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ビルが自動で成長する世界に、ソフトバンクと日建設計がスマートビル支援の合弁会社「SynapSpark」を設立
2023年10月25日 17:01
ソフトバンクと日建設計は25日、スマートビルの建築をサポートする新事業とそれを担う合弁会社「SynapSpark」(シナプスパーク)を12月1日に設立すると発表した。
新会社では、スマートビルの建築支援とスマートビル向けのアプリケーションやデータ連携基盤「ビルOS」の企画や提供を行う。ICTやデータ基盤に知見を持つソフトバンクと、建築設計や都市開発の専門家集団である日建設計が連携することで、これまで機器ごとに最適化されていたものをビル全体で最適化し省エネや地域活性化などを狙う。
建設業界でも脱炭素は課題
日建設計 代表取締役社長の大松 敦氏は、同社についてさまざまな社会課題の解決に貢献してきたと語る一方で、同社が設計した全国の建物から排出される二酸化炭素は、国内排出量の1%を超えているとし、近年は脱炭素を優先的な課題にしていることを明かした。
近年の例では、中学校校舎の設計段階から自然採光や通風性能を最適化したうえで、建物内外のエネルギー状況を確認できるエコモニターを設置し、生徒が自発的に省エネ活動に結びつけられる取り組みを進めている。
また、既存のビルを改修する取り組みを続けており、行動変容アプリで人の行動を変えていく取り組みも進めている。
そのなかで大松氏は、人間の行動を変えるだけでなく、ビルそのものが自動で脱炭素マネージメントをするのが理想としながらも「現状は(各機器)各々が個別にマネージメントしており、連携は困難」だと説明。そこで、ビルをまるごと最適化するビルOSの必要性が高まってきているとする。
自ら考えて動くビルを目指す
つづいて登壇したソフトバンク 代表取締役の宮川 潤一氏は「AIが本当に身近になってきた」としながら、製造や金融などあらゆる産業がAIによる最適化が図られてきている中「最も期待している事業は、ビルにAIを搭載して『Autonomousビル』を作りたいということをずっと考えていた」とし、同社の竹芝本社(東京ポートシティ竹芝オフィスタワー)でビル全体を「Autonomousビル」にすべく取り組んできたと説明する。
一方、新築のビルへの入居だったが建物の設計はすでに終わった段階での取り組みであったため、「やりきれなかった」部分が多かったと語る。
この取り組みでは、ビルのオーナーである東急不動産の協力の下進めていたが、空調や照明の設備はそれぞれで独立しているため連携が難しいと指摘。たとえば、ビル全体にフルスペックの5G通信設備を導入し、顔認証ゲートの導入など先進的な取り組みは実施できたが、センサーの数やカメラの位置角度に制限があったという。
宮川氏は、「Autonomousビルを実現するためには、設計の段階から入り込むことが不可欠であることに気づいた」とコメント。今回の取り組みにつながったという。
なお、今回のパートナーとして日建設計を選んだ理由として宮川氏は「事業規模や設計士の数など日本でナンバーワンの企業で、日本で一番の会社と組みたかった」旨をコメントしている。
今回の合弁企業設立に先立ち、赤坂の建設中のビルですでにAutonomousビルの取り組みがすすめられている。
宮川氏は「設計段階から関われることで、設備仕様の共通化やサイバーセキュリティを考慮したネットワークの構築、プロトコルの共通化など実施」したとし、全体のケーブルを従来比で約50%削減、消費電力は15%減、運営工数は30%減を見込んでいるという。
ビルの資産価値は、通常経年によりその価値は減少していくが、宮川氏はこの「自ら考えて動くビル」がデータを使いビル自身が成長することで、建物がアップデートされ価値が高まることを目指すとコメント。また、建物だけでなく社会実装を進めることで、街全体の価値向上が期待でき、より豊かな社会が目指せるとした。
既存ビルへの導入も
新会社の社長に就任したSynapSpark代表取締役社長の沼田 周氏は、新会社で「自動運転できるビルを目指し、アプリケーション基盤を提供していく」ことをあらためて説明。
また、すでに竣工しているビルにおいてもAutonomousビル化する取り組みもすすめており、ビルメンテナンスの効率化や防災警備の強化などに向けて取り組みを進めているという。
新会社では、「10~15年で100億円の売上、市場の30%くらいはとれる立ち位置で攻めていく」(沼田氏)とした一方、ソフトバンクの宮川社長からは「もっと高くいきたい」と自身の考えをこぼす場面も見られた。
スマートビル化は日本で浸透するのか?
建物のスマート化について、日本ではあまり進んでいない現状がある。日本において何が課題になっているのか?
ソフトバンク 宮川社長は「第3次産業革命に起こった自動化の波はパソコンとインターネットによってもたらされたものだが、現在まっただ中の第4次産業革命では、AIですべてのものが最適化されるというのが定義」と前置きした上で、「ソフトバンクとしてどんな役割を担っていくべきか、自動運転などチャレンジしたなかで始めたのがスマートシティだった」と竹芝ビルでの取り組み当初を振り返る。
この取り組みでは、「人がいないのに電気や空調が動いている」ということはなくなった一方、「人がたくさんいる中で熱い寒いという点や違うセンサー同士での連携はできず、なかなか最適化が進まなかった」とし、この最適化をさらに進めるためには、ビル全体の最適化を担う「ビルOS」の存在が必要であるということに至ったという。
このビルOSを含めた一連のソリューションを、「建物建設産業」に続いて日本の産業として輸出することにも今後取り組んでいくと宮川氏は話す。
日本のスマートビル化が進まない原因について宮川氏は「既存のビルをスマート化することは難しい」とし、設計段階から検討することの必要性をあらためて主張。
日建設計の大松社長は「ビルの各設備や照明、空調設備、入退室管理などそれぞれの設備システムにはそれぞれ個別に最適になるようにしており、つなぎ合わせることのメリットもあまり示せていなかった」とし、これまでは同社にデジタル人材が不足しておりしっかりと効果を出すことが難しかったと指摘。異なるさまざまな関係者と合意形成をしていくことが、スマートビルにおいても重要であるとした。