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KDDI、運転席に人が座らないレベル4の自動運転デモを披露

 5月8日~10日にかけて福岡国際会議場で「第16回 アジア太平洋地域ITSフォーラム2018福岡」が開催されている。同イベントに協賛するKDDIは、運転席に人が座らないレベル4の自動運転のデモを報道関係者向けに公開した。

運転席に人がいない“レベル4”の自動運転

 デモの会場となったのは、福岡県大野城市にある西鉄自動車学校 バス研修センター。皮肉にも、自動運転が商用化されると真っ先にリストラの対象となりそうなバスの運転手を育成する場所である。

 デモにはトヨタのエスティマをベースに自動運転仕様にカスタマイズされた車両が用いられ、天井に取り付けられたレーダーで周囲の状況を把握し、走行・停止する。念のため助手席にはオペレーターが座っているが、運転は自動で行われる。

 車両は、一般道を模して作られた大型バスの教習を行うコース内に設定されたコースを走行。交差点や複雑に曲がりくねったS字カーブ、坂道などを正確に走り、踏切では一旦停止する。コース上に置かれた障害物の手前では自動停止し、遠隔地(福岡国際会議場)のオペレーターに運転を交代。障害物回避後は再び自動運転に戻る。

 福岡国際会議場とはLTE(4G)や光ファイバーで構成されるネットワークで結ばれており、展示会場内のブースから車載カメラの映像を確認しながら障害物を避けて通る操作を行う。今回のデモではLTEを使用していることから、5Gに比べて遅延が大きく、走行速度は15km/h程度となっている。

 誰もいない運転席でハンドルが自動的に左右に回る様子は不気味でもあるが、走行自体は至ってスムーズ。ただ、障害物を発見して停止する際の減速はやや機械的だった。

走行開始
自動停止~遠隔操作で障害物回避
踏切
車内の様子
福岡国際会議場からの遠隔操作

自動運転時代を通信で下支え

 今回のデモは、KDDI総合研究所が通信効率化や運用監視に関する技術検討、KDDIが通信環境の安定化と5G導入の検討、ティアフォーが遠隔監視・制御システムの開発、アイサンテクノロジーが自動運転用地図の作成と車両の準備という役割分担で実施された。

KDDI ビジネスIoT企画部 部長の原田圭悟氏
KDDI総合研究所 執行役員 コネクティッドネットワーク部門 部門長の大谷朋広氏

 KDDI ビジネスIoT企画部 部長の原田圭悟氏は、同社が2000年代初頭からM2M/IoTに取り組んできたことを紹介。自動車関連では2002年にはトヨタのG-BOOKに取り組み、2016年にはトヨタ向けにグローバル通信モジュールを供給するなどしている。

 同氏は、自動運転時代の通信では従来より大容量・高速かつ低遅延であることが求められ、実現にあたっては2020年に商用化される予定の5Gが適していると語る。

 内閣官房IT戦略室が「官民ITS構想・ロードマップ2017」で定めた定義では、自動運転にはレベル0~レベル5の段階が設定されている。今回のデモは、その中で2番目に高度なレベル4に該当し、走行エリアは限定されるが、運転席は無人の状態となる。

 レベル3までは、万が一の場合に備えて運転席に人が座り、周囲の状況に目を配る必要があるが、レベル4以上ではその必要が無くなる。このため、走行中にスマートフォンを操作するなど、運転以外のことが行える。また、面倒な車庫入れを車に任せたり、スマートフォンで呼び出して迎えに来させたり、今までにないメリットが生まれる。

 同氏は、まずは路線バスなどのルートが決まったものから自動運転の導入が始まり、その後、一般の乗用車への導入やカーシェアリングなどのサービスへの導入が進むと今後を見据える。「我々はそこを下支えしていきたい。5Gでデータを集めれば、渋滞を回避できる仕組みも作れる」(同氏)という。

 また、KDDI総合研究所 執行役員 コネクティッドネットワーク部門 部門長の大谷朋広氏は、今回のデモで用いたシステム構成を紹介。

 車両には運転者視点用のカメラ5つと車内カメラ1つ、上部にセンサーを装備。自動運転には名古屋大学で開発が進められているオープンソースソフトウェア「Autoware」を用いている。車両後部には運転制御や通信用の機材を搭載。

 一方、福岡国際会議場側の遠隔監視卓は、市販のゲーム用ステアリングホイールとペダルとパソコンという簡単な構成。ステアリング裏のパドルでウインカーを出したり、ステアリング上のボタンでハザードを点滅させたりすることもできるという。

 なお、イベント開催期間中は、人数の制限はあるが、来場者向けにも試乗デモが実施されている。

 完全な自動運転の商用化に向けては、まだまだクリアしなければいけない課題も多いが、快適に自動運転を使いこなす上では、5Gをはじめとするモバイル通信技術が大きな鍵を握っている。