「国際競争力と関連なし」

 また、端末メーカーの国際競争力への影響については、ノキアや韓国メーカーの動向を例に、これらのメーカーの国内市場規模と、実際の世界市場シェアはまったく一致していないと指摘する。

 特に、最近台頭しているHuawei、ZTEといった中国メーカーは、中国本土でこれから3Gサービスが展開されるという状況でありながら、世界市場での3G端末シェアを伸長させ、特にZTEは世界6位になっているとして、国内市場の規模と国際競争力の関係に疑問を呈した。

 また、ユーザーの利便性向上を理由にSIMロック解除の義務化を求める声については「そういった人がいるのは確か。海外へよく行き来する人が多いようで、メリットはあるが、デメリットと比べると比較にならない、というのが我々の見解」と述べた。

 このほか、2年前に総務省で行われた「モバイルビジネス研究会」において分離プランの導入が示され、実際に市場へ導入されると端末販売数が激減したことにも触れた同氏は「(同現象に対して)官製不況とあだ名を付けた人もいるくらいだ。仮にSIMロック解除を義務化して、誰が責任を取るのか。問題は、SIMロック解除を強制されるのか、推奨するのかということ」と述べ、民間で行っている活動に対して、官庁が義務化を推進することに疑義を呈した。

メーカーの国際競争力とSIMロックは関連が薄いとした総務省での検討に疑問を呈した

 



(関口 聖)

2010/4/2 17:01