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KDDI、皇居ランナーへフォーム解析や無人ショップ、18日からRun Pitで実証実験

 KDDIは、皇居ランナー向けスペース「Run Pit by au Smart Sports(以下、Run Pit)」において、新たなランニング体験の創出に向けた実証実験を開始した。期間は2019年12月18日~2020年3月31日。

 Run Pitは、KDDIと毎日新聞社が運営する主に皇居ランナーに向けたスペース。男女別のシャワールームやロッカールームを備えており、早朝や夕暮れ時は出社前・退勤後の皇居ランナーたちで賑わう。

 同実証実験は、KDDI ∞ Labo 5Gプログラムの一環。スポーツソリューションを提供するSportipと高度な画像認識技術を持つedison.aiと共同で実施する。今回、提供されるサービスは、AIを活用したランニングフォーム解析と無人店舗によるランナーズスペースの無人化の2つ。

カメラでフォーム分析

 ランニングフォーム解析は、走る姿勢を録画し、映像からフォームを解析してくれるもの。走る姿を1分間録画した後に、設置されているiPadで自らの身長や体重、トレッドミルの速力やどの程度のスピードでランニングしたいかを入力。するとプロによるランニング時の姿勢の解析結果が表示される。

左=設置されるトレッドミル 右=録画中の様子
解析結果、おすすめのトレーニングとシューズ

 走る際の足の「着地判定」の解析結果をもとに最適なランニングシューズが提示されるのも同システムの特徴。現状では、サロモン製の3種類のシューズから適したものが示される。

 解析終了後はQRコードが表示される。これをスキャンすると自分の解析結果のデータを持ち帰ることができる。

 取材時は、サロモンアンバサダーのモデルヤハラリカ氏がデモランを行っていた。氏は走る姿勢が良いらしく、解析結果は概ね高評価。

 そこで、わざと姿勢を崩して走ってもらったところ、解析には前傾姿勢になっているとの結果が。姿勢のひとつとっても細かく解析されていることがわかった。

かなりの前傾姿勢で走ってもらった
的確な解析結果が表示されている

 システムを開発したSportip 代表取締役CEOの高久侑也氏によると、将来的な目標は「フィットネスのAI化」。高額な人件費がかかるフィットネスをAI化し、ビジネス的なボトルネックを解消を図るという。

左=高久侑也氏 右=ヤハラリカ氏

 同社は「一人に“ひとつ”のコーチを」というミッションを掲げ、経済的、地理的な理由にかかわらず、最適なスポーツ指導を受けられる社会を目指す。

店員はなし、スマホだけで手軽に買い物

 Run Pitの入り口カウンターを通り過ぎ、休憩スペースのある突き当りを左に曲がると、小ぶりな販売店がある。しかし店舗は無人でセルフレジもない。

 これは画像解析を得意とするedison.ai(エジソンエーアイ)の技術を用いて実現した無人ショップだ。日本と米国で特許を取得した画像解析技術を用いたもの。事前に登録を済ませておけば、ユーザーは入店時、入り口で端末に入店用QRコードをかざすだけで買い物ができる状態になる。商品を手に取り、入口ゲートを抜けるだけで自動的に支払いが完了する。支払いは登録したクレジットカードからで、Run Pit月額会員の場合はRun Pitに登録したクレジットカード情報を引き継いで利用可能。

コードを表示
かざせば、このような表示に
あとは買い物するだけ
以外に買い忘れが多いらしいというくつ下も販売

 edison.aiの山浦真由子氏によると、同社は長年、「商品画像の認識」という観点から技術開発を行っており、今回の無人ショップはその成果を活かしたものという。一般的な無人店舗の場合、商品認識のために高性能のカメラが必要でサーバーの維持管理費などの運用コストが非常に高かった。しかし、edison.aiのシステムを用いれば、商品の一部が隠れて見えない場合やパッケージの袋がくしゃくしゃに歪んでいても認識できる。

山浦真由子氏

 このテクノロジーは、必ずしも効率化だけを追求するものではない。山浦氏は無人化でできたリソースを活用し、新たな価値創造につながればと狙いを語る。

 山浦氏は、店舗の負担を軽減することで、結果的に「出店」のハードルを下げるという展望を明かした。特にこの先の東京オリンピックなどでは、売店の出店需要が見込まれ、また地方では過疎地域などにおける高齢者の買い物難民の助けになっている移動式スーパーに同社のシステムの有用性を語る。

将来的にはARを使うサービスの構想も

 5G時代のランニング体験は、顔認証での入店やコンディションに合わせたサプリやプロテインの提供など、やはりテクノロジーと密接に結びついたものだ。

Zombie Bomber ARをプレイ中の様子

 その中にはスマートグラスを利用して、走行ルートの表示やランナー自身の生体情報の表示などのサービスを構想もある。

プレイヤーにはこのように見えている

 取材時にも、ゲームという形でARを体験することができた。ちなみにゲームタイトルは「Zombie Bomber AR」(関連記事)。迫りくるゾンビに手榴弾様の爆弾を投射して退治する。以前に沖縄で実施された実証実験でも用いられたため、ゲームが沖縄仕様だった。そのため、ときおり手榴弾が沖縄感あるものに置き換わっていた。

 なお、12月26日には、一般向けイベント「皇居ランナーズスペース Run Pitアップデート!オープニングイベント~ヤハラリカさんと走るARゾンビナイトラン~」が開催予定。ランニングフォーム解析や無人店舗を体験できるほか、ヤハラリカ氏と皇居ランを楽しめる。休憩中には、このZombie Bomber ARを楽しむことができる。

 開催時間は19時30分~21時30分。参加費は無料で、Run Pitの月額会員、都度会員のユーザーであることが参加条件となる。

ネットとリアルの融合で変わる世界

 KDDI KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏によるとKDDIのスタートアップ支援の歴史は古い。2011年、KDDI ∞ Laboで、日本の事業会社として初のインキュベーションプログラムを実施したことを皮切りに、KOIF(KDDI Open Innovation Fund)などを通して、さまざまな取り組みを行ってきた。

中馬和彦氏

 その歴史を振り返ってみると、初期にはアプリケーションの開発元が大半を締めている。これはフィーチャーフォンからスマートフォンへの過度期であったこともあり、アプリを新しく発掘してユーザーの元へ届けるという考えからのもの。

 しかし、時代が進むに連れて徐々にソフトハウスの割合は減っていく。変わって増えてきたのがリアルテック企業。ネットの中だけではなくリアル世界でのソリューションを提供する企業だ。

 リアルな世界でKDDIがソリューションを提供する際のハードルについて、中馬氏は「通信会社は、以外にネット企業。何らかのリアルソリューションを提供しようとしても、店舗や物流などリアルアセットが乏しい」と語る。

 そのためにKDDI無限ラボは変革を遂げることとなる。大手企業がスタートアップ企業を応援するパートナー連合プログラムは、十数社で始まった開始当初から現在では41社を数えるまでに成長した。投資先企業は67社に上る。

 来る5G時代にはあらゆるものがネットにつながり、より一層リアル社会がネットに取り込まれていくことが考えられる。今回のRun Pitでの取り組みは“リアルがネットに融合される”というわかりやすい例のひとつと中馬氏。

 KDDIはこれからも“ネットとリアルの融合”のため、ネットをリアル世界へ溶け込ませていく取り組みを推し進めていく。中馬氏は「あらゆるところがネットに取り込まれ、5Gで変わる世の中を提供できるだろう」と5G時代への展望を示した。

所在地情報
店舗名Run Pit by au Smart Sports
住所東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル 1F
アクセス東京メトロ「竹橋駅」1b出口直結
東京メトロ・都営地下鉄「神保町駅」A8出口徒歩5分
営業時間平日7時~22時
土日祝8時~18時 定休日なし(除く年末年始)
電話番号03-3286-8921