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ソフトバンクが衛星通信や高精度測位で船のIoT化、海事産業の高度化進める

 ソフトバンクは、e5ラボが主催する「ROBOSHIP価値共創プロジェクト PoC in Tokyo 2020」へ参加、高精度位置情報の提供や衛星利用による通信環境整備など船のIoT化へ取り組む。

 ROBOSHIP価値共創プロジェクトは、22社、1団体が共同で実施する取り組み。海事産業の企業のみならず通信やIT分野など多様な企業が参加しており、そうした業界の枠を超えた価値共創や技術を使った新しい事業と価値を創出、他産業への大きな波及効果を、同プロジェクトの3つの価値と位置づける。

デモに用いた「アーバンランチ」
左= e5ラボ CTOの末次康将氏 右=ソフトバンク グローバル事業戦略本部 衛生事業推進部 担当部長の押田祥宏氏

e5ラボ

 主催のe5ラボは商船三井、三菱商事、旭タンカー、エクセノヤマミズの4社で立ち上げられた会社。船の世界において「電気と環境技術でイノベーションを起こす」のが同社のミッションという。

 同社での取り組みの一例として、電気機関で航行するEVタンカーを手掛けている。一隻目は2022年3月に、二隻目が2023年3月に竣工予定としている。

 AIやIoTがさまざまな産業において重要な要素となりつつある近年の状況を踏まえて、通信分野においてソフトバンクが参加、洋上でのブロードバンド通信や高精度位置情報の提供を担う。

 海上は多くの場合が、通信サービスの圏外となる。e5ラボでは「ソフトバンクとの取り組みでまずは海上の圏外なくしたい」とした上で「その先には新たなサービス、コンテンツがあるのではないか」と新規ビジネスの創出にも意欲を見せた。

衛星通信と高精度位置測位を船上で実現

 報道陣に公開されたデモンストレーションでは、観光汽船興業の遊覧船で「アーバンランチ」にブロードバンド通信用の衛星アンテナや高精度位置測位サービス「ichimill」(イチミル)用のアンテナが搭載されていた。

 衛星アンテナは、一般的に見られるパラボラではなく、フェーズドアレイ式と呼ばれるもの。海上自衛隊や米海軍が運用するイージス艦のレーダーにも用いられる方式で、中に搭載されるアンテナ素子が電波を受ける。構造的にパラボラ式よりも小型化できるため、小型船舶にも搭載しやすいというメリットがある。

 デモでは、アーバンランチのキャビンの屋根にアンテナが設置されていた。アンテナは米カイメタ社製。

 通信速度は仕様上、地上で利用するのと同等の速度を得られるという。

 ichimillのセンサーは、合計で4つ搭載。船体の前方側に2つ、後方側にも同じく2つ搭載することで船がどちらを向いているかを把握できる。

 これにより、海上衝突事故の現象や遠隔地からの運行管理、将来的に自動運行につなげる狙い。

 前方ユニットの左右にある黒い棒状のものはソフトバンクのモバイルネットワークを受信するためのアンテナ。航行時にはモバイルネットワークを受信できる場合はそれを利用し、圏外に入ると自動的に衛星通信に切り替わるような仕組みになっているという。

取得した船の位置情報と下は航行中の様子

プロペラとスマホの連携なども

 デモで利用されたアーバンランチには、ほかにも多数の企業のソリューションが搭載されていた。

古野電気のソフトウェアが動くタブレット。右のディスプレイと同じ内容が表示される
船のステータス
前方カメラ

 古野電気では、タブレット端末を航海情報や船のデータを把握するソリューションを開発している。同社では手元の端末から船の多種多様なデータを取得する仕組みの構築を目指す。

 センサー情報以外にも、船前方を撮影するカメラ映像もタブレットから確認可能。同じく船に搭載されている他社製機器からのデータにも対応する。

ダイキンのCO2センサーとアロマディフューザー(森の香り)

 デモ中ではダイキンが設置したCO2センサーからの情報が表示されていた。ダイキンでは、船の空調機をスマホアプリから操作する仕組みを開発中。古野電気のソリューションと合わせてほかにも多様な機能の付加を検討しているという。

 さらに船内の環境改善の一環としてアロマディフューザーも設置されていた。このほか、船内の空気の流れの解析なども行う。

デモではプロペラの振動を取得。下はスマートフォンアプリ

 東芝では、船の残燃料(残電池量)や航海位置などを取得する端末を開発中。収集した情報をプラットフォームへアップロード。陸と海の情報を統合、船舶管理の会社などが有効活用できる港湾全体の可視化やマネージメントにつなげるという。

 また、環境管理の厳しい港湾では、再生エネルギーの利用が進むと予想。「港湾×再生エネルギー」という形の広域普及を狙うという。

 ナカシマプロペラは、プロペラの状態をスマートフォンアプリなどを通じて確認できるシステムを開発しており、これによりリモートでのプロペラの異常の発見や将来的に遠隔制御につなげたいという。

 クライマセルからは洋上のナビゲーションの紹介。同社は独自のソースからきわめて制度が高いとされる天気予報サービスを提供する企業でソフトバンクグループも出資する。

 出港時にセットされた航路で波が高かったり、悪天候が予想されると別のルートを案内してくれる。波の高さ、風向き、風力、突風、湿度、温度など60のパラメータから天候を予測、ナビゲーションするという。