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鍵は“オンデバイス”と“マルチモーダル”、サムスンとクアルコムがAIの現状と未来を語る 大阪・関西万博2025

 7月18日、大阪・関西万博2025のテーマウィークスタジオにて、サムスン電子とクアルコムによる「Galaxy AI パネルディスカッション」が開催された。登壇者はサムスン電子の常務兼モバイルエクスペリエンス事業部テクノロジー戦略チーム長のソン・インガン氏、クアルコムコリアの副社長キム・サンピョ氏の2人。

 パネルディスカッションでは、「AIがユーザーの生活にどれだけ浸透しており、どうすればより多くの人が、安心して、日常生活内でAIを使えるのか」というテーマについて、両者の知見が語られた。

オンデバイスAIとマルチモーダルAIが鍵

 サムスンのソン氏は、自社のAIツール「Galaxy AI」を、Galaxy S24シリーズから搭載。今年発売されたGalaxy S25シリーズには、“ヒューマンライクAI”を実現し、AI時代を開いたと自信を見せる。

サムスン電子常務兼モバイルエクスペリエンス事業部テクノロジー戦略チーム長のソン・インガン氏

 一方で、自社のみではAI機能の実装は難しく、クアルコムやグーグルといったパートナーと手をとり、持続的に協力をしている。クアルコムとは、AI技術の開発に重要なオンデバイスAI、マルチモーダルAI技術を具現するために、親密な関係を続けているという。

 今回のパネルセッションのキーポイントは、このオンデバイスAIと、マルチモーダルAIの2つ。クアルコムのキム氏は、「ユーザーエクスペリエンスの向上のために必要な技術」と話している。

 オンデバイスAI、マルチモーダルAIそれぞれの特徴について、ソン氏は次のように話す。

 「オンデバイスAIは、クラウドに接続されないため、演算が早い。また、ユーザーの安全を保護できる。マルチモーダルAIは、人間が聴覚や視覚、触覚といった様々な感覚を使いながら状況を把握する。これと同じように、AIが聴覚や視覚、触覚を理解、解釈して、ユーザーに適合したAIサービスを体現するのが、マルチモーダルAIだと言える」。

 ソン氏によると、ここ6カ月のデータでは、日常生活でAIをよく使うユーザーの数は、約2倍に増加しているという。また、アンケート回答者のうち、約50%は、生産性が向上することが、AIを使う上で最も重要な要素と回答、約40%以上はAIをクリエイティブな活動に役立てているとのことだ。Galaxy S25シリーズユーザーのうち、Galaxy AIを積極的に活用しているのは、およそ70%にものぼるという。

 順調に数字を伸ばしているのは事実だが、まだAIに対して、距離感、抵抗感を持つ人もいるという。本当に役に立つのか、複雑ではないのか、安全なのかといった疑問から、なかなか手を出さないユーザーもおり、ソン氏は「ユーザーが持っている疑問を払拭することこそが、本当にユーザー中心のAIを提供するための、最初のキー。そのため、サムスンはAIを機能ではなく、エクスペリエンスでアプローチし、日常生活内で、迅速に使ってもらえる、安心して使えるAIを具現しようと考えている」としている。

 キム氏は、ユーザーが感じる距離感、信頼感の格差について、「AIの技術が、ユーザー中心に設計されておらず、技術自体に重点を置いて開発されてきたからだ」と話す。

クアルコムコリア副社長のキム・サンピョ氏

 さらに「クアルコムは、AIが新しいユーザーインターフェイスであると定義して、直感的で、ユーザー中心的なエクスペリエンスにすることに重点を置いて開発してきた。人間は、話しかけたり、見たり、触ったりと、マルチモーダルに物事を判断し、言葉や行動で表現する」と同社の姿勢を示した。

 続けて「同じように、感じて、思考して、反応することを、AIが行うことが、最も良いソリューションだと考える。そのためには、マルチモーダルAIと、オンデバイスAIの2つが必要。こうした哲学のもと、クアルコムは2007年からAIに関連した技術を研究開発し、投資をしている。CPU、GPU、NPUなどを自社開発し、AIエクスペリエンスを最大化することにベストを尽くしてきた」と語っている。

 ユーザーにAI体験を提供する開発者に対する取り組みとしては、「スマートフォンが登場した2008年ごろのアプリ数は、50程度だったが、今は150万から200万のアプリがある。これだけ爆発的にアプリ数が増えたのには、好循環が生まれているから。開発者が革新的なアプリをリリースし、ユーザーがそれを購入する。その資金で、また開発者が新しいアプリを開発する」とスマートフォン用アプリを例に出す。

 そして「AI開発も、同じような循環で進めていくことで、成功していく。クアルコムは、さまざまなプラットフォームを開発者に提供している。開発者向けのソフトウェアツールを集めたクアルコムAIスタック、AIモデルを簡単に最適化し、リリースできるようにしたクアルコムAIハブもある。このハブを通じて、150あまりの最適化したAIモデルを提供している」とした。

AIは最小限のインプットで、アウトプットを最大化する

 クアルコムと同様に、サムスンのGalaxy AIでも、ユーザーが意識せず、自然にAIが使えるような設計を心がけているという。

 ソン氏「AI機能を活用するためには、ボタンを押し、メニューを探して、さまざまなアプリを実行するという段階を踏まないといけなかった。ここで、AIを使うことを諦めてしまう人もいた。サムスンとしては、ユーザーのインプットを最小限にしながら、アウトプットは最大化するAIの実現に集中している。これを実現するためのデバイスは、マルチモーダルAI機能を搭載するスマートフォンであると考える」と話す。

 また「マルチモーダルAI機能を利用して、使用者のインプットを正確に認識し、使用パターンを分析することで、ユーザーが望むアウトプットを正確に実現できるようになる」とした。

 代表的な事例として、これまではタイピングを行ってテキストを入力しなければならなかった検索が、画面に円を描くだけで、直感的に情報を検索できる「かこって検索」がある。

 また、AIと対話をするだけで、好きなスポーツチームの試合日程を検索し、カレンダーに追加して、他の人と共有することができる。複数のアプリを自分で立ち上げる必要はなく、自然な会話のみで、AIが解決してくれる。

 日常的に役立つ便利なAIの事例として、ソン氏は「生産性」「創造性」「コミュニケーション」の3軸から、それぞれの機能を紹介。生産性としては、会議の際に、AIが話者を分析しながら議事録を作成し、要約までしてくれる機能や、外国語で書かれた資料の翻訳、要約機能を紹介。

 創造性では、撮影した写真から、不要な要素を簡単に取り除く生成AI編集機能や、動画内のノイズのみを除去するオーディオ消しゴム機能、コミュニケーションでは、通話時のリアルタイム翻訳機能や、通話内容のテキスト化といった機能が紹介されている。

サムスン、クアルコムが考えるAIの未来

 高精度なAI機能を利用するためには、強力なチップセットが必要だという。キム氏は、「強いプロセッシングパワーと、有機的なプロセッシング技術が必要。Snapdragonの中には、CPUやGPU、NPU、センシングハブなど、さまざまなユニットを、業界最高の性能で組み込んでいる」という。

 続けて「CPUは縦列処理方式、GPUは並列処理方式、NPUはAIに特化した並列処理方式を使っている。異機種のコンピュートユニットを有機的に制御、管理し、最適なAIエクスペリエンスを提供している。これらの演算を、オンデバイスで実現したことが重要。低電力、速度が上がる、セキュリティやプライバシーの強化などだ」と語る。

 クアルコムは、セキュリティと性能の両方で満足がいくチップセット、アーキテクチャの開発をしているとのこと。単にAI機能を与えるのではなく、使用者の権利の保護や、透明性の確保を含む、レスポンシビリティAI原則を策定して、製品の開発、パートナーシップに反映している。

 ソン氏は、AIサービス自体は、個人のニーズに合わせてパーソナライズされた時に、最も意味を持つため、ユーザーのデータを活用するしかないが、それに増して、個人のデータの安全を保護することが重要だと話す。

 「ユーザーのデータに対する権限は、ユーザーに戻すことが重要。サムスンは、セキュリティ技術を最高レベルで維持しながら、オンデバイスAI技術を、クアルコムと協力して発展させてきている」としている。

 また、ソン氏は、サムスンが考える今後のAIのビジョンについて、「より自然で、直感的な方向に向かっていく。ユーザーが望むことを、発言しなくてもAIが理解して、必要な情報を提供する。その中心にはスマートフォンがあるのに加え、パソコンやウェアラブルデバイス、IoT家電製品まで、さまざまなデバイスが有機的につながり、ユーザーの生活に静かに浸透して、AIを提供する。それを実現するために、サムスンは人を中心に据えている。技術を発展させる上で、人間が中心になる」と話す。

 キム氏も、ソン氏に賛同しながら「スマートフォンを超え、ウェアラブルやオートモーティブなど、さまざまなデバイスに接続しながら拡張していくと考える。AI基盤の中心として、ハブの役割を担うスマートフォンが、さらに発展していく」と語った。

質疑応答ではソン氏が回答

 パネルセッション後、ソン氏が質疑応答に対応した様子もあわせて紹介していく。

――Androidメーカーは、ベースとしてグーグルのGeminiを使用しているが、Galaxy AIとして、どのように他メーカーと差別化していくのか

ソン氏
 グーグルとは、Android基盤のAI実装において、密接なパートナーシップ関係を持ち、ユーザーエクスペリエンスを一緒に作っているので、他のメーカーとは違うと考えている。Geminiはアプリがあり、ダウンロードして使用できるが、Galaxyではインテグレーションを通じてGeminiが利用できるようにするといった差別化をしている。

――現在、Galaxyのスマートフォンは、電源ボタンの長押しでAIが起動するが、AIが普及していく中で、AIに特化した設計は考えているのか

ソン氏
 サイドキーの長押しでAIが使えるようになっているが、これはユーザーが便利に使えるように考えて設計した。AIのためだけでなく、様々なパートナーと仕事をしていて、クアルコムもその1社。様々なAIモデルがあり、ハードウェアの最適化は必要。サムスンは、SoCも含め、様々な企業と最適化を図りながら、AIの機能を提供している。

――オンデバイスAIがフォーカスされているが、今後、クラウドAIとオンデバイスAIの扱いはどのような比重になっていくのか。クラウドAIには、データセンターの消費電力といった問題があるが、どのように捉えているのか

ソン氏
 現時点で予測するのは難しい。Galaxyにおいても、オンデバイス、クラウドの両方でAI機能を提供している。それぞれにメリットがあるが、ユーザーがオンデバイスか、クラウドかを100%選択して利用できるようにしたい。社会的な費用はかかるので、市場において、オンデバイスAI、クラウドAIをどのように見ているのかの推移を見ながら、戦略を立てていきたい。

――Galaxy S25ユーザーの70%以上がAIを使っているという話があったが、どのような機能が使われているのか。逆に、Galaxy AIには実装されていないが、ユーザーから要望があるAI機能はあるのか

ソン氏
 GalaxyのAIとして提供している機能はたくさんあり、少しずつ差はあるが、どれか1つを選ぶのは難しい。しかし、最も多く使われている機能の1つとして、生成AI編集機能や、かこって検索機能が、代表的な例だと思う。モバイルAIにおいては、サムスンは開拓者という立ち位置なので、市場の研究をして、最適な体験を提供するリーディング企業。業界において、先導的な企業なので、今後も様々な機能を提供していきたい。

――AIに抵抗感を持つユーザーがいるとのことだが、サムスンとして、AIを使ってもらうために、どのように工夫やアピールをしているのか

ソン氏
 AI機能は非常に便利だが、ユーザーにそれを強制するわけにはいかない。ユーザー自ら、AIが便利だと認識してもらうことが重要。我々にできるのは、AIを便利に使ってもらえるような環境を提供すること。サイドボタンを通じて、AIが起動するマッピングをしているし、直感的に使ってもらえるような、ボイスインターフェイスの開発も続けている。直感的にAIを使ってもらえるようなハードウェア開発を進めている。

――日本にあるサムスンのラボでのAI開発で、日本ユーザーからのフィードバックなども含め、AI開発に有用な部分はあったのか。

ソン氏
 サムスンは海外に多くの研究拠点を持ち、それぞれでアサインメントを通じて、AI技術の開発を進めている。なので、各研究拠点で得られた素晴らしいAI機能を搭載し、ワールドワイドに展開している。全世界でワンチームとして仕事をしているが、日本のラボで開発されたAI機能が搭載されたことは、今のところ、覚えがない。だが、日本市場は重要視しており、SRJ(サムスンリサーチジャパン)でのAI研究機能を強化しており、言語面など、AIを日本市場に普及させるための研究開発を行なっている。