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「グローバルで戦うと最初から決める」、世界で成功する日本のゲーム会社が語る秘訣とは

 「世界的なセレブとのタイアップ」「数多くの言語への対応」「「ゲームそのものをシンプルにすること」――11月15日、グーグルのイベント「Go Global」において、世界市場で一定の成功を収めた日本のゲーム企業のキーパーソンがその秘訣を明らかにした。

左からグーグルのキム氏、スクウェア・エニックスの藤本氏、KLabの森田氏、トランスリミットの高場氏

 具体的な取り組み例が紹介される一方で、キーパーソンたちは「グローバルで戦うと、最初から決めて挑むことが最も重要だ」と口を揃える。

異なるポジションの3社が挑むスマホゲーム市場

 自らの体験を披露したのはスクウェア・エニックス、KLab、トランスリミットの3社のキーパーソンだ。

 スマートフォンというデバイスを通じてゲームを提供するという1点では共通するものの、3社のポジションや現在までの歩みは大きく異なる。

 たとえばスクウェア・エニックスは「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」とゲームに多少なりとも親しむ人であれば、誰もが知る企業。今回取材に応対していただいた藤本広貴氏は、もともとドラクエのファンでエニックスに入社したものの、現在は「Final Fantasy ブレイブエクスヴィアス(FFBE)」グローバル版プロデューサーを務める人物。

藤本氏
FFBEのグローバル版を担当する

 KLabは携帯電話向けコンテンツの裏方として長く活動し、2010年からゲーム提供を開始。著名なコンテンツ(IP)を活用しており、スマートフォン向けゲームの雄とも言える存在。KLabチーフコンテンツオフィサーの森田英克氏は同社のゲーム事業を統括し、「キャプテン翼」や「BLEACH」などのゲームアプリを展開している。

森田氏
人気IPのゲームを展開

 トランスリミットは、創業から間もなく、スタッフも20人規模で、いわゆるスタートアップにあたる。だがCEOの高場大樹氏によれば、3つのゲームアプリで計6000万ダウンロードを達成し、ユーザーの95%が海外という驚異的な実績を達成したという。

高場氏
トランスリミットのコンテンツ

日本の人気作品、すぐ受け入れられる?

 「日本のコンテンツは海外でも愛されている。だが、(Play Storeの管理画面で)配信国を増やすとすぐ遊んでもらえるのかと言えば、そう簡単ではない」と説明するのは、Google Play Apps And Gamesコンテンツ開拓担当でゲーム部門の日本統括部長であるキム チョンサ氏。

キム氏
20億以上の端末がアクティブというAndroid

 今や、グローバルで20億台以上のAndroidデバイスが利用され、1カ月間に80億件もアプリがダウンロードされている。年々、スマートフォンが進化する一方で、いわゆる先進国と新興国、開発途上国では、利用されるスマートフォンがローエンドかハイエンドか、あるいは通信環境の違いが大きい。そこでグーグルではアプリのサイズをコンパクトにできるツールなどを提供。ゲーム開発会社は、先進国では課金型、新興国では広告ベースで収益を得る形が主流という。

世界的セレブとのコネクション

 そうした中で、スクウェア・エニックスの藤本氏が最近実施したのは、人気アーティストであるアリアナ・グランデとのコラボレーション。「FFBE」内にアリアナ・グランデのキャラクターが登場したほか、楽曲をFF風にアレンジするといった取り組みを行った。

世界的アーティストとのコラボ

 すると、アプリのダウンロード数は前日までの330%へと急上昇し、強烈な実績を記録する。藤本氏は、アリアナ・グランデの起用について「げーむ以外の一般紙でも話題になった」と大きな効果をもたらしたと振り返りつつ、世界でもトップクラスの知名度を持つ人物とコラボレーションはそもそも難しい、と説明。「アリアナのお母さんの友だちから攻めていった」(藤本氏)と特別なルートを開拓していったエピソードを披露した。12月に予定するファン向けイベントで何か発表できるかも、と新たな取り組みを示唆した。

爆発的にダウンロード数が伸びた
今後の展開も示唆

アラビア語にも対応するKLab

 国内外で人気の作品をもとにしたスマートフォンゲームを主軸に据えるKLab。森田氏は大前提として、ファンの期待にきちんと応えるゲームに仕上げる必要性を指摘する。

KLabの代表的な取り組み

 その上で同社の特徴として森田氏が紹介したのはアラビア語の対応。欧米の言語や中国語、韓国語への対応は、先述した「FFBE」でも採用されているが、KLabでは2018年からアラビア語へ本格的に対応。たとえば「キャプテン翼」のゲームは、日本、香港、中東、そしてフランスといった順で売上が高い。

 社内体制としては、ローカライズ専門のチームを設置し、言語面をリードする責任者を任命している。国や地域によって異なる法律も、法務部門と横断的なやり取りができるよう体制を整備。独自のルールを制定することもある欧州などのルールへきちんと対応してきた。

 世界でヒットするコンテンツを抱えるKLabながら森田氏は「スタッフがいないのでお金もかけられない」と説明。そこでシステム側では、アプリを言語ごとに作り分けるようなことはせず、通貨管理や多言語対応などをひとつのビルドで対応するようにしている。さらに運営についても、地域ごとに分割することはせず、日本に集約。日本のコンテンツをベースとしていることから、「日本のカルチャーに理解のあるユーザーと割り切った」(森田氏)。

公式放送やゲーム内イベントを活用
ローカライズでは言語の責任者を置く

 国内外で実施するマーケティング施策のうち、有効なものとしては、リアルイベントやゲーム内イベントで新たな要素を予告しておき、YouTubeのコンテンツ公式配信で紹介するという流れだという。ユーザーの関心を高めておき、配信によってインフルエンサーやSNSを通じて拡散されることで、コアユーザーにきちんと情報が行き渡ることがわかった。ただ、これはファン層がしっかりしており、コミュニティの強さがあったからこそ有効だったと森田氏は語る。

 ネット上での広告配信として、アドネットワークについては、海外に全て委託することはなく、自社でも運用するようにしたところ、担当者のスキルが向上し、現在は半分程度、インハウスで対応できるようになった。

海外ユーザーが95%のトランスリミット

 企業としては小規模ながら、グローバル市場に受け入れられるゲームタイトルを提供するトランスリミット。これまで、キャラクターをユーザー自身がカスタマイズできる「クラフトウォーリアーズ」や、2つのボールをぶつけることを目指すパズルゲーム「ブレインドッツ」などを展開してきた。

 当初から多言語対応に注力しており、今後は18言語に対応する方針という同社。シンプルなゲーム内容もさることながら「クラフトウォーリアーズ」で好みのキャラクターをカスタマイズできるという要素は、数多くの国で展開する中でそれぞれのエリアにあわせていくことは難しく、ユーザー自身の手で生成し、それをユーザーが広められるように用意された機能だ。

 そんな同社では、数多くのアプリが存在する中でも初めての体験が得られるようなゲーム性、言葉を尽くさずともプレイ内容がわかるシンプルさ、地域を問わずに受け入れやすいテーマ性などを重視する開発方針を採っている。

トランスリミットが掲げる7つのツール

 そうした中、欧米では「ハイパーカジュアル」と呼ばれるジャンルのゲームアプリへの注目が高まりつつある。動画広告の普及や、アプリ本体をインストールせずとも試遊できるInstant Appsといった仕組みによって、ゲームのダウンロード率が高まり、プレイ回数も増えており、そうしたアプリが「ハイパーカジュアル」と呼ばれるようだと語る高場CEOは、現在、「ハイパーカジュアル」に注目してるのだという。

3社が口を揃える「最初から世界で戦うと決めること」

 ゲームの開発方針や、普及に向けた取り組みなど、三者三様の取り組みでグローバル市場での戦いに挑むことが明らかにされた一方、3社のキーパーソンが口を揃えたのが「最初から世界で戦うと決める」ということだった。

やると決めたらやる

 スクウェア・エニックスの藤本氏は「やると決めたらやる。会社規模が大きいとまず日本版をローンチし、成功したら海外という考えが多い。しかし日本で必ず成功するわけではない。FFBEはまさにそういう考え方だった」と説明。

現場から動かす

 KLabの森田氏も「会社がしっかりすることがスタートライン。もし会社がなかなか動いてくれないという開発者の方がいたら、この記事をプリントアウトして上司を説得するのはどうか」と経営陣ではなく現場からでもできることはあると説明。

 さらにマンガやアニメなどの人気のコンテンツを持つ企業に対しても「日本のゲーム開発会社をパートナーにして欲しい。海外で受け入れられているゲームの大半は韓国、中国、欧米の企業のもの。この現状が続けば日本のゲーム会社は世界で戦えなくなる」と同じ日本企業として力をあわせる意義を熱く語る。

最初から世界を目指す

 トランスリミットの高場氏は、「世界を取りに行くと最初から考える。そこを目指さないとできないと思う」と説明し、実際にこれまで同社はその路線を選択してきたと振り返る。

 さらに同氏は「「成功者も必要。この会社はこうあって成功したというもの。これまでは日本でうまくいっている、特定のタイトルなら上手くいってるというケースが多い。(海外での新たな成功事例となる)先駆者が必要かなと思う」とコメント。

Google Play Points、海外でも

 現在、グーグルが日本市場だけで提供する「Google Play Points」は、アイテム購入など課金するとポイントが付与されるプログラム。

 藤本氏はGoogle Play Pointsに「非常に魅力的」と評価。さらにギフトカードのように、オフラインでユーザーへアプローチできることも「ありがたい」とコメント。

 こうした開発者の声に、グーグルはどう対応するのか。グーグルのアプリ&ゲームビジネスデベロップメントディレクターのプーニマ・コチカー(Purnima Kochikar)氏は、重要な日本市場でGoogle Play Pointsをローンチしたことで検証もあわせて進めていると説明。その上で、時期は未定ながら「世界へ展開したい」と意気込みを示す。コチカー氏は、日本でのサービス状況で課題を洗い出す段階であると解説。「時間の問題だと思う」と述べ、Google Play Pointsのグローバルへの展開に前向きな姿勢を示していた。