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創業111周年を迎えたシャープ、今後の同社が歩む道は

 シャープは17日、創業111周年を記念してイベントを開催した。

 シャープは1912年、金属加工業の会社として創業。電卓やテレビ、電子レンジなどさまざまな電気製品を手掛け、1970年には現在の社名であるシャープに改称した。イベントには、ポーランドやインドネシア、ベトナムなどの大使や代表のほか三重県亀山市などの自治体、創業家である早川家などおよそ500人が出席した。

早川住江氏
ポーランド 特命全権大使 パヴェウ・ミレフスキー氏
インドネシア 特命全権大使 ヘリ・アフマディ氏
ベトナム 臨時代理大使 グェン・ドェク・ミン氏

甘利議員などあいさつ

 シャープ 代表取締役社長執行役員 CEOのロバート・ウー氏は、人的資源への投資に注力することをアピール。グローバルでのプレゼンス向上を目指し、各エリアでの採用活動を進めるとした。

左=シャープ ロバート・ウー氏。右=同 ブランデン・チェン氏

 さらに、創業111周年を記念し11月にはイベント「Sharp Technology Day」を開催することも発表された。

 シャープ 専務執行役員 CFOのブランデン・チェン氏は同社が小さな工場から日本を代表する大企業に成長したことを語り、今後の発展へ向けてAIやロボットなどの成長分野へ注力していくと今後の姿勢を説明。エレクトロニクス企業からテクノロジー企業への転換を進めていく旨を語った。

自民党 甘利明議員

 このほか、自民党の甘利明衆議院議員もあいさつ。「世界のソニー……」と言い間違えるハプニングがありつつも「シャープが創業111周年を迎えた。支えてこられた皆様に敬意、お祝いを申し上げる」とコメント。鴻海 創業者であるテリー・ゴウ氏と会談したことを明かしつつ、かつての経営危機を脱したシャープについて「イノベーションは至上命題としつつも、それを過信してはいけないこともまた至上命題。強みをどう活かすか」が重要とした。

今後のシャープの進む道は

 シャープの技術開発は今後、どんな分野に注力していくのか。「シャープが目指す技術の方向性」と題してパネルディスカッションのかたちでその一端が示された。

 シャープ 常務 研究開発本部長の種谷元隆氏は、世界で起きている技術的なイノベーションについて「シャープにとっても興味深い。我々の強みを活かせる場として活用を進めていきたい」と語る。

 シャープでは、2016年からIoT家電を展開しているほか、同社のスマートフォン「AQUOS」シリーズでもユーザーに話しかけてくる音声アシスタント「エモパー」を搭載するなど、AI技術を開発してきた。シャープでは日々、新しい技術やサービスが登場するなかでIoT家電にも進化が必要とシャープ Platform事業推進部長の中田尋経氏は説明。

 生活の情報や家電からのセンシングデータをもとにライフスタイルを解析、個々のユーザーにフィットしたサービス・情報を届けるなどの進化の方向性が示されたほか、省電力化や健康アシスト、防災、対話型AIなど気候変動や高齢化社会、災害などを見据えた新たなサービスの展開を目指す。

 カーボンニュートラルの観点では「ペロブスカイト太陽電池」の開発を推進。次世代の太陽電池として期待される技術で、塗布して乾燥させると結晶化するという特徴がある。これにより、有機フィルムと組み合わせることで、フレキシブルな太陽電池の実現が見込まれている。

 シャープでは、ディスプレイ製造ノウハウ、複写機の感光体ドラムで用いられる材料や塗工技術とこれまでの太陽電池やエネルギー制御技術を組み合わせ、ペロブスカイト太陽電池の開発を進める。ディスプレイ製造設備を活用することで、大面積の太陽電池を低コストで製造できるという。シャープエネルギーソリューション エネルギーマネジメント事業統括部 PV技術部 参事の宮西晋太郎氏によれば、重量制限などの理由で従来型の太陽電池の設置が難しかった屋根や窓への貼り付け、航空機の翼への搭載も実現可能な見込み。

 このほか、省エネ技術を活用した製品としてほとんど電気を使わない「ePaper」もアピール。電源線や一次電池が不要というメリットがあり、広告やポップ、時刻表などさまざまな用途に活用が期待できる。

 これらと次世代太陽電池を組み合わせるほか、通信技術やセンサーを組み合わせて「ディスプレイそのものが自立してインテリジェンスを持つというものを実現したい」と、シャープディスプレイテクノロジー 開発本部長の伊藤康尚氏は説明した。

 さらに、こうした技術を結ぶネットワークにも注力。シャープでは6G通信の早期事業化をかかげ、開発を進めている。これから製品化を進める技術について「(通信で)つながっていかないと実現できない。どこでもつながるということが重要になる」とシャープ 新規事業開発統括部長の今村公彦氏は語る。

 テレビ開発での映像規格特許は世界4位、5G通信規格での特許は世界10位、いずれも日本では1位というシャープ。こうした強みを活かして、通信と放送の融合や太陽電池と組み合わせて災害時の通信手段確保などの実現を目指す。さらにその先の未来として電気自動車の自動運転や「空飛ぶ自動車」などの開発も視野に入れるという。

ディスプレイは重要プロダクト

 堺ディスプレイプロダクトの苦戦により、業績としては厳しい局面を迎えるシャープ。国外のテクノロジー企業では、雇用削減に踏み切る例も多い。ウー氏は業績立て直しの手段としてリストラや事業分離はあるのかという問いに対して「会社として111周年を迎えた。トランスフォーメーション、アップグレードしたい。全社員一丸となって準備をしている」と直接的な言及を避けた。

 主要株主である鴻海からの直接の資金的支援については、株主の立場であるとして両社が独立性を保つかたちになると否定的な見方を示した。

 シャープではこれまで、ディスプレイ事業を日本にとっても重要なものとして残していくとしていたが、ウー氏はこれをどう見ているのか。同氏は「企業にとっても政府にとっても貴重な資産」とコメント。シャープのブランドを支えていくものとして、パネルのみならずデバイスも含めて発展させていきたいという考えを示した。