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「ユーザーが望むものを」ドコモの携帯電話に込められるデザイナーの想い

 自分の手元にあるケータイがどのような想いをもってデザインされているか考えてみたことはあるだろうか。使いやすさや形のユニークさ、ひょっとすると長く使えるシンプルさかもしれない。「ユーザーの姿を想像するのが最も大事なこと」――NTTドコモ プロダクト部 デザインディレクターの宮沢哲氏はこう語る。

 ドコモは、10月18日~10月27日、東京都港区の東京ミッドタウンにおいて、展示会「ドコモとデザイン」を開催している。入場料は無料。展示物はスマートフォンやアクセサリー、Wi-Fiルーターといった製品を企画する段階で生まれたプロトタイプやカラーサンプルなどだ。

会場の床は、普段デザイナーたちが使っているカッターマットをイメージ。中央には鉛筆と定規のオブジェも

 中には製品化にいたらず、これまで陽の光を浴びることのなかった貴重な試作品を見ることができる。これらの製品にはすべて、デザイナーたちが「どうしたら手にとってもらえるか」を検討した結果そのものといえるだろう。

お客様が望むものを

 デザインで最も大事なことは、「お客様が何を望んでいるかを考える、使う方の姿を考えてデザインする」ということだという。ライフスタイルや価値観の違いから端末に求められるものは異なってくる。そうした中でスマートフォンとは、どうあるべきなのかと考えると、Yシャツのイメージがしっくりくる。あまり主張せず、道具であることに徹するため、シンプルな形状にたどり着くことは多いという。

宮沢哲氏

 常に持ち歩くものとして、サイズ感は非常に重要な要素と宮沢氏は説明する。さまざまな携帯電話が市場にあるなかで、小さいものから大きなものまで選択肢を提示しユーザーに選択肢を提示できるのが理想と語る。

多画面端末サンプル。3画面の端末も

 そんな宮沢氏は、デザインの発想はスマートフォン以外のものから得ることも多いと語る。ライフスタイルの変化はスマートフォンとも密接で、それぞれが影響しあっているものだと語る。周りで何が起こっているのかなどを記録し、ときにはイタリアまで家具の展示会にも行くという。新しいモノは積極的に見聞きするという姿勢が、新たなスマートフォンを生み出す原動力になっているのだ。

 これまで1枚板が定番だったスマートフォンも、2画面端末の流行の兆しが見え始め、ひとつの転換期に入ろうとしていることを予感させる。そうした変化する時代の中で、宮沢氏は「私たちは(常に)持っていただく商品を作っている。(ユーザーが)持ったときにどう感じるか。持ちたいか、持ちたくないか。これからも気をつけていきたいところだ」とデザインに対する姿勢を現した。

「形」から「素材」へ、変わる携帯電話のデザイン

 展示されているもののひとつは、スマートフォンの外装に使われる素材の検証に使われたサンプル。折りたたみやスライド式、分離式などさまざまな形状のバリエーションに富んだフィーチャーフォンの時代とは異なり、スマートフォンのデザインは一枚板が基本だ。スマートフォンは画面の中のコンテンツに価値をおかれ、本体の形状などよりも手触りや、精度感などが重要視される傾向がある。そのため、デザインは「形」から「素材」へ移り変わった。

ドコモのデザインに大きく寄与したプロトタイプたち

 スマートフォンなどの携帯機器はライフスタイルに密接に関わる機械といえる。故に、ドコモでは色、素材、仕上がりのいわゆるCMF(Color、Material、Finishing)を最も大事にしているのだと宮沢氏。

 シリコン、ガラス、カーボン、アルミニウムなどで作られたモックアップが並んでいる中で、ジルコニ(セラミック材)は陶器のような平滑感を持ち、品質の高さを感じさせるものに仕上がった。宮沢氏によると「これにより、素材や素材を組み合わせたことで生まれる魅力が大事」ということを確認できたという。

色や形への独自調査も

 ドコモではどのような色が好まれるのかを毎年、数百人~数千人規模で調査を行っている。それらは端末を企画する過程で、自分たちの判断が本当に正しい方向に進めているのかを確かめるための一種のメジャーとして使用している。

 ちなみに、現在のトレンドとしては、金属的な色が好まれる傾向にあるのだという。

ジルコニアのプロトタイプやファブリックも
色のサンプル。時代によってにごった色、鮮やかな色の人気の変遷がある

 端末の形状についても同様だ。色と同じく、毎年どの程度のサイズまでが持ちやすいかについての調査を独自に行っている。年々、大型化していくスマートフォン。ユーザーもやはりより大きな画面を求める傾向にある。

 しかし意外なことに、「実際に欲しいサイズはどれか?」という質問の答えには乖離があるという。頭の中で考えている欲しいサイズと、実際に手に取って欲しいと思うサイズの差を生み出す要因はなんなのか、どのように解決できるのかという分析にも異なるサイズのサンプルは使われているという。

左=一番小さな端末 右=一番大きな端末
左=最も薄い端末 右=最も厚い端末

 展示会場には、画面サイズのみならず、厚みや画面比率、角の丸みを調節したものなど多くの「持ちやすさ」の調査に用いられるサンプルが並んでいる。

人に寄り添い、時には尖ったデザイン

 「持ちやすさ」と同様に、「使う人に寄り添う」デザインもまた研究されている。展示されているシニア向け端末のサンプルは、一見すると普通の端末だが、専用のケースを装着することで機能を使いやすく絞ることができる。簡易的なダイヤルボタンや、カメラを中心に据えたスマートフォンに変身させることができる。

 また、人と通信の分断を生み出さないという観点から生み出されたのが「カードケータイ KY-01L」だ。大型化するスマートフォン文化にあえて逆行し、最低限の機能を残して徹底的にスリム化。常に持ち歩けるサイズに仕上げ、「ネットワークからの分断」を防ぐというコンセプトが貫かれている。

白いYシャツ

 幅広いユーザーに勧められる商品とは「白いYシャツ」だと宮沢氏は語る。フォーマル、カジュアルを問わず、男女どちらでも着ることができるYシャツのイメージを目指し、完成したという「MONO MO-01J」。今回展示されている、要素のすべてをかけ合わせてできたという端末だ。

 端末に組み合わせるアクセサリーは「端末と対」になっていると宮沢氏。さまざまなアダプターがコンセントに刺さっているという状況を解決する手段としての側面があるという。展示されていたアダプターは純白で無駄を省いたシンプルなデザイン。MONOとの組み合わせは、サードパーティ製のアクセサリーではなかなか真似ができない統一感を醸し出している。

 また、スマートフォンのほかにも、Wi-Fiルーターも展示されている。デザインがおざなりになりがちだというルーター。大型化したルーターをどうしたら、サイズをプラスに感じてもらえるかを検討した製品を目にできる。