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医療に災害対策、古文書の読み取りまで――AIによる社会課題の解決を目指すGoogle

 グーグルがAndroidスマートフォン向けに提供している「音声文字変換(Live Transcribe)」は、話した言葉をリアルタイムでテキスト化するアプリだ。10日にグーグルが開催したアジア太平洋地域のメディア向けAI関連イベント「Solve with AI」に登壇した、プロダクトマネージャーのサガー・サブラ(Sagar Savla)氏は、「このアプリで耳が遠くなった祖母も会話の輪に入れるようになった。そしてようやく私の仕事を解ってくれた」と笑いつつ語る。

ジェフ・ディーン(Jeff Dean)氏

 「グーグルはAIでさまざまな社会課題に取り組んでいく」と宣言するのは、同社のAI部門のトップを務めるジェフ・ディーン(Jeff Dean)氏。同社は「音声文字変換」のようにユーザーがスマートフォン上で利用できるアプリという形に限らず、医療や防災などさまざまな分野でAIによる課題解決を目指している。

 今回のイベントでは、アジア太平洋地域における同社やパートナー企業によるAIの活用事例を紹介。また、2018年6月に発表した「AIの基本方針」に関する取り組み(※関連記事)、他分野でもAIや機械学習を広く活用してもらうためのツールやトレーニングプログラムの公開などについても報告された。

サガー・サブラ(Sagar Savla)氏

コミュニケーションへのAIの活用

 冒頭で紹介した音声文字変換は、いわばコミュニケーションの課題をAIで解決した事例だ。聴力が落ちた高齢者との会話という身近な課題に対して手軽に導入できるように、全世界で20億台が稼働しているAndroidというプラットフォームを選んだ。

 ただ単語のひとつひとつを音声認識で羅列していくのではなく、文章の意味が正しく伝わる状態で文字に起こすということにAIが活かされており、たとえば“Buy a new jersey in New York”といった文であれば、「洋服のジャージのことで、ニュージャージー州ではない」と文脈を判断した上で処理される。

 また、発話障害がある人の発話パターンや発音にあわせた音声認識エンジンのチューニングなども研究が進められている。

病気の早期発見や災害対策にもAIを

 インドやタイでは、医療分野におけるAIの導入が検証されている。糖尿病性網膜症や肺がんの早期発見など、ディープラーニングによって専門医レベルの精度で検出できることが分かった。規制の厳しい分野であり、すぐに多地域で展開することは難しいが、糖尿病性網膜症の判定については欧州でも当局の認可を受けている。

 災害対策でもAIの活用が進められており、洪水をシミュレーションするための高解像度なエレベーションマップを作成。むやみに情報量を増やすのではなく、ニューラルネットワークを活用して水の流れに大きな影響を与えない建物などを取り除き、被害予測を迅速に行えるように最適化している。これはGoogle検索への表示やAndroidスマートフォンへの通知によるパブリックアラートに活用されるほか、政府やNGOとの連携も進められている。

 このほかにも、絶滅危惧種の海洋生物が発する「音」を検知することで生息状況を把握する試みや、森の中にソーラーパネル駆動のデバイスを配置して人間の耳では聞き取れないような遠くのチェーンソーの音まで分析、違法伐採を阻止する試みなどが紹介された。

古文書の「くずし字」をAIで読み取り

 日本でもグーグルのAIを活用した事例はある。たとえば、国立がん研究センター東病院では、がんゲノム医療における解析プロセスの短縮にAIを活用する研究が行われている。

 情報・システム研究機構 人文学オープンデータ共同利用センターの特任研究員で国立情報学研究所にも所属するカラーヌワット・タリン(Tarin Clanuwat)氏は、「くずし字」を機械学習で認識させる研究をしている。

 膨大な数の古書が残っているにも関わらず、現代の日本人のほとんどが「くずし字」を読み取れないためにごく一部の人しかその情報にアクセスできないという現状を、タリン氏は文化保全の観点から危惧する。タリン氏は、国文学研究資料館のくずし字データセットやグーグルのAI技術を活用しながら、くずし字OCRシステム「KuroNet」を開発。1ページ分の文字を2秒で書き起こすという高速なシステムで、現時点では16冊分のサンプルデータが取り込まれており、85%程度の認識精度だという。

 同日午後に開催された、日本におけるAIの取組みに関する記者説明会では、AI人材の育成と技術活用の促進、AI研究への貢献を目的とした取り組み「Google AI for Japan」が発表された。

 教材やツール、研究者への助成金の提供などを行うほか、機械学習に特化した開発者向けイベント「Google Developers ML Summit」を開催する。