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5G時代にも重要性を増すWi-Fi、クアルコムが語るビジョン

 高速大容量の5G時代が到来すれば、Wi-Fiは不要になると考える人もいるかもしれない。しかし、実際には利用シーンや求める性質によって両者を使い分ける形で今後も共存していくと考えられ、次世代規格「Wi-Fi 6」(IEEE 802.11ax)の標準化も進められている。

 米クアルコムは、9月25日に開催したメディア向けイベント「Connectivity/Networking/IoT Workshop」の中で、Wi-Fi 6に向けた取り組みや、近い将来にWi-Fiがどのような役割を担っていくのかを紹介した。

増え続けるWi-Fi需要

 1999年10月にIEEE 802.11a/bが策定された当時、Wi-Fiネットワークは数台のパソコンを接続する程度のシンプルな役目を果たした。その後、スマートフォンやタブレットの普及、ゲーム機やテレビなどに加えて、近年ではスマートホーム機器でもWi-Fiを利用するようになり、家庭用ネットワークでも数十台、オフィスや大型商業施設などでは20年前の時点では考えられないほどの膨大な数のデバイスがWi-Fiネットワークに接続されるようになった。

 そして、動画などのリッチコンテンツの普及により、通信量も年々増えている。今後も増加が続く見込みで、2017年時点と比べて2022年には世界のモバイルデータ通信量は7倍、IPトラフィック全体の70%が無線、そしてモバイルデータ通信量の50%がWi-Fiにオフロードされると予測。今後もWi-Fiはモバイルにおける重要なパートであるという見方が示された。

 動画のストリーミング再生や配信、ビデオ通話などのような、高速かつ安定したインターネット接続を前提としたサービスの普及により、ユーザーのニーズも変化しつつある。ただWi-Fiスポットがあって接続できるだけではニーズを満たせず、電波強度を示すバーは何本か、十分な速度が出ているかというように、より高品質な通信環境が求められる。

 このような需要の拡大と変化に対応するための仕様がWi-Fi 6には盛り込まれている。また、複数台のルーターで家中をカバーしてシームレスに利用できるメッシュWi-Fiや、VR機器などの高速低遅延通信に適した規格として再注目される60GHz Wi-Fiも、Wi-Fiの将来像のひとつとして描かれる。

Wi-Fi 6の特徴とクアルコム製品

 多数のユーザーが接続する高密度環境を念頭に置いたWi-Fi 6では、LTEと同様のOFDMAという変調方式を採用するほか、MU-MIMO(マルチユーザーMIMO)を標準仕様に含み、帯域の利用効率を高める。1024QAMによる近距離通信の高速化、ターゲット起動時間(TWT)によるIoT機器などの省電力化も特徴だ。また、セキュリティ面では「WPA3」が必須要件となる。

 Wi-Fi 6に対応するクアルコムの製品としては、「FastConnect 6200」というWi-Fiチップがあり、ハイエンドスマートフォン向けのチップセットであるSnapdragon 855やSnapdragon 855+に内包されている。

 ルーター用のチップセットとしては、Qualcomm Networking Proシリーズを展開。IPQ8074に続く第2世代のWi-Fi 6対応チップセットで、規格上はオプション扱いとなる上りのMU-MIMOにも対応。OFDMAによる最大37台の同時通信が可能になる。12ストリームの「Qualcomm Networking Pro 1200」、8ストリームの「Qualcomm Networking Pro 800」、6ストリームの「Qualcomm Networking Pro 600」、4ストリームの「Qualcomm Networking Pro 400」をラインアップする。

メッシュWi-Fiの普及

 もうひとつの流れとして、複数台のルーターを組み合わせて家中をカバーする「メッシュWi-Fi」というカテゴリーの製品が増えつつある。どの部屋に移動しても同じSSIDで切り替え不要、シームレスに利用できる環境を中継器などを使う場合と比べて容易に構築できるという物で、米国ではすでに通常のWi-Fiルーターの販売台数を追い抜くほど急速に普及しているという。

 クアルコムもメッシュネットワーク機器向けのプラットフォームを提供しており、ASUSやネットギアの製品に採用されている。ネットギアの「Orbi Voice」などのように、メッシュWi-Fiルーターにスマートスピーカーの機能を組み込んだ機器も登場しているため、オーディオ機器向けチップセット「QCS400シリーズ」にもメッシュネットワーク対応のオプションを用意した。

 また、メッシュWi-Fiの技術を応用して、電波で人やペットを検知する「RFセンシング」という技術も提案されている。