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「エリクソン・フォーラム 2023」5G SAや持続可能なネットワーク整備などをキーワードに日本の5Gの未来を語る

 エリクソン・ジャパンは、携帯回線の基地局などネットワークインフラのさまざまなソリューションなどを紹介するイベント「エリクソン・フォーラム 2023」と都内で開催した。

 当日は、同社代表取締役社長のルカ・オルシニ(Luca Orsini)氏と野崎 哲氏、CTOの鹿島 毅氏が登壇し、世界と日本の5G通信環境事情や今後のネットワークのあり方などが披露された。

 また、会場では同社の最新基地局設備や、ローカル5Gソリューションなど、ハードとソフト両面の最新ソリューションが展示された。

世界も5G SAの展開に動いている

代表取締役社長のルカ・オルシニ(Luca Orsini)氏

 オルシニ氏によると、この1年間で世界の5G商用ネットワークは228から265に、そのうちの155のネットワークでエリクソン提供のソリューションによって展開されているという。

 また、人口カバー率は35%から48%まで上昇しており、世界でも4Gから5Gへの移行が進んでいるとした。

 一方、真の5Gと言われる5Gのスタンドアローン(5G SA、周波数だけでなくコア設備も含めて5G専用のものを使用するサービス)についても徐々に拡大されているといい、中国ではSAサービスが中心になってきており、中国全体で約400万の基地局を整備していると説明。米国のTモバイルでは、ミッドバンドとローバンドをうまく組み合わせて最適な通信エリアと速度を実現しているという。

 また、インドやシンガポール、オーストラリアでは、政府が5G活用に重要な役割を果たしているという、シンガポールでは5Gがデジタルインフラ基盤としての活用に取り組んでいるほか、インドでも国策としてデジタルインフラの大規模展開を進めている。

 オルシニ氏は、5Gへの投資について「簡単にできるものではない」としながらも、すでに収益化の時期に来ているとコメント。基盤としての5Gから、ユーザー体験をベースとしたサービスを展開するためには、SAの展開でより差別化されたサービス価値を提供できるとした。

 たとえば、SAで実現できるネットワークスライシングでは、スタジアムなどイベントでほかの通信と切り離されたプレミアムな接続サービスを提供できる。ビジネスユースでは、工場のDX化や低遅延の遠隔操作などが実現できる。

 加えて、ソフトウェアがネットワークプラットフォームのさまざまな機能に簡単にアクセスできるようAPI化(ネットワークAPI、NW API)を公開することで、金融やビデオ通話アプリケーション開発などで潜在的な需要にも応えられるとした。

日本での5G

代表取締役社長の野崎 哲氏

 続いて野崎氏は日本での5G通信事情について解説した。

 23年6月時点で、5G加入者数は7500万件、人口カバー率は96.6%で「ほかの国と比べて突出している」(野崎氏)一方、展開エリアの多くは4G LTEの周波数を転用した(NR化)5Gサービスによって達成されてきていると指摘。

 「数字だけを見ると順調そうに見えるが、インフラ整備と端末のユースケースとの間でにらみ合いになっていてうまく進んでいない『鶏と卵』の状態」という指摘も一部であり、今後の進展については考えていかなければいけないとした。

 現実的な話として野崎氏は「トラフィック量は非常に伸びてきている。一部の通信事業者でネットワーク品質に関する声や報道があるが、事実としてデータトラフィックが2020年から30年にかけて14倍となる伸びが指摘されている」とし、これまでの「エリア優先」から「Sub-6などへの拡張」や大都市圏での「最新技術によるキャパシティの強化」が必要であると指摘。

 たとえば、Massive MIMOなどをあわせて活用することで、速度と性能の向上に繋げることができるとした。

 加えて、5G SAサービスの提供を進めることで、これまでとは異なるユースケースが展開できると指摘。クラウドゲーミングや遠隔操作、AR、VR、リアルタイムメディアなど新しいユースケースの創出で、新しい利益機会を得ることができるとし、通信事業者に対してSA化を加速させるべきだとした。

 一方、法人向けの「ローカル5G」については「近年は本当に使いたい方からの需要が目立ってきている」とし、工場(スマートファクトリー)や港湾オペレーションなどでのユースケースが増えてきているとコメント。一度導入すれば簡単に中止するようなことができない場所において、きちんと持続性のある信頼できるプライベートネットワークへの需要が多くなってきているという。

 また、単にネットワークを構築するだけではなく、ユースケースに応じたエコシステムへの取り組みを進めているといい、日本の工場でも実証を進めている。

 たとえば、地震発生時にいち早く工場設備を停止できるよう、緊急地震速報よりも早く地震に関する情報を提供するようなエコシステムをパートナー企業と取り組んでいる。

 野崎氏は、日本の5Gの現状について、カバレッジは進んでおり、企業へも徐々に導入が進んでいるいわゆる基本基盤としてのステージから、新しい価値を生み出す次のステージに進むことができる環境にあると指摘し、同社の今後の5Gへの関わりを示した。

持続可能な通信の進化に向けて

CTOの鹿島 毅氏

 鹿島氏は、Beyond 5Gや6Gに向けての通信技術の進化について、データ消費量の増加に伴う速度や容量の拡大以外にも「持続可能なネットワーク整備」や「ユースケースの創出」などにも検討していくべきと説明。

 たとえば、2011年から21年の10年間でデータ量は300倍となり、エネルギー消費量も1.6倍になっており、消費エネルギーの抑制が急務になっているという。

 同社では、ネットワークによる二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「Net Zero」目標を掲げており、ポートフォリオ利用によるネットワーク稼働やサプライチェーンに二酸化炭素排出量を2030年までに半減させる目標を打ち立てている。

 また、2022年から28年にかけては、データ量が3.5倍、5G加入数やIoTデバイス数が増大となる一方で消費エネルギー量は22年よりも抑制できるような目標を立てている。

 ユースケース拡大に向けても重要となるアーキテクチャーの進化に関しても、これまでのネットワークの垂直統合から水平化が進んでいくと指摘。複雑化するネットワーク管理を自動化したり、各産業のさまざまなデベロッパーが使いやすい共通化されたネットワークAPIの活用でさまざまな技術の進化をもたらすことができるとした。

 現行の5Gは主にコンシューマーでの利用が多いが、6G時代に向けて舵を取るなかでも「5Gは基盤になる」とし、強力なネットワーク機能、とりわけSAのネットワークスライシング機能やAPIの解放などが今後のネットワーク技術の進化に関するポイントになるとした。

小型化する基地局設備やローカル5G実証のようす

 イベント会場では、同社のソフト/ハード両面の最新ソリューションが紹介されていた。たとえば、ビルの屋上や鉄塔に設置される基地局向けの大型アンテナから室内設置向けの小型アンテナ、屋外スタジアムなどの天井に設置するような小型防水アンテナなど、設置場所に合わせたアンテナ設備をラインアップしている。

Massive MIMO対応のアンテナ。オルシニ氏は、小型化が進んでおり、日本の気候条件や設置条件に適合したアンテナもラインアップしつつあり、Massive MIMOの展開への条件はそろいつつある旨を話す
中身を確認できる展示も(エリクソンのロゴで切り抜かれた展示)

 また、ローカル5G関連では、ローカル5G接続とWi-Fi接続のWebカメラ映像を比較してローカル5Gの低遅延性をアピールするものや、デジタルツインの世界を体験できる展示などが披露されていた。

ローカル5Gの実証で使用される装置
動く電車の模型(画面下)を撮影したものをローカル5G(左上)とWi-Fi(右上)で伝送し投影しているようす。ローカル5Gでの伝送では模型の位置とほとんど変わらないのに対し、Wi-Fi伝送では遅延が目に見えて確認できる
デジタルツインを体験できる展示。Webカメラ(左)で撮影したデータを基に人間をバーチャル空間上に投影し、自動運転のシミュレーションなど現実世界ではやりにくい実験などをバーチャル上で行える

【お詫びと訂正】
ルカ・オルシニ氏の名前に一部誤植がありました。お詫びして修正します。