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シャープ「Tech-Day’24」開幕、生成AIと“自然な対話”で生活をサポートする「AIスマートリンク」などで社会課題解決を図る
2024年9月17日 20:23
シャープは17日、開発中の新技術や最新ソリューションなどが一同に展示される技術イベント「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」を開催した。18日まで東京国際フォーラム(東京都千代田区)で実施される。
3つのビジネスグループの取り組みを強化
代表取締役社長兼CEOの沖津雅浩氏は、同社の企業改革を推進していることに触れ「スマートライフ&エナジーグループ」と、「スマートオフィスグループ」、「ユニバーサルネットワークグループ」の3つの取り組みを強化するとコメント。
具体的には、白物家電の付加価値シフトを進めAIを活用した新たな価値提案の積極的推進、カーボンニュートラルに向けた格好の動向へのタイムリーな対応、パソコンやロボットなどでオフィスの生産性向上に向けたソリューションの提案強化や事業拡大、テレビやスマートフォンなどの映像、通信技術の商品力強化などが挙げられる。
今回の展示でも、生成AIを使った白物家電を含めたスマートホームの取り組み「AIoT 3.0」や、AIによる効率的な倉庫の自動運用、XR、衛星通信の端末が紹介されており、基盤技術とそれらを活用したユースケースに至るまで、同社のスピード感をもった技術が展示されている。沖津氏は、今回のイベントで「(来場者に)展示やセッションを通じて近い将来の暮らしやビジネスがより快適なものに進化するネクストイノベーションを理解、体験したり、多くのパートナーに取り組みを共感してもらったりしてもらいたい」とコメント。また、ユーザーの声を直接聞くことで、完成度を高めたり開発スピードを加速させたりすることが、同イベントの開催意義だと説明した。
ユーザーとの接点を増やす
専務執行役員CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏は、「ブランド事業強化」を掲げ、白物家電やパソコン、スマートフォンなどさまざまなユーザーとの接点をもっており、この接点を増やしていきながら、同社が考える新しい価値とユーザーで作り上げていく取り組みを加速させていきたいと説明。今回のイベントで初披露される電気(EV)自動車も、この接点の1つになると話す。
これらを支えるのは、同社の独自技術であり、「CE-LLM」は「今後のAIを支えていく大きな試金石になる。さまざまな方々と一緒にこの世界を作り上げていきたい」(種谷氏)と期待感を持たせた。「CE-LLM」は、ユーザーのデバイスで動く「エッジAI/オンデバイスAI」であるため、機密情報を守りながらAIが「会議の議事録を起こしたり、ポイントをまとめてくれたり」する。
今回のイベントで、入口フロアに展示されているEV自動車のコンセプトモデル「LDH+」は、走っている時間だけでなく、停まっている時間にも価値を生み出すことを目指したもので、同社の家電メーカーとして培ってきたマーケティングや提供価値、提案力が詰め込まれている。また、「LDH+」だけでなく、自動車の運転手をサポートするさまざまなデバイスが展示されている。
先述の「AIoT 3.0」では、「社会基盤に匹敵する家電ネットワークが、社会課題の解決にまで価値を生み出すようなフェーズに来た」(種谷氏)とし、社外のパートナーを含めた取り組みが展示やトークセッションで紹介される。
また、同社のESG関連の独自技術では、「フードロス削減」をテーマに大きく3つの技術が紹介される。新しい技術や太陽光発電の取り組み、家中の家電をコントロールすることで省エネ効果を最大化する試みも紹介される。
これらの技術や取り組みを支える通信技術についても、最新の取り組みが進められている。同社では「ユニバーサルネットワーク」とし特に無線通信に重きを置いて技術開発を進めている。セルラー通信の標準化や、V2X、非地上系ネットワーク(NTN)などへ技術開発の裾野を広げているほか、Beyond 5G向けのIoT端末用SoCなど来るべき6Gの世界に向けての取り組みが行われている。
ウェアラブルデバイス「AIスマートリンク」
基調講演の後半には、17日に発表されたウェアラブルデバイス「AIスマートリンク」の紹介やトークセッションが実施された。
「AIスマートリンク」は、シャープと京都芸術大学と共同で開発されたもので、カメラ搭載モデルと非搭載モデルがある。ネックスピーカーのように首に掛けて使用でき、音声による生成AIとの自然なコミュニケーションで、ユーザーをサポートする。
内蔵されたマイクとカメラ(搭載モデル)で周囲の環境を把握し、ユーザーのさまざまな問いかけに対して、環境に応じて返答する。たとえば、自転車での移動中に目的地までのナビをお願いすれば、音声で道案内してくれる。「AIスマートリンク」では、シャープの「CE-LLM」が内蔵されており、利用者の問いかけの内容に応じてエッジAI/クラウドAIのどちらを利用するか瞬時に判断し、ユーザーが違和感を感じない応対をする。
今後、「AIスマートリンク」の実証実験を進めるほか、次世代ハンズフリー型AIデバイスをFairy DevicesやNECと共同開発する協議も始めており、2025年度の実用化を目指して取り組みが進められている。
種谷氏は、生成AIによる生活の変化を、家電にある数多くのボタンや取扱説明書を例に挙げて説明する。
「我々の反省でもあるが、洗濯機など多機能にしよう、カスタマイズできるようにしよう、とし“山ほど”ボタンが設置されている。確かにきめ細かく設定できるが、『服や汚れの種類で洗い方が違うかもしれない』と迷ってしまう。AIがあれば、ユーザーが(取扱説明書などで)調べなくても、状況をユーザーから聞くことで最適なプログラムが自動でダウンロードされて、ユーザーは“ボタンを押す”または“AIにお願いする”だけで洗濯できる世界観になる」(種谷氏)。
生成AIでより自然な生活ができるようになると話す種谷氏は、同社の生成AIに関する取り組みの内容について「1つの機器で1つの領域をカバーするのではなく、サウンドやXR、仕事や家庭などさまざまなシーンで新しい価値を提供するものになると説明。ユーザーがAIを自然に感じながら生活できる世界観を作っていこうとしている。
共同開発した京都芸術大学教授の小笠原治氏は、「ハンズフリーで手書きメモをそのまま学習に使えたり、本を読んでいるところでAIに質問したり、自然に振る舞うことができてすでに満足度が高いという感覚」と開発時点での完成度を評価。
シャープ 研究開発本部長の伊藤典男氏は、「音声を使って操作するものを使うときに(リモコンなど)物を持たないといけない状況を“自然なことではない”と思っていた」と説明。AIスマートリングでは、AIと会話を重ねることで“シェアされている情報”が増えていき、AIと指示語でやりとりできることも、AIを自然に扱えるようになる要素の1つと“自然なAI”をアピールした。