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ドコモの展示会「そばにあった未来とデザイン『わからなさの引力』展」が六本木で開催

 NTTドコモは、東京都港区の東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデンにて展示会「そばにあった未来とデザイン『わからなさの引力』展」を3月18日~26日の計9日間で開催している。入場料は無料。

 同展示会は、ドコモのプロダクト部がデザインとどう向き合っているのか、ドコモとデザインの関係をコンセプトとして年に1度開催される。今年は、10年ほど先の暮らしをより深く考えることに重きを置き、13名のクリエイターが、説明しがたいけど“なんかいい”と感じるプロダクトを日常生活から選出して展示している。

 13名のクリエイターは、ドコモプロダクト部の「この人に話を聞きたい」という観点で選出されており、グラフィックデザイナーや建築家、現代美術家など、さまざまな肩書を持つ。

テクノロジーを追求するドコモが考える〝わからない〟の重要性

 同展示会のテーマである〝わからない〟という感覚は、テクノロジーを追求する通信会社とは逆の価値観にも思える。

 ドコモ デザインディレクターの宮沢哲氏は、「これまで便利になる、通信速度が速くなるといったことで豊かさを享受してきたが、ソロキャンプやレコードの流行のように、古い物や手間がかかることが重要視される時代になってきている」と語り、「利便性を追求するあまり、説明できない感覚を見過ごしてきたのかもしれない。そこで、“わからない”という言葉をプラスに捉え、可能性に満ちた言葉として扱ったらどうなるのかという観点で、今回の展示会のテーマにした」とコメントしている。

NTTドコモ デザインディレクター 宮沢哲氏

 展示物は各クリエイターが選んだ13点のアイテムのみ。ドコモのデバイスも展示するか検討したが、デザインを模索している様子を伝えるために、あえてスマートフォンといったデバイスを一切展示しなかったとのこと。

日時計(現代美術家 宮島達男氏)
箕(デザインエンジニア 緒方壽人氏)
ヒシの実(美学者・東京工業大学教授 伊藤亜紗氏)
ソフビの虎(プロダクトデザイナー 倉本仁氏)

 同展示会のテーマが“わからない”であるため、デジタル製品とのつながりが見えにくいものの、リテラシーの高い人だけが最新技術を扱えるのではなく、詳しくない人が何気なく使うデバイスにも最新技術が入っているような世界を目指すうえで、あえて感覚の部分にフォーカスをあてているという。普段ユーザーが目にする製品デザインの手前にある、デザインをするうえでのコンセプトやアイデアとなる部分を展示しているイメージだろう。

展示物はバイクからビーチサンダルまで多岐にわたる

 曖昧な「わからなさ」をテーマとしている展示会だけに、展示物はクリエイターが所有するバイクや使い古されたビーチサンダル、沖縄の伝統的玩具「指ハブ」などさまざま。展示物にはクリエイター、ドコモに加え、俯瞰から展示物をとらえる第3者として、デザイン誌・AXIS編集部のコメントが添えられているが、曖昧さを大切にし、それぞれの感性で展示物を捉えられるよう、端的な140字程度の短い文章におさめられている。それぞれのコメントは、3月20日より特設サイトで閲覧できる。

MOTO GUZZI V11 Sport(デザイナー 三宅一成氏)
指ハブ(クリエイティブディレクター・デザイナー 辰野しずか氏)

 たとえば、ビーチサンダルを展示しているクリエイティブディレクターの齋藤精一氏は「毎日の生活において頭の中のスイッチを入れたり、切ったりしてくれる道具」とコメント。一方ドコモは、「役目を終えたビーチサンダルを捨てがたい気持ちになる」としている。使い古されたビーチサンダルを見て、齋藤氏、ドコモに共感できるかは人それぞれだが、“なんかいい”“なにがいい”を来場者それぞれが感じ、考えることこそ、同展示会の狙いといえる。

ハワイアナスのサンダル(クリエイティブディレクター 齋藤精一氏)

 展示物が置かれているディスプレイ台は、それぞれの展示物におけるもっとも見てほしい部分が来場者の目線の高さに来るように設定するため、高さが不均一になっている。また、ディスプレイ台は正面から見ると白塗りだが、反対側から見ると木目が見えるデザインを採用。多角的な視点から楽しんでもらうための構成だが、「具体的になぜこうしたかは“わからない”」と宮沢氏は語る。

古い椅子(プロダクトデザイナー 鈴木元氏)

 接ぎ木だらけの古い椅子は、当初低いディスプレイ台に設置することを検討していたが、細かな継ぎ目や穴を見てほしいと考え、最終的には膝上あたりのディスプレイ台に展示された。

テクノロジーの発展がもたらす「感覚の共有」

 宮沢氏は「ようやく感覚を伝えあう領域に入ってきている」と語る。これまでは、回線が細いから大きなデータが送れないといった問題があったが、5G通信のように技術が発達し、多くのものが伝えられるようになったからこそ、感性といった部分も共有する時代になってきている。ARやVRもさらに発展していくと、逆に触感や匂いを伝えるといったアナログ方向に向かうと考えているようだ。

 さらに「展示物を見ても、なにもわからなくていい」とのこと。宮沢氏は、「有事の際に初めて日常生活のありがたみがわかるように、“わからない”という感覚は豊かなことなのではないか」と話しており、「老若男女問わず、散歩がてら気軽に来てもらって、“わからない”ままで帰ってもらうのが正解」と語る。

 「そばにあった未来とデザイン『わからなさの引力』展」は、最新技術と人の感性という一見相反するテーマを、ドコモがどのように追及しているのか、製品デザインの一端を覗ける展示会となっている。