ニュース
6Gは2030年実用化、鍵は「5Gの反省」にあり――クアルコムが描くAIネイティブな通信の未来
2026年6月30日 00:00
いつでもどこでも利用できる携帯電話は、街なかにある基地局と電波で繋がる。電波での通信は、これまで、第2世代(2G)、第3世代(3G)と技術的な進化を遂げ、現在、日本国内では4Gと5Gが利用されている。
すると、次は「6G」(第6世代)の登場……となるが、果たしてどのような姿になるのか。
通信技術の大手である米クアルコムの日本法人が、日本の報道関係者向けに、現在と今後の技術的な展望、そして最新の標準化動向に関する説明会を開催した。
説明会では、6Gが単なる「通信速度の向上」にとどまらず、AI時代の社会基盤として位置づけられていることがあらためて紹介された。いよいよ3GPPでの仕様策定が本格化するなか、AIが通信プロトコルに与える影響や、日本における周波数割り当ての遅れや、物理層での性能向上の限界など、現場の生の声を交えて現状が明らかにされた。
6Gは「AIそのもの」ではない。3つの柱とトラフィックの変化
5Gによってデータ容量を気にせず、ふんだんに使える時代が到来したが、6Gではどのような変化が起きるのか。
クアルコム ジャパンの城田雅一標準化本部長は「6G=AIではなく、『AI時代を支える6G』という位置づけが適切だ」と語る。「AIそのものが通信規格になる」といった表現は誇張されたものであり、6Gは「AIを前提とした仕様」になる。
その上で、クアルコムが6Gの柱とするのは「コネクティビティ」「ワイドエリアセンシング」「コンピューティング」の3つだ。従来の通信性能を向上させることに加え、通信インフラ自体がセンサーとして機能し、さらにネットワーク全体で計算リソースを分散させる点が新軸となる。
とくにコンピューティングについては、これまでクラウドに依存していた計算能力がエッジデバイスや無線局などネットワーク全体に分散され、システム全体でAI処理を担うようになるという。
こうした変化の背景には、トラフィックパターンの劇的な変化がある。
従来の5Gは動画視聴など下り(ダウンロード)のトラフィックを重視して設計されていた。しかし今後は、AIエージェントがユーザーを能動的に支援し、工場などではフィジカルAI(ロボットなど)が自律稼働する時代を迎える。この背景には、5G時代に「工場に入れましょう」と技術ありきで提案し、現場に理解されなかった苦い教訓があるという。テクノロジーを押し付けるのではなく、ロボット単体の計算能力不足といった明確な「困りごと」を解決する現実的な手段として、6Gの分散コンピューティングを提案していく姿勢だ。
「AIの推論には大きな計算能力が求められ、上り(アップロード)の通信量が大幅に増加する」と城田氏は指摘し、新しいトラフィックパターンに対応するための基盤として6Gが必要であると説明した。
XRデバイス普及の鍵を握るエッジ処理
具体的なユースケースとしては、XRやARグラスなどの活用が想定されている。これらのデバイスはバッテリーや計算能力が限られているため、手元で重い処理を行うのではなく、ネットワークのエッジ側へ処理をオフロード(肩代わり)することが求められる。
「端末内で処理するよりも、通信してエッジに任せたほうが消費電力もコストも安い」という判断基準が、6G普及の鍵を握るという。テクノロジーを先に持ち込んで無理に使わせようとするのではなく、デバイス側の明確な困りごとを解決するソリューションとして6Gが機能することが重要視されている。
16万ページの仕様書からの脱却。北添氏が語る「AIネイティブプロトコル」
通信規格の標準化を進める3GPPの議論において、大きな転換点となるのが端末主導の通信制御だ。
これまでの5G標準規格は数年前の時点で16万ページに及び、「ネットワーク側からの指示通りにガチガチに動く」ことが端末に求められていた。しかし、データだけでなく音声やXR、AIなど多様なトラフィックが混在する現在、従来の中央集権的な制御では自由度が少なすぎるという課題に直面している。
そこでクアルコムが提案し、合意に至ったのが「AIネイティブプロトコル」だ。端末(移動機)側がユーザーの居場所や利用中のサービスといった「コンテキスト」を把握し、AIを用いて自律的にプロトコルの動作を最適化する。
「端末が状況を一番よく理解している。AIがなかったころはすべてif文で書くしかなかったが、今後は多様な状況を加味して最善の判断ができるようになる」とクアルコム ジャパンの標準化本部シニアディレクターである北添正人氏は語る。
データ再送の要否やハンドオーバーのタイミングなどを端末が自律的に判断できるようになる一方、ネットワーク側の管理を徹底したい通信事業者との間では激しい議論があったという。最終的には「ネットワーク側が指定した一定の範囲内において、端末が自由に判断する」という妥協案で着地している。
端末のAI性能で「繋がりやすさ」に差が生まれる時代へ
端末主導の通信制御が導入されることで、新たな疑問も生じる。それは「端末のAI性能によって、通信品質に差が出るのではないか」という点だ。
説明会では、記者から「自律的な制御が実装された場合、SIMフリー版とキャリア版で違いが出たり、メーカーが『うちのスマホは繋がりやすい』とアピールし始めたりする懸念はないか」という質問が飛んだ。
これに対し、北添氏は「そういう考え方があるのはその通りだ」と頷く。従来はネットワーク側の設定通りに動くため、一律のテストさえ通れば、どの端末も同じ動きをすることが前提だった。しかし、端末側のAIが自律的に判断するとなれば、AIの学習モデルやパフォーマンスによってモビリティ性能が変わってくることになる。
「今までのコンフォーマンス(適合性)をテストする文化から、これからはパフォーマンスをテストする文化に変わっていかなければならない。最低限のパフォーマンスを各ベンダーで担保した上で、それ以上の部分で少し差が出てくるだろう」(北添氏)
同時に、AIが独自の判断で通信制御を行うと異常なパフォーマンスを出す懸念もあるため、通信事業者とインフラベンダーの間では「ネットワーク側で端末のパフォーマンスが適切に維持されているかをどう監視(モニタリング)するか」の仕組みづくりも検討されている。
北添氏は、出荷後にさまざまな端末から集めたデータでベースモデルを構築し、それぞれの端末で微調整(ファインチューニング)を行うのが将来的には現実的になると説明。「微調整をどこまでやるかなどで、将来的に通信事業者と端末ベンダーが一緒になって差別化を図る可能性は十分にある」と明かし、6G時代には「AIの賢さ」がスマートフォンの通信性能を左右する新たな競争軸になる可能性を示唆した。
基地局がセンサーになる「ネットワークセンシング」
6Gの新しい柱として期待されているのが「ワイドエリアセンシング」だ。これは、既存の通信ネットワークの基地局をそのままセンサーとして活用する技術を指す。
北添氏は「新たにセンサーを置かなくても、今ある基地局を使えばありとあらゆる場所にセンサーがある。これをサービスとして提供すれば通信事業者の新たな収益源になる」と語る。
米国サンディエゴの施設で実施されたデモでは、物理層のデータとAIを組み合わせることで、飛行中のドローンのローターの動きを検知して個別の機体を識別したり、地上の車両やトラフィックを検知したりする技術が公開された。
P2Pから「SBI」へ。RANアーキテクチャの抜本的刷新
6Gがもたらす変化は、無線区間(Radio Interface)にとどまらない。上位レイヤーのネットワークアーキテクチャそのものが根本から見直されようとしている。
「現在のネットワークは、GSMの時代から続くポイント・ツー・ポイント(P2P)の接続で成り立っている。RAN(無線アクセスネットワーク)とコアネットワークが1対1で繋がり、全体を協調させているのが現状だ」と北添氏は指摘する。
6Gでは、この旧来のP2P構成を脱却し、各ノードが提供側と要求側に分かれてサービス単位で連携する「SBI(Service Based Interface)」をRAN側にまで拡張する議論が進んでいる。
SBI化が実現すれば、AIエージェント同士が「インテント(意図)」ベースで通信品質(QoS)の要件を自動交渉し、ネットワーク全体で分散コンピューティングのリソースを柔軟に割り当てることが可能になる。
「トラディショナルなネットワークベンダーは既存の仕様を変えたがらないが、汎用サーバーとソフトウェアベースへの移行でコストを下げたい通信事業者からは支持されている」(北添氏)といい、標準化の最前線で激しい主導権争いが繰り広げられている。
5Gの課題「キャリアアグリゲーション」からの脱却とシングルキャリア化
広帯域化の手法についても、6Gでは大きな方針転換が図られる。5GのSub6(FR1:サブ6GHz帯の周波数区分)における最大帯域幅は100MHzに留まっており、それ以上の広帯域を確保するには複数の周波数帯を束ねる「キャリアアグリゲーション(CA)」を用いる必要があった。しかし、CAの多用は実装面で深刻な非効率性を招いていることが明らかになってきたという。
クアルコムジャパン標準化本部ディレクターのヴァレンティン・ゲオルギウ氏は、CAが端末(デバイス)側に与えるデメリットを詳細に解説した。
複数のキャリアを束ねる場合、セカンダリセル(キャリアアグリゲーションで補助的な役割を果たす)のオン・オフ切り替えに時間がかかり、通信遅延(レイテンシ)の増大やバッテリー消費の悪化を招く。特に影響が大きいのがアップリンク(上り通信)だ。複数のキャリアにデータを分散して割り当てると、信号が非連続となって端末内のパワーアンプ(増幅器)の効率が悪化する。その結果、送信電力を下げざるを得なくなり、電波の届く範囲(カバレッジ)の縮小に直結してしまうのだという。
また、ネットワーク(基地局)側にとってもCAは負担が大きい。キャリアごとにスケジューラやRF(アンテナおよびパワーアンプ)を個別に実装しなければならず、ハードウェアのコストと消費電力が増大する。さらに、リソースのプールが分断されることで、スケジューリングのトランキング効率(リソースの割り当て効率)が落ちることも問題視されている。
こうした5G時代の課題を解決するため、6GではFR1において「1つのキャリアで最大400MHz幅」を利用できる仕様が数カ月前に合意された。複数の帯域を束ねるのではなく、400MHzという広大な帯域を「シングルキャリア」として一気に確保するアプローチだ。
シングルキャリア化することで、1つのリソースプールから効率よくスケジューリングを行えるようになる。
電波を用いたネットワークセンシングや測位の精度は帯域幅に比例するため、帯域の分断をなくすことは位置特定精度の飛躍的な向上にも寄与する。
QAMの確率操作と低PAPR波形で挑む物理層の限界突破
物理層におけるキャパシティの底上げには、高度な信号処理技術が投入される。3GPPの議論でとくに白熱しているのが、新たな変調方式の採用だ。
従来はQPSKから256QAM、1024QAMへと多値化を進めてきたが、6Gでは「Probabilistic Shaping(確率的シェイピング)」という新技術の導入がクアルコムから提案されている。これはQAM(直交振幅変調)の信号点において、外側の点よりも中央に近い点の出現確率を意図的に高くすることで、約2dBのゲインを得る手法だ。
対抗馬として信号点間の距離を直接操作する「Geometric Shaping(ジオメトリック・シェイピング)」も提案されているが、ゲオルギウ氏は「確率的シェイピングのほうが既存の受信機構成を大きく変更せずに実装できる利点がある」と優位性をアピールする。
上り(アップリンク)通信の改善も急務となっている。6Gでは「PAPR(ピーク対平均電力比)」を抑えた低PAPR波形(DFT-s-OFDMの拡張など)を採用し、端末内アンプの高効率領域を積極的に使うことで、送信電力を引き上げ上りのキャパシティを増加させる。
さらに、複数アンテナを活用するマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)においても、端末からネットワーク側へチャネル状態情報(CSI)を明示的にフィードバックする仕組みを強化し、基地局側のスケジューリング効率を極限まで高めるアプローチが採られる。
具体的な目標値として、細かな改良を積み重ねることで「5Gと比較してダウンリンク(下り)で1.5倍、アップリンク(上り)で1.6倍ほどのキャパシティ拡大を目指す」という。
5Gで取り残された「FDDバンド」の救済
6Gにおける物理層の進化は、とりわけ低い周波数帯で運用される「FDD(周波数分割複信)」において重要視されている。
5Gの規格は、新たに割り当てられた広帯域な「TDD(時分割複信)」の最適化に偏重しており、FDDに特化した拡張がほとんど行われてこなかった経緯がある。
「既存のFDD帯域はすでにシャノン限界の98%近くまで使い切っており、わずか1%の改善すら難しい状態にある」(ゲオルギウ氏)という。
そこで6Gでは、チャネル帯域の両端に設けられているガードバンド(干渉を防ぐための隙間)を信号処理によって極限まで削り落とす技術が導入される。
これにより、30MHz以下のFDDチャネルにおいて最大6%の純粋なゲイン向上が見込めるという。さらに、端末側に複数の送信アンテナを搭載し、ネットワーク主導で最適なアンテナを選択する「Uplink Tx Antenna Selection」などを組み合わせることで、通信事業者からの要望が強いFDD帯域のテコ入れを図る。
「5Gの反省」活かした仕様に
6Gの仕様策定においては「5G時代の反省」も色濃く反映されている。5Gでは多様な要望を取り入れた結果、仕様が肥大化し使われない機能も散発した。「6Gではオプションを厳選し、筋肉質な仕様にシェイプアップする」と北添氏は語る。
5Gで強調された「低遅延(URLLC:超高信頼・低遅延通信)」についても、遅延の根本的な要因がインターネット回線側にあることが多いため、無線区間単体での遅延削減は今回は優先されない見通しだ。
3GPPのスケジュールは厳格に進行しており、2028年9月に物理レイヤーが最終決定され、2029年3月には実装に向けた詳細な定義が完了する。クアルコムはこのタイムラインに合わせ、2029年後半に対応チップセットを投入する構えだ。
既存周波数での5G/6G動的シェアリングと周波数シェア
6Gは新たな周波数帯だけでなく、既存の4Gや5Gの周波数帯を置き換えての実装も可能となっている。移行期には5Gと6Gが長期にわたって混在するため、両者を同じチャネル内でダイナミックに割り当て、効率よくシェアリングする仕組みも導入される予定だ。
また、400MHzという広帯域を確保するためのアイデアとして、各通信事業者に帯域を細切れに割り当てるのではなく、事業者間で周波数をシェアする案も浮上している。説明会では、設備を保有する「0次事業者」が登場する可能性も示唆された。ネットワークのインフラ設置や運用コストを最小化しながら、その上で何を動かすかという競争軸への転換が求められている。
日本が直面する周波数確保の危機
6Gの展開については、日本国内での展開には大きな課題がある。
6Gのグローバルバンドとして有望視される周波数帯は、6.5GHz~7.125GHz帯だ。この周波数帯について、諸外国では決定が進む。
その一方で、日本では、既に放送用などのシステムで用いられている周波数帯でもある。つまり、6G用として日本で使うためには、既存利用者との整理を進める必要があるにも関わらず、そうした議論が進んでいないという。
「日本の周波数の議論はコンサバティブで、安全マージンを重ねた結果、簡単に『共有不可』という結論が出がちだ。ここを一歩踏み込めるかに、この国の6Gの未来がかかっている」と城田氏は強い危機感を示す。
「Wi-Fi 7で何Gbpsと謳っても、皆で帯域を分け合う実際の環境ではそこまで速度が出ないことをユーザーも理解し始めている。ピークデータレートの議論だけでは新しいサービスは提供できない」と城田氏は指摘する。通信速度の数字ではなく、キャパシティ向上によって「ディズニーランドの行列が解消されるように楽になる」(同氏)といった、実際の利便性向上で価値を提示していくことが業界全体の課題となっている。
通信速度のピークを競う時代は終わりを迎えつつある。ネットワークの品質だけで差別化を図る時代は限界にきており、総所有コスト(TCO)を最小化しながら、社会の高度なデジタル基盤を作っていく戦略転換が求められている。
















