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Google、AIのチカラで「基地局設置」を最適化

開発された「自動プランニングシステム」

 米グーグル(Google)は、通信事業者が直面する最も困難な課題「無線システムをどこにどのように設置するか」を解決するための取り組みを紹介している。

 通信サービスを求めるユーザーに対し、十分かつ低コストで高品質な通信を提供するための候補地選びをサポートする「自動プランニングシステム」を開発し、今後も機能拡張などを進めていくとしている。

複雑な無線ネットワークのプランニング

 Google Researchのリサーチサイエンティストのサラ・アーマディアン氏とマシュー・ファールバッハ氏は、高品質でコスト効率の高い無線ネットワークを設計、構築、運用することが難しくなっていると話す。携帯電話と通信する無線システムや、電源、有線ネットワークなどのデバイスが占める物理的な空間に対する場所代など、新しい無線システムの設置場所は慎重に選択することが重要だと説明する。

 また、通信サービスが必要とされている場所で、どの無線システムがどれだけ強い信号を出しているかを確認する必要があるという。周辺の建物や丘、植物など障害物を含む環境での電波に関する物理的特性は非常に複雑で、正確に予測するには、高度な計算集約型のモデルが必要となる。

 無線システムを置けるだけ置くことができれば、最高のカバレッジと通信容量が得られる一方、コスト面や近隣の無線システムとの間で許容できない干渉が発生する。

 無線ネットワーク計画の目標は、コストと干渉を最小限に抑えながら、カバレージと容量を最大化するべく、新しい無線システムを配置する場所を決めることだとしている。自動でネットワークを計画するシステム(オートプランナー)では、これらの課題を迅速かつきめ細かく解決すべく、数十年にわたって研究されてきたという。

自動プランニングシステムの流れ

 これらの問題を解決するため、Googleでは高解像度の地理データから得られる詳細な幾何学モデルと、分散コンピューティングによって駆動される無線伝搬モデルを用いて構築した、ネットワーク計画ツールを試験的に導入した。

 信号レベルを高速活高精度に予測でき、最適化アルゴリズムにより、指数関数的に広がるネットワーク候補を賢く選別し、需要にあったネットワーク容量を確保しながら、「コスト」、「カバレッジ」、「干渉」のバランスを考慮した無線システム候補を提案するという。

米ノースカロライナ州シャーロットでの運用例。図上の青い点が新規無線システム設置場所の候補地、ヒートマップは信号レベルを示している

電波の伝搬計算にグーグルの資産を活用

 今回のシステムでは、電波の伝搬計算にGoogle Earth、Maps、Street Viewと同じ高解像度ジオデータを利用して、植生や建物の3D分布をマッピングする電波伝搬モデリングエンジンを使用している。

 一般的に電波は移動距離に応じて減衰するが、障害物を通過したり、反射したり曲がったりすることでさらに信号が弱くなる。このため、物理ベースの計算にこれらの「信号の散乱」を考慮した計算が必要となる。

 今回のモデリングエンジンは、グーグルの資産を活用し、平地や丘陵地、建物が密集した都市部からまばらな農村部まで多種多様な環境を考慮した信号補正モデルを実測で幅広く学習させているという。詳細な塩データを使用することで、1m以下の解像度でも正確な信号損失予測ができる。

Google Earthの3Dモデル(左)と高さモデル(右)
ポイントツーポイントでの建物や樹木を通過する軽度のプロファイル。灰色は建物、緑色は樹木を示す

 この伝搬エンジンでは、分散計算の手法を取り入れ高速で計算ができる。たとえば、米国本土にある2万5000台の無線システムのカバレッジ計算をする場合、1000のCPUコアを使用し解像度4mでわずか1.5時間で計算できるという。

予算を含めたプランニング

 電波伝搬モデリングエンジンを活用し、ネットワーク計画を最適化することができるようになる。今回の自動プランニングシステムでは、無線システムを設置できる候補を提案するため、大規模な組み合わせの問題を高速かつ堅牢性を担保しながら対応する。

 自動プランニングシステムには、サービスを提供するグリッド(需要点)と無線システムの設置候補地、その候補地から需要点までの予測電波強度、コスト予算を入力する。

 この入力データは、候補地の和や需要点が膨大になればなるほど、ポイントツーポイントの信号強度データが必要になるためデータ量が巨大になる恐れがある。自動プランニングシステムを利用するには、プライオリティ・サンプリングのような手法を適用し、統計データの正確性を維持しつつ、都市サイズのデータを計算機1台のメモリーに収まるレベルでデータを縮小する。

探索アルゴリズムも最適化

 自動プランニングシステムでは、探索アルゴリズムも最適化されている。

 たとえば、候補地と供給点の組み合わせのなかから、強い信号強度の接続を割り当てるなどを行い、評価する組み合わせを制限する。

 また、隣接する候補地のペアを禁止し、計算する候補地のペアを大幅に減らし、最適解への探索を続けるとようにしているという。

強い電波信号の接続を割り当てるイメージ(左)と、電波の干渉を抑える候補地選びのイメージ(右)

 自動プランニングシステムでは、「需要の確保」、「コスト」、「カバレッジ」、「干渉」の4要素のバランスをとりながら多数の解を導き出し、4要素すべての評価が低いものをフィルタリングし、ユーザーに選び抜かれた解を提案するとしている。