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「デュアルSIM」がスマホ低迷の一端に、OMDIAが市場予測を公開
2023年5月23日 00:00
OMDIAは、2023年のスマートフォン市場の動向と展望についてメディア向けに説明会を実施した。
スマホ市場の縮小傾向は下げ止まりへ
OMDIA ワイヤレスデバイス シニアリサーチマネージャーのジュシー・ホン氏は、2017年のグローバルでのスマートフォン出荷台数が14億4000万台だったことを紹介。その一方で2023年の出荷予測台数は11億7000万台と前年比で3%ほど低下した。
ホン氏は、これについて「メーカーが保守的な予測をしているため」と原因を分析。2023年上期の世界経済の低調さもその原因の一端という。
スマートフォン市場は過去6年間、縮小傾向にある。ホン氏はその一番の理由を中国市場にあると指摘する。中国のスマートフォンの出荷台数は16年から下がっている。全体の出荷台数は、2016年に4億7500万台だったが、2022年には2億8300万にまで落ち込んだ。
中国市場はほかに類を見ない大きな市場だが、その低調さがグローバル市場にも影響した。その一方でホン氏は今後の予測として「(今後の出荷台数は)これ以上は下がらない、2023年から上向きになる」と前向きな見方を示す。年間で3億台の出荷数を維持し、市場の縮小傾向が下げ止まることで、グローバルでもプラスの影響が見込めるという。
デュアルSIMが低迷の一因に
ホン氏は、スマートフォン市場の縮小の原因のひとつを「デュアルSIM対応スマートフォン」の広がりにあるとみる。
同氏が示すデータによれば、2022年の12月時点で、デュアルSIMスマートフォンの普及率は85%に達した。これにより、プライベートと仕事用でスマートフォンを2台持ちしなくて良くなり、2台目需要が低下したことが出荷台数を下げたひとつの要因とする。多くのスマホがメーカーや価格帯によらず、こうした使い方の変化を受けているとした。
6インチ前後のディスプレイや高性能なチップセットなど「非常にバランスが良い」というホン氏。こうしたことから、現在のスマートフォンは、2~3年経過しても問題なく使えることが多く、長い間ひとつのスマートフォンを使い続けるというユーザーも増えている。
これに加えて「スマートフォンを修理する」という傾向も影響している。修理することで、同じものをずっと使い続けるというユーザーが多くなった。中古のスマートフォン市場の台頭も相まって、出荷市場への影響として表れた。ホン氏はこうした状況は、新興国での人口増やフィーチャーフォンからの買い替え需要で、2024年からは出荷台数が回復すると見ている。
高価格モデルへのシフト続く
出荷数のトップ5はサムスン電子、アップル、シャオミ、VIVO、OPPOで5社で市場の70%を占めている。
同氏は各メーカーの課題を収益性とする。廉価モデルの分野は過去2年で縮小傾向。原因はサプライチェーンの混乱や米ドル高、インフレ影響などさまざま。スマートフォンの生産性や収益性が下がってしまったことで、各メーカーがより高価格帯のモデルに注力しているという背景があると説明した。
351ドル以上の端末の出荷台数は過去4年間上がり続けており、高価格帯のシェアは2019年に14%だったが、現在は20%という。一方で非常に安価なモデルは、2019年に11%のシェアだったが、現在は8%にまで減った。250ドル以下の廉価モデルを求める人と高価なハイエンドモデルを求める人で市場は二分化していると状況を分析した。
折りたたみスマホ市場の今後
「Galaxy Z Fold」シリーズや「Galazy Z Flip」シリーズで精力的に折りたたみスマートフォンを展開するサムスン電子。2022年の折りたたみスマートフォンの出荷台数は、同社が単独で8割弱ほどを占めた。
2022年第3四半期には増加傾向にあった折りたたみスマートフォンだが、その後は不況のあおりなどを受けて、縮小傾向にある。高価格モデルにおける折りたたみスマートフォンの出荷台数は5%ほど。規模小さいのは、アップルが参入していないことが大きな理由という。同社の見立てでは、今後もアップルはこの種の市場には参入しないとしている。
同社の折りたたみスマートフォンの市場予測としては、グローバルで5%という出荷にとどまり、2028年まではニッチな立ち位置が続く。アップルが高価格帯の市場で大きな影響力を持つものの、折りたたみモデルに参入していなことから限定的な市場になるという。
その一方で、グーグルや中国メーカーの参入が相次いでいるというプラス要素もあり、アプリやコンテンツ開発者の折りたたみへの挑戦へ結びつけたとも語る。主に中国国内で参入するメーカーはさらに増えるとの見立てを明らかにした。
ネットワークの発達でデバイスへの要求が下がる
OMDIA リサーチアナリストのマオセン・シア氏は、通信技術の観点からスマートフォンの普及について説明。
ユーザーが5Gに移行するにあたり、何がその引き金となるのか。シア氏は、通信プランの料金や端末の価格の低下、PHSや3Gからの切り替えるがあると説明する。ネットワークの拡大は2023年で1段落することから、ネットワーク整備の費用は低下すると見込む。
ネットワークが発達することで、スマートフォンに求められる性能要件を下がるとシア氏は指摘。クラウド側でゲームの処理が行われることから、デバイスでの負荷が下がる。必然的にパフォーマンス要求が負荷が下がることになるとして、ローエンドモデルでも、クラウドを活用することでハイエンドモデル並の体験を得られるメリットがある。さらに今後、XR系のサービスも5Gの普及により浸透することが見込まれると説明した。
低料金プランが5G移行のカギ
2020年の3月、キャリア各社の5G料金プランの平均は7000円を超えていた。しかし、2022年の1月になるとそれが2500円を切った。
シア氏は通信料金の低下が、5Gへの移行を促したと分析。さらに5G端末の価格の影響も指摘する。NTTドコモの「らくらくフォン」やサムスン電子の「Galaxy A」シリーズなど、エントリークラスでも5G端末が登場したことで、手に届きやすくなった。さらに楽天モバイルの新規参入を契機に、MNO3社が低料金なブランドを出してきたことから、多くの人の利用につながったと分析する。
5Gユーザーは、2025年には70%にまで増加するとシア氏。デバイスとネットワークのパフォーマンスが上がることで「5Gの魅力を楽しみやすい環境が整っていく」と予測。通信料金や端末価格ともに下がっていき、5Gがより手に取りやすい方向に向かうとした。
スマホの半導体市場は今後回復基調へ
OMDIA コンサルティング ディレクターの杉山和弘氏は、スマートフォンにおける半導体市場への影響を説明。
コロナ禍での巣ごもり需要による反動で、パソコンやスマートフォン、家電製品などの需要が落ち込んでいる。半導体製品のうち、メモリーはさまざまな製品で活用されることから、高い需要があり半導体の売上の3割ほどを占めている。一方でその結果、生産者もそれを使うメーカーも、メモリーの在庫を抱える傾向にあることなどから、価格変動が大きなものになっているという。
杉山氏によれば、2023年の電子機器市場は、ロシア・ウクライナ戦争やインフレ、中国問題などから需要が下がるものの、新技術への投資などで前年比でプラス成長を見込む。自動車分野や5G関連の投資などもあり、市場全体としては上振れるとされるものの、スマートフォンやパソコンは厳しい状況が続くとの見通しを示す。
半導体市場については、各社が抱え込んだ在庫を消化する年になると-7.5%のマイナス成長と予測した。パソコンやデータセンター、スマートフォンの需要減が大きく響くという。コロナ禍の半導体不足から、セットメーカーなどが在庫を抱えたことで半導体市場にも影響が及ぶ。杉山氏は、自動車分野以外では「新たな発注がなく、在庫消化の期間に入っている」と状況を説明した。
OMDIAでは、スマートフォンの出荷台数について2023年第1~2四半期を底打ちとして、その後回復基調に転じるとの予測を示している。スマートフォン向け半導体は、各社がコロナ禍の終焉を見据えて買い貯めた在庫の消化で低迷するものの、2023年第1四半期を境に回復に転じると見られている。秋ごろには新型iPhoneの登場も見込まれることから、新たな半導体需要が期待でき、冬までにはプラス成長に転じると見通している。