ニュース

KDDIが「医療介護×IT」を加速、日本エンブレースと

 KDDIは、ソーシャル医療介護連携プラットフォームを手がける日本エンブレースと資本業務提携を結んだ。医療・介護の現場をITで支援していく。KDDI側からの出資額や今後の売上目標は明らかにされていない。

日本エンブレースの伊東氏(左)とKDDIの石崎氏(右)

6万人の医師が利用

 今回、KDDIとタッグを組む日本エンブレースでは、医療関係者と患者を結ぶソーシャルサービスと「MCS(メディカルケアステーション)」を提供している。2013年の立ち上げ当初は、ソフトバンクテレコムと協力してオープンしていたが、その際、ソフトバンク側との資本関係はなく、その後提携関係は終了していた。

医療従事者向けの画面
特定の用途に特化した機能も
患者向けの画面

 MCSを使うことで、患者は医師や薬剤師、介護関係者といった医療従事者との間で、日々の生活の中で運動した内容や、病状、あるいは服用した薬の記録といった情報をシェアできる。

 もともと医療介護の現場では、FAXや電話、口頭で、患者の医療情報を共有してきた。日々の業務の一環だが、アナログな手段でのやり取りはそれなりに手間がかかる。SNSのようにつぶやくだけで一斉に医療従事者同士や患者と必要な情報をシェアできることは、ある種の衝撃を与えたようで、高く評価された。

 医療従事者や患者にとっては無料で利用できることもあり、これまでに全国に891ある医師会のうち、207の医師会、6万人の医師(患者数は非公表)に利用されている。日本エンブレース代表取締役社長兼CEOの伊東学氏は、ユーザー規模を表わす「6万人の医師」という数字は単なるアカウント数ではなく、医療現場の利用実態を表わすものとアピールする。

「MCSは、IT化進む医療分野の中核」

 一方、通信事業者であるKDDIがなぜ、MCSとの関係を作るに至ったのか。

 かねてよりKDDIでは、手軽に健康状態を把握できる「スマホdeドック」などを展開するほか、グループ会社を通じて生命保険も展開してきた。そうした中でMCSに着目したのは、医療/介護の現場でIT化が急速に進んできたことが背景にある、と語ったのはKDDIバリュー事業本部の岩崎昭夫担当部長。

 同氏によれば医療分野では、医療機関の診察をネットで予約できる、といったシンプルな用途だけではなく、電子カルテのクラウド化、そして遠隔医療についても診療報酬が改定(2018年4月より適用)されている。

岩崎氏
「医療介護分野で、電子カルテのクラウド化や遠隔医療の診療報酬改定などIT化が急速に進展している。その中で中核は何か検討してきた」

 そう説明した岩崎氏は、MCSというプラットフォームが、今後優れたサービスを実現させる血液血管のようなものと位置づける。

 患者が自宅に居ながら利用する「在宅医療」のほか、今後は病状の悪化を防ぐ「重症化予防」、治療を終えたあとのリハビリなどを進めやすくする「予後管理」などでの活用を見込む。さらには遠隔医療、子育て支援、高齢者支援など活用シーンを広げていく。

 岩崎氏は、具体的な協議はこれからとしつつも、民間の保険会社のような存在がMCSを導入し、重症化予防プログラムとして活用することもあり得ると、今後の狙いの一端を明かす。これは、病気の備えとして活用されてきた保険サービスが、今後、健康維持へシフトすることを踏まえたもの。これまでは医療から離れ、運動支援や食事の指導といった程度しかできず、医師が介入するほどの健康改善までは立ち入れなかった。しかしMCSで医療関係者と患者のコミュニケーションが可能になればこれまでにない新たな取り組みになる、という目論見だ。

 日本エンブレースの伊東社長も、MCSの肝が、実は多くの医療関係者に利用されていることにあると説明。これまでの環境では、さまざまな医療関係者や患者を繋ぐ部分が欠けており、MCSがその部分を担っていることが大きな差別化ポイントだという。

 コミュニケーションという部分だけ見ればLINEのようなメッセージングサービスでも代替できそうだが、MCSでは「疾患テーブル」「患者テーブル」「パーソナルヘルスケアテーブル」など、活用しやすいよう医療データベースが整備されている。MCSの仕掛けは、日本エンブレースが特許として保持しているとのこと。現時点で、医療データをビックデータとして分析することはしていないが、保持するデータベースが今後、さまざまな活用に向けた礎になることも大きな要素と語っていた。

 KDDIでは今後、利用の拡大を目指しつつ、新サービスの企画開発を日本エンブレースとともに進めていく。