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水中光技術で新ビジネスを開拓、「水中LAN」を目指すALANコンソーシアム

 電子情報技術産業協会(JEITA)の「共創プログラム」の一環として2018年6月に設立された「ALANコンソーシアム」は7日、水中光無線技術の現状と活動実績を報告する記者説明会を開催した。

水中光技術で新ビジネスを創出

ALANコンソーシアム運営委員 海洋研究開発機構 吉田弘氏

 ALANコンソーシアムは、海中をはじめとした水中環境を1つのローカルエリアネットワーク(LAN)と位置付ける。「水中LiDAR」「水中光無線通信」「水中光無線給電」の3つを柱として、従来は音波通信などの限られた通信手段しか使えなかった水中のICT環境を改革。新たなビジネスの創出を目指す。

 技術開発ベンチャーのトリマティスが代表を務め、会員として海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、千葉工業大学、東海大学、東京工業大学、東北大学、名城大学、山梨大学、早稲田大学、KDDI総合研究所が参加している。

 海洋研究開発機構の吉田弘氏は「日本は海洋国家というが、まだ海に囲まれているだけの国」と、宇宙に次ぐラストフロンティア領域として各国が注目する海洋資源を活かしきれていないことを指摘。

 世界で6番目に広い領海と排他的経済水域を持つ地理的優位性に加えて、海洋研究開発機構らによる水中光無線通信技術や、水中での伝搬減衰が少ないため水中光無線通信において重要度の高い青色LEDの開発といった技術的優位性もあり、世界をリードできる可能性があると語った。

「水中の可視化」を目指す、まずはインフラ点検や漁業から

ALANコンソーシアム運営委員 産業技術総合研究所 森雅彦氏

 水中光無線通信技術による通信速度やレイテンシーなどの詳細な仕様は明らかにされていないが、近距離であれば画像の送信ができる程度、少し距離が離れてもロボットの制御ができる程度の能力となる見込み。通信可能範囲は、水の状態や水上からの外来光によって左右される。

 産業技術総合研究所の森雅彦氏は、具体的な市場イメージを説明。ALANコンソーシアムが最初に取り組むのはLiDARなどを活用した「水中の可視化」で、インフラ点検や漁業、アミューズメントなどの分野で実用化を目指す。

 インフラのメンテナンス市場では、2023年には全国の橋梁の43%が建設から50年を迎える一方、現状ではクラックの点検などをダイバーによる目視確認に頼っている。危険の伴う作業で高齢化による人手不足も深刻化しているといい、高精度な計測が可能なLiDARセンサーを搭載した水中ロボットのニーズがある。

 また、地震などの災害が多い日本において海中調査は各所で行われており、同様に水中カメラやLiDARセンサー、測定機器を水中通信技術でつなぐソリューションが活用できる。

 漁業分野では、世界的な人口増加と水産物需要の高まりによって供給量確保が課題となり、「スマート水産」や「陸上養殖」といった取り組みが各社で進められている。この中で生まれたニーズとして、センサーによる魚数や水質の効率的な管理や、生育状況をリアルタイムで把握できる仕組みが求められる。自動給餌システムなどと組み合わせて、ここでも水中光技術の活路が見出だせる。

ミドルクラスの水中LiDAR搭載ロボットを開発

ALANコンソーシアム代表 トリマティス 島田雄史氏

 ALANコンソーシアムメンバーによる共創の第1弾として、代表のトリマティスが主体となり、水中LiDARおよびそれを搭載する水中ロボットの開発が進められている。

 用途としては橋脚やダムなどの水中構造物検査を想定し、先述のように今後数年間で大幅な需要増加が見込まれるインフラメンテナンス市場をターゲットとしている。

ROVに搭載した水中LiDAR試作機

 今回披露された開発機は、分解能5mmの高分解能水中LiDAR。水深10m以上で利用できる耐水性を備え、ROV(遠隔操作型の無人潜水機)に搭載できる。

 「水中ドローン」などとも呼ばれるROV/AUV市場は近年急激に成長しており、数十万円程度のレジャー向けモデルから海洋調査などに使われる数千万円規模のAUV(自立型無人潜水機)まで、その価格帯は幅広い。

 一方で、トリマティスの島田雄史氏によれば、その中間となる数百万円程度のROVは少ないといい、同社の「Aqua-Pulsar Robo」は水中ビジネスに活用しやすいミドルクラスの製品として実用化を目指す。