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孫氏、スプリントとT-mobileの合併に熱弁振るう

楽天参入に「刺激がある」と余裕の面持ち、ソフトバンク上場準備にもコメント

 最初は規制当局の反対で頓挫、その次は経営権にこだわって流れた。しかし三度目の正直で今回正式に合併――米国の携帯電話事業者で、子会社であるスプリント(Sprint)と、その競合だったT-mobile USの合併について、9日、ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏が熱く語った。

 決算会見の席上ながら、その内容は、米国内の携帯電話業界の競争を産み出し、近く到来する5G(第5世代の携帯電話向け通信規格)時代においてネットワークの広がりをもたらすことをアピールするなど、これから許認可を下す米国の規制当局に向けたかのような内容。その一方で、スプリントの経営権を見送ったことの背景には、孫氏がここ最近強く打ち出す「群戦略」があるのだとも説明し、ソフトバンクグループとしては自然な流れと位置づける。

T-mobileとスプリントのトップが握手する場面を紹介

 一時は破談になったT-mobileとの合併について、孫氏は「経営権を手放すべきではない、対等の権利を持つべきだと侃々諤々にやって(交渉を重ね)その結果、破談になった。(合併に至った今回は)経営権について妥協した。妥協はある意味恥ずかしい。たった半年で翻意したとも言われるだろう。だが一時の恥、退却は長い目で見ると勝利になる。(判断の変更に与えた影響としては)群戦略が大きい」と語る。

群戦略で300年企業目指す、ただしソフトバンクの経営権は保持

 孫氏の言う「群戦略」とは、さまざまな分野において上位にある企業をグループとしてまとめて連携していくという考え方。ソフトバンクグループは“戦略的持株会社”として中心に位置しつつ、各分野の企業への出資を2~3割にしつつ、同社グループ全体で300年間に渡る成長を目指していく。

 スプリントとT-mobileの合併が無事行われれば、ソフトバンクは新会社の株式の27%を保有する。売却ではなく合併であることは、ソフトバンクグループが米国を最も重要な市場と見ているため、と孫氏。米国の携帯電話市場にとっては、シェア上位のベライゾンやAT&Tと競争できる規模になり、5G時代に向けてネットワーク設備への投資などから新規雇用も期待できる、とそのメリットを強調する。

 群戦略を主軸にすることになったソフトバンクグループにとって、国内携帯電話事業を手がけるソフトバンクの株式上場の準備も、そうした戦略に沿ったアクション。ただ、日本はソフトバンクグループにいわば地盤であり強みを持つこと、海外で出資した有望企業の着地点の1つとしても十分な経済的規模を持つ市場であり、受け皿たり得ることから、ヤフーとともにソフトバンク株式会社もまた中核企業と説明。そのため、群戦略の一環としての株式上場を狙いつつも、出資比率については「そこだけは何でもありではない」(孫氏)として、経営権をきちんと保有できる形にすることを示した。

Arm、数年後に再上場

 このほか、近年のソフトバンクグループにとって最大規模の出資だった英Armについては、ソフトバンクの傘下になって以降、一気にエンジニアの数を増やしていると説明。IoT時代で1兆個のデバイスにArmの技術が搭載されていけば、この3月にArmが発表したチップ型のSIM「iSIM」も取り込まれ、ソフトバンクグループの携帯電話回線にも寄与すると説明。孫氏はArmについて「5年後、7年後にもう一度上場させる。再上場のときには、生まれ変わったほど高収益な会社になる」と自信を見せた。

楽天参入に「いろんな意味で刺激」

 質疑応答で、楽天が正式に国内携帯電話市場へ参入することになったことを問われた孫氏は「三木谷さんは大変優れた事業家だと、一事業家として評価している。健闘を祈っている。ライバルとして迎え撃つが、ソフトバンク側でも切磋琢磨する」とコメント。

 楽天の参入にはいろいろな意味で刺激がある、と語った直後に、自分自身で「余裕のある発言だな」と照れ笑いを見せる。

サイトブロッキング

 漫画や映像など海賊版サイトへの対策として、政府の意向などを受けて、NTTグループがアクセス遮断、いわゆるサイトブロッキングを実施する方針を発表している。

宮内氏

 これに対し、ソフトバンクでは対策の必要性は認めつつも、憲法で保障された「通信の秘密」を侵害する懸念などを挙げて、慎重な姿勢を見せてきた。決算会見であらためて考えを問われると、ソフトバンク代表取締役社長の宮内謙氏は「著作権侵害は放置できないが、一方で、通信の秘密や法制度の問題がある。何が実行可能か検討している。NTTさんはブロックされるとのことだが、我々も社内で議論した。どうしても両方の意見が強くある。線引きが非常に難しい。国が立法化するなどいろんな議論がなされるだろう。その上で対応していきたい、というのが我々の見解」と語った。

 この場面で孫氏は口を出すことはなく、宮内氏に一任。群戦略の説明なども踏まえると、先の楽天に関するコメントで見せた余裕やサイトブロッキングに関する姿勢など、孫氏の関心が国内携帯電話市場よりも他の分野に移っていることがあらためて示された格好だ。