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潮の流れで発電する「スマートブイ」、京セラと長崎大学が開発

 京セラと長崎大学は、安定した海洋データの収集を目指した「エナジーハーベスト型スマートブイ」を開発した。

 長崎大学が開発した潮流発電システムを搭載したブイに、京セラ製の「GPSマルチユニット」を搭載。加えて用途に応じたセンサーを接続できる。

左から長崎大 征矢野氏、坂口氏。2基のブイを挟んで左から京セラ 能原氏、氷山氏

 エナジーハーベストとは、自然エネルギーや振動、廃熱などを活用して発電する技術のこと。海上においては、電源が限られており、安定的にデータを得る上で重要なポイントとなっている。

AIで最適なタービンを設計

 潮流発電システムは2種類を試作。ひとつはブイと発電部が分離した「SLTT」(Small Lens type Tidal Turbines)と呼ばれるもの。タービンの周りにディフューザーが装着されており、海洋ゴミなど漂流物からタービンを保護するとともに潮流を増速させる効果もあるという。

 もう一方の「VTT」(Vertical axis Tidal Turbines)は、ブイと発電部が一体になったもの。潮流に対してブイを傾けることで、効果的な発電を実現する狙いがある。また、タービンが一体型になっていることでSLTTよりもコンパクトで設置が容易というメリットもある。

 海洋データを安定して取得するには、洋上での電源確保や多数のブイを敷設することからコスト上の課題を抱えていた。潮流は、波力や太陽光、風力と比較して予想可能で安定的に得られるエネルギーであることと、すでに別の研究で浮沈式潮流タービンの実績があり、確実性が高いことから今回の開発に至った。

 長崎大学では、時間で変化する潮流に対応する高効率なタービンを設計すべく、AIと遺伝的アルゴリズムによる「多目的最適化設計システム」を用いた。

今後の課題も

 長崎県五島市奈留町の末津島の近海で、試作のブイを用いた実証実験が行われた。SLTTは平均発電量16.3Whに対して、平均消費電力が15.2Whと、発電量が消費量を上回る結果となった。

 一方でVTTは、平均発電量3.4Whに対して、平均消費電力は7.8Whと消費電力が発電量を上回った。これについて、VTTの実験を行った海域は、地形の影響などもあり潮の流れが遅すぎたことなどが原因としてあるという。

 また、漂流物の問題もあるとした上で今後、低流速な潮流でも発電できるよう改良を進めていくという。

 データの通信にはLTE-Mを用いている。エリアはキャリアのサービスエリアに準じるものの、岩陰などに隠れると通信が難しくなることもあり、将来的にはサービス提供できるエリアをあらかじめ目安をつけられる方法を確立したいとした。

 今回の発表は、即実用化につながるものではないとしつつも、2022年度内の実用化を目指すとした。

海の見える化

 両者は今後、「海の見える化」の促進として、水温塩分センサー、クロロフィル濁度センサー、DOセンサーといったセンサー類に加えて水中カメラもサポート。長時間の安定稼働の実現のため、性能改善や商用展開に向けたプラットフォームやアプリケーション開発を進めていくとしている。

 京セラ 経営推進本部 IoT事業開発部 能原隆氏は、IoTを社会課題解決に向けた切り口のひとつと説明。「取得困難なデータを取得できるようにする」ことが京セラのIoTビジネスのコンセプトと語る。

 海洋データは、取得困難なデータのうちのひとつ。海に関するデータを提供することで、水産業における漁場の確認や海運における安全な航行など、海が生活に関わる人の役に立てられるという。

 長崎大学 海洋未来イノベーション機構 機構長の征矢野清氏は、IoTを用いた養殖や赤潮から魚を守る浮沈式の生簀の開発などが注目を集めると紹介した上で「これらの開発の基盤として海の情報を知ることが重要。今回のスマートブイは『海の見える化』実現の第一歩」とした上で未来の養殖や海洋産業に必要不可欠になると説明した。